第7回 SNSを使って話題を呼ぶ、73歳の寿司職人「鮨ほり川」(後編)

マーケティングか、ブランディングか、その両立か

嶋野:今までと違うお客さんが来るようになったり、注目されているので、自分の中で変化とかありました?

秋谷:本当に大きいのは、初めてコースをつくったっていうことですね。せっかく、じゃあSNSでつながってくれて、来ようかなと思ったときに、カウンター越しってこわいじゃないですか。今までアラカルトだけでいきたいと思っていたのを、わかりやすくしようって二人ですごい考えたんだよね。で、値段決めて。

堀川:コースをつくるのに、ものすごい時間をかけて考えて。果物があったり、野菜の寿司があったり、前菜があったり、刺身のコースが選べるとか。ふつうでは食べられないようなめちゃめちゃ高いやつも入ってるしね。そういう違いを出さないといけない。この難しさね。

秋谷:そう、だから本当に、ベストアルバムを最初に伝えないと、と思って。

 

大将の堀川文雄さん。すべてはお客さんを喜ばせたいという気持ちからだという

尾上:という感じで。SNS経由で、新しいお客さんがいっぱい来るようになったわけですよね。常連さんとは違う。そのときに、その人たちに対しての商品群を考えるというか。新しいコースを考えたっていうのが、結構ここにおいては大事なことかなというふうに。

嶋野:まあ私もその通りだと思って聞いていたんですけど。これは逆に、マーケティングとブランディングをどう捉えるかによって価値が違うところだなと思っていて。つまり、新しい顧客ができたからそれに対応する何かを発売するっていうのは、マーケティング的にはすごく正しいし。

でも見ようによっては、今までやっていたやり方とは違うっていう意味で、ブランディングを変えることにもつながることではあるじゃないですか。これはちょっと毎回、そのつど、必ずしもこれが正解だとは限らないところだと思うので。マーケティングにするか、ブランディングにするのかっていう判断を、毎回きちんとされているんだなと思いました。

尾上:「新しいコースとかつくっちゃって、俺ら常連どうなんだよ」みたいな話ですよね、ブランディングっていう意味においては。そのあたりについてもお話を伺いました。

堀川:SNSの新しい人が来ても、年配の食通の人も大切なんですよ。だから僕らから言ったら、食通の人が食べられるやつを、できるだけSNSの人にも食べられるような形で出してあげたい。

尾上:ちゃんとおいしいという話があって、それと驚きが両方ある。どっちかだけでもダメ。

堀川:そうそうそう。もっともっと中身を濃くしていきたい。人が気づかない、ちょっとした置物にしてもすべてそうだし。人が気づかないものに対して、ものすごい力を入れたい。気づくものじゃなくて、気づかないものに対して、ものすごい力を入れたい。

 

嶋野:いま聞いて思ったのが、常に変化を求める人がコアファンにいらっしゃったっていうところはすごく幸せなところじゃないかなと思いまして。つまり、変化し続けるっていうブランディングと、それがたまたまSNSっていう新しいものを求める客層に合わせるというマーケティングがすごく一致していて。ブランディングとマーケティングが両立した、本当に幸せな事例なんじゃないかなって思いました。

尾上:そうですね。しかも後半でおっしゃってましたけど、ちゃんと意識的に置物を変えたりとか、気づかないところにも力を入れたいって言ってることが、わりと常連の人を向いてるようで、実は新しく来た人にも(魅力的に映る)。スマホとかSNS向きではないけど、影響を与えるような良さっていうのは、そのお店独特のカラーになっていくんじゃないかとか。そういうところも、大事にしていく必要がやっぱりあるかなと思いましたね。

嶋野:そうですね。

尾上:といった感じで。常連の方も新しい方も混在して、いま、いい感じの空間になってきているわけですが。ただそのときに、どうやって新しく来た人たちを定着させるのかっていうのはありますよね。いっぱい来たけど、その人たちがまた来るのかなとか。「ここらへんって何か工夫あるんですかね」っていうことをちょっと聞いてみました。

