9月15日、小説家の町田康氏と画家の寺門孝之氏による『東山道エンジェル紀行』(左右社)が刊行された。
当て所もなく山野や町を歩き進める「追放者たる俺」。それを着かず離れずの距離感で監視する存在「案内侍」と、空を旋回する「軽発機」。「泣き女」「人虎」「水中舞踏家」などに出会いながらも不毛な旅を続ける「俺」の行く末やいかに——。
本書のデザインは秋山伸氏によるものだ。ネオンピンクのカバーをめくると、一回り小さいピンク色の冊子が。ここから始まるのが全8章のうち4章までを占める前半のストーリー。間には処々に、ハガキほどの大きさにプリントされた寺門さんのドローイングを挟みこんでいる。
後半の冊子はストーリーの展開に合わせ、濃い灰色の紙を採用。こちらも一部のページに、最終章「かたまった夕景」に呼応するかのごとく、儚い光を想起させる黄色のドローイングがプリントされている。
前後半を通じて特徴的なのは、大きめの級数とマージンの狭さ。「文字を大きくしたのは、絵を重ねた時にも読めるように。マージンを狭くしたのは、常に追われ監視されている『俺』の緊張感を演出するため」と秋山さん。字の大きさから感じられる旅路の自由さとマージンの狭さから感じられる息苦しさ。相反する要素が共存する計算されたアンバランスさは、本書の異質な世界観を体現している。
さらに前半と後半の間には、寺門さんが今回の刊行にあたって描き下ろした絵画を畳んで挟み込んだ。ガーゼのような生地に描かれ、裏表に沁みた絵は、前後半のストーリーを溶け合わせ、同時に本書を象徴する存在でもある。
なおピンクのカバーを開くと、そこにも寺門さんのドローイングが。
このように複雑なつくりの本書は、手作業で造本がされた。
「デザインを優先した結果、機械には乗らず、edition.nordのOBやOG、神戸芸術工科大学の学生に協力してもらって制作しました。機械でつくれなければ手があるじゃないか、と。制作の経緯にはこうしたパンクのDIY精神に通じるものがあったと思います。流通させる本はデザインが画一的になりがちですが、こういった特殊解が存在できるということが、本づくりの新たな態度の呼び水になればいいな、と。そのために、ゼロから試行錯誤を重ねた制作過程も今後公開していきたいと思っています」。
(本内容は月刊『ブレーン』2021年12月号にも掲載しています)。
スタッフリスト
- 装丁
- 秋山伸+宮原慶子
- 印刷+製本
- チクチク・ラボラトリ― by edition.nord