選手へ「僕がもしフェンシングのメインスポンサーだったら降りてる」
権八:選手たちにはどういうこと言ったんですか?「こういうことやってもらうよ」みたいなことで。
武井:太田くんがかなりの額のスポンサーシップを集めてきたので、太田くんが会長になる前と比べてフェンシング協会は経済的には潤ったんですね。だけど僕が選手たちに一番最初に言ったのは「正直、僕がもしフェンシングのメインスポンサーだったらスポンサー降りてるよ」って。
「メインスポンサーのゴールドスポンサーで、広告的な意味合いでこの額を払っているとしたら、広告価値としては非常に低いものしかリターンできてないと思う」っていう話をして。「皆さんはスポーツやってると『スポンサー』という言葉をよく口にするし『スポンサーお願いします』って言うけれども、スポンサーってただの支援者って意味だけじゃなくて広告主。だからスポンサーされた側が担うべきは企業や商品、サービスを広く世の中に知らせることが大事。『競技を強くするためにお金くれた』っていうだけじゃないからね」って。
「みんながやってる活動って素晴らしいし、実力も素晴らしい、日本トップクラスのものがある。だけど、みんなの競技を僕ですらあんまり見たことない。スポーツにこれだけコミットしてる武井壮が、フェンシング会場に1回も行ったことないです。日本選手権はどこでやってるのか僕正直今日まで知りませんでした」と。「今どのぐらいのスポンサーシップが集まってるかもだいたい理解してるけれども、この状態ではその額の分社会に還元できてないと僕は思います。だから僕の代になったら、あなたたちには間違いなく露出の面で、世の中の人に見てもらうためのいわばサービスを、今よりもかなり多くやってもらうことになると思う。それで『競技の邪魔になる』って思うんだったら、僕は絶対に受けません」と。「スポンサーした側にした以上のメリットがあったって思わせて初めて広告の対価だと思うから、その活動をみんなが受け入れてくれないなら、僕を入れるべきじゃないと思う」って話を最初にしましたね。
権八:なるほど。
中村:早速、今日1本いただきましたね。
澤本:いい話だ。
中村:すごく難しい話だと思うんですけど、フェンシングというスポーツがマイナーからメジャーになっていくために必要な要素として、どういうことをしていくべきだと武井さんは思いますか?
武井:柱はいくつかあって、まずひとつは今回のオリンピックの金メダルのように、著名な大会で顕著な成績を残すこと。これが一番分かってもらいやすい。皆さん今回フェンシングの選手が金メダル獲ったってことは、なんとなく記憶にまだあるはず。僕が会長やってたこともあって、発信はバンバンしてたんで、その後番組に出たときに「金メダル獲りました!」って報告もさせていただいたし。まずそういった成績の部分。
二つ目の柱は、選手たちが著名になること。これは非常に重要で、日本のスポーツ文化は、「スポーツのレベルが高いから見に行く」っていう文化じゃないんですよ。レベルは世界的に全然低くても、有名人がいて好きな選手がいたら見に行く文化なんです。サッカーなんてまさにそうじゃないですか。みんなJリーグを見に行くし、日本代表の試合も見る。だけどオリンピックで金メダル何十個も獲ってるわけじゃない。つまりクオリティを見に行ってるわけじゃないっていうことは如実に表れてるんですよ。見に行くのは“人”なんですよね。知ってる人や好きな選手を見に行くのが日本のスポーツ文化だから、まずは選手たちが著名になることにフォーカスしないと、見に来てくれないというお話もさせていただきました。
あとはプレーする人口の数を増やすこと。これはマーケットの大きさにつながることで、市場価値がそこにあるかどうかがわかる。今フェンシング協会の登録者は6000人しかいないんですよ。だとすると、例えば、たった6000のロットに対して、「ユニフォームを頑張ってつくろうか」って思う会社はそんなに多くない。「剣をいちからうちの製品として出しましょう」って言っても6000人しかいないところに売るのは難しいじゃないですか。だからこそ人数を増やしていくことは絶対条件で必要。だけど、皆さん今まで生きてきて、フェンシングやってる場所に行ったことあります?
中村:無いかも。
澤本:いや、無いですね。
権八:無いと思います。
武井:一度もないでしょ。フェンシングって言ったら、日本人のほとんどはあの衣装と剣は思い浮かぶ。だけど僕ですら、会長になるまで試合を見に行ったことが1回も無かったんですよ。フェンシングのグッズを売ってるショップも生まれてから一度も見たことないんですよ。こんなこと珍しくないですか?
権八:確かに。
武井:他のスポーツってこんなことあんまりないじゃないですか。そういう意味では、見れる場所や体験できる場所をまず増やさないことには興味を持つきっかけもない。場所を増やすということで、僕の代で何とか全都道府県47カ所、施設をつくっていかないなとな思っています。
もうひとつは、参入障壁がすごく高いこと。あの衣装を調達するのにどこで調達していいかも分からない。「じゃあフェンシング始めます」って言ったときに、最初にあれ買いに行くかっていったら、買いに行く人ひとりもいないと思うんですよ。
一同:(笑)。
武井:でも野球ってそうじゃないじゃないですか。野球やりたいってなったら、グローブ買いにスポーツショップ行こうってなるじゃないですか。ボールも売ってるし、買ったらすぐキャッチボールからスタートできる。そういうものがフェンシングにはないんですよ。フェンシングの手前の、例えば剣を2人で持って向き合って、避けたり突っついたりするゲームも無けりゃ、遊びも無けりゃ文化も無い。だからそこをつくっていかないといけない。原体験として自分がその行為をちょっとでもやったことがあって、さらにその先にプロ野球とかがあるんですよね。例えば大谷(翔平)くんの打球やピッチングを見たら、ほとんどの日本人は分かるじゃないですか。「やべーあれは」って。
澤本:ははは。
権八:分かる分かる。
武井:だけど、日本のこないだ金メダル獲った見延和靖選手が、剣をチャンチャンチャーン!ってなってちょんって突いたのが胸にポンと当たってピンってポイントついたのに「すごいわ、あの技術」って言える日本人ゼロなんですよ。
中村:そもそもほぼ見えないですしね、速すぎて。
武井:そこの参入障壁をぐっと下げてあげること。軟式グローブと軟式のボールみたいな、まずは誰もが手に入れられるフェンシングのグッズが必要。それで「ちょっと剣で戦うゲームやろうよ」っていう遊びの大会をつくって日本チャンピオン認定して子どもたちみんなやってもらって、「楽しいねこのゲーム」と思ってもらう。そのステータスを上げて、その上にフェンシング界があるってなると初めて「僕らがやってる楽しい遊びの一番すごい人がフェンシングのあの人たちなんだ」って理解できると思うんですよね。その辺りの柱を全部つぶしていかないと、フェンシングがメジャーになっていくことはないと僕は思っています。
権八:大変な道のりですねでも。
武井:なかなか大変なんですよね。だけど、どれかが芽を出してくれれば、つながるんじゃないかと思っています。