堀川:それはね、自分の相性。「私、この店大好き」って、相性的なものがあると思う。これはもう、どうしようもないですよ。やっぱり苦労していても何しても、「私には、これは合わない」って。これを合わせようとすることはもう無理。やっぱりどうしても最後はお互いの気持ちが合うか、合わないか。

 

尾上:けっこうこれも大事だと思って。合わない人に合わせて無理やり追いかけ続けるよりは、もうこれくらい思い切っちゃったほうがいいのかなって思いますね。

嶋野:これは大賛成ですね。「お客さまが神さまだ」って言ってエラそうにするのを見ても、気分がよくないし。

尾上:そうですね。大量生産、大量消費とかじゃなくて、適切につくって適切に届けるみたいな世の中になっていくと、よりこういう考え方にどんどんなっていきますよね。合わなかったらそれまでっていう。いろんな選択肢があるから、別にそこは合わなくてもいいよねっていうか。こういう気持ちを持てるかどうかはわりと大事ですよね。
と、まあいろいろとお話を伺ってまいりましたが。最後は、堀川さん自身のスタンスを表現しているような話を伺いました。まあ「うまくいってるからって、それだけでいいの?」とか、どうすると長く続けられるのか、どうすると長く話題でい続けられるのかというところで、けっこう大事な話だなと思ったので。そちらを聞きください。

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嶋野裕介、尾上永晃
嶋野裕介、尾上永晃

嶋野裕介(電通CDC クリエーティブディレクター/PRディレクター)しまの・ゆうすけ/東京大学を卒業後、電通入社。大阪出身なのに関西弁がとても下手。主な仕事はトヨタ自動車「TOYOTA #金曜日の新垣さん」、ソフトバンク「SoftBank 企業広告シリーズ(2019〜)」「民放114局合同番組 一緒にやろう2020」「3cm market」「フリー素材アイドルMIKA+RIKA」など。Cannes Lions、Spikes Asia、Adfest、ADC、ACC、OCCなど受賞。趣味は“新聞”を読むこと(好きなコラムは「窓」と「折々のことば」)。/尾上永晃(電通 プランナー)おのえ・のりあき/2009年電通入社の平社員。企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、ネットフリックス「リラックマとカオルさん」、スクウェア・エニックス「ドラゴンクエストウォーク」、日清食品「チキンラーメン アクマのキムラー」、東急電鉄「池上線フリー乗車デー」、宮本浩次「宮本独歩」など。ACC、Adfest、電通賞グランプリ、TCC新人賞やCannes Lions、文化庁メディア芸術祭など受賞。散歩ばかりしている。

嶋野裕介、尾上永晃

嶋野裕介(電通CDC クリエーティブディレクター/PRディレクター)しまの・ゆうすけ/東京大学を卒業後、電通入社。大阪出身なのに関西弁がとても下手。主な仕事はトヨタ自動車「TOYOTA #金曜日の新垣さん」、ソフトバンク「SoftBank 企業広告シリーズ(2019〜)」「民放114局合同番組 一緒にやろう2020」「3cm market」「フリー素材アイドルMIKA+RIKA」など。Cannes Lions、Spikes Asia、Adfest、ADC、ACC、OCCなど受賞。趣味は“新聞”を読むこと(好きなコラムは「窓」と「折々のことば」)。/尾上永晃(電通 プランナー)おのえ・のりあき/2009年電通入社の平社員。企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、ネットフリックス「リラックマとカオルさん」、スクウェア・エニックス「ドラゴンクエストウォーク」、日清食品「チキンラーメン アクマのキムラー」、東急電鉄「池上線フリー乗車デー」、宮本浩次「宮本独歩」など。ACC、Adfest、電通賞グランプリ、TCC新人賞やCannes Lions、文化庁メディア芸術祭など受賞。散歩ばかりしている。

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