D2Cにまつわる3つの課題
「ダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)事業は、Webで簡単に集客できるというほど、単純な話ではなくなってきています」――こう指摘するのは、ディノスの最高EC責任者で、ルームクリップ社ではCEO室長して経営に参画する石川森生氏だ。
「コストを積めば短期的に集客することはできるかもしれませんが、それだけで頭一つ抜けるのは極めて難しい。何より顧客生涯価値(Customer Lifetime Value)の伸長に重きを置く、D2Cの事業モデルに反してしまいます。すなわち、それでは利益が上げづらいということです」(石川氏)
自身でもD2C運営会社「bydesign(バイ・デザイン)」を経営する石川氏は、D2Cにおけるリテンション(既存顧客の維持)の重要さを強調する。
「D2Cは前提として、初回購入だけで利益が出るビジネスモデルではありません。2回、3回、あるいはクロスセル、アップセルを果たすことが必要となります。そこで実は問題になるのが商品開発。集客とリテンションと商品開発をバラバラに考えるのではなく、事業としての利益回収ルールを考慮しつつ、3つを融合させた形で最初から設計する必要があるのです」(石川氏)
しかし、と言葉をつなぐのは、ルームクリップ社の高重正彦社長だ。「特にメーカーは、実店舗での販売を主戦場としてきたこともあって、この点での切り替えがなかなか難しいことが伺えます。大規模に流通させる上で合理化を図っているので、商品そのものだけでなく、パッケージや見せ方も、それに最適化されているからです」と話す。
では、小規模事業者、あるいは個人のほうが有利なのか。高重氏の回答はこうだ。
「商品をマス向けではなく、絞り込んでいくことについては、あるいはそうかもしれません。マスに届けるより、特定の顧客の需要を満たすもののほうがスタートとしては適切です。ただ、一方で陥りがちなのは、その事業者の、いわゆる“世界観”押し一辺倒になってしまうということ。年商で数億円、というスケールで収まってしまうケースは少なくありません。むろん、“世界観”やデザイン性は重要な要素です。しかし、それだけでは遅かれ早かれ天井にぶつかってしまうのです」(高重氏)
集客手段の加熱、顧客保持のための手立て、そして事業設計や商品開発、これらの課題はどのように解決すればよいのだろうか。
答えはユーザーの写真にあった
インテリアブランド「Kanademono(カナデモノ)」を旗艦とする「bydesign」の戦略はこうだ。当然インテリアなので、テーブルを二度、三度購入するということは考えにくい。ではどのように顧客保持を果たすのか。
「まず、同じカテゴリーの商品購入がくり返されづらいことを織り込んで商品設計をしている。テーブルを購入した人が、次に必要とするのは何か、ということ。必ずしもイスではなく、ランプかもしれないし、花びんかもしれない。あるいはラグかもしれない。このブランドを長く、生活に取り込んでいただくには、どういう商品があればよいのか」(石川氏)
その疑問に答えを得るには、実際の消費者の利用シーンを見る必要がある。
「たとえば、『RoomClip』では、bydesignでテレビボードとして開発した製品をローテーブルとして活用くださっている方がいました。他業種でも、必ずしも製造側が規定した使い方ではなく、お客さまが自らの生活にフィットするよう調節して商品を生かすケースは少なくないと思います」
「RoomClip」はインテリア、生活空間の写真を投稿するプラットフォームで、月間ユーザーが600万人に上る。家電や雑貨、生活用品をどのように生かしているのか、といったことが写真から事実として得られるのが特徴だ。そこで洞察したことを、いきなりマスで展開することは難しいかもしれない。しかし、だからこそ、D2Cモデルが適切なのだ。
では集客はどうか。ここでも利用者の使用実態が生きてくる。多様なユーザーが投稿するインテリア写真をコンテンツとして楽しむ人は、すでに「インテリア」というカテゴリーにすでに踏み込んでいるからだ。
「D2Cブランドの肝は、指名ワードをいかに獲得するか。ピンポイントで自社ブランドを探す人をどうやって増やすか、にあります」と石川氏は言う。しかし新商品や、新興ブランドだと、そもそも探している人はいない。だからこそ、まずマスメディアで大規模に認知を獲得するわけだが、D2Cモデルはここまで紹介したとおり、商品自体の顧客層が限られていたり、1回の購入で利益を出すことを前提にしていなかったりする。
「多種多様なブランドがひしめく総合的なプラットフォームより、特定のカテゴリーに専門特化したプラットフォームに投下したほうがアプローチコストを抑えられる。これは通販でもそうですし、自分でインテリアブランドを運営していて強く実感しました。オンライン広告でパーソナライズやターゲティングができると言っても、D2Cブランドの多く、特に当初はすごく限られた需要を狙うことがほとんど。しかし、そういったセグメントにはまだまだ応えられないか、できても限られているので高騰しがち、というのが現状です」(石川氏)
そこでルームクリップ社がスタートしたのが、「RoomClipショッピング」だ。そもそもインテリア好きが集まっているプラットフォームだからこそ、その場で買える、かつ、RoomClipユーザーによって当の商品を実際に使っている写真投稿が見られる点が、コンテンツとして支持されるポイントになっている。
高重氏は、「家具や生活用品そのほかインテリアカテゴリーをただ集めるだけのモールにはしません」と話す。
「近い将来、ホームファッションの強いブランドが、RoomClipから、あるいはRoomClipショッピングから生まれた、というビジョンを実現したいと考えています。一方で、ここまでお話した課題があります。そのために石川に参画してもらって、企画からサプライチェーン、流通、リテンションまで商流すべて、もしくは不足しているところを支援できる体制を整えたのです」(高重氏)
インテリアは、ハイブランドか、マス流通かの二極化が著しい領域だ。ブランド名を10個挙げられたら、その人はかなりくわしいほうだろう。グラデーションの中間帯として認知を得ているブランドのほうが少ない。そしてだからこそ、実はD2Cの沃野となる可能性を秘めている。
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