赤いワンピースに会見での「理不尽」発言…木下元都議の辞任劇に見る危機管理広報

広報会議2022年1月号(後述)では、毎年恒例の不祥事ランキングを発表※。しかし、11月初旬の調査だったため、対象外となった不祥事もある。そのひとつが木下富美子都議の辞職会見だ。本稿では、当該事案を分析し、危機管理広報を担う広報実務者向けに、イメージ悪化を最小限に食い止めるための広報のあり方について、危機管理を専門とする弁護士に解説してもらった。

※ランキング結果の一部はこちらからもご覧いただけます。
 
木下富美子都議会議員は2021年7月に行われた都議会議員選挙の選挙期間中に無免許運転で人身事故を起こしました。これが投票日翌日に報じられたことで、「投票日前に明らかになっていれば当選しなかったはずだ」「都民を騙して当選した」などの批判の声がSNSに集まり、辞職を求める声も目立ちました。

本来であれば、この時点で無免許運転をしたことを素直に認めて、黙って当選したことが潔くなかったと頭を垂れて辞職するのがスジです。ところが、それをしなかったために、木下都議の辞職を求める声が高まることになりました。タイミングと対応を見誤ったことが危機管理を失敗した最大の原因です。

木下都議が挽回するチャンスは何度もありました。都民ファーストの会から除名処分を受けた時点、7月に1回目の議員辞職勧告決議が全会一致で採決された時点、9月に書類送検された時点、2回目の辞職勧告決議が全会一致で採決された時点などです。

その後も木下都議は体調不良を理由に都議会を欠席するなどしていたため、世の中からは「辞職をしないのは報酬を得ることが目的だ」などという新たな批判を集めることにもなりました。すべてが悪手でした。世の中の声は潔くない人を許しません。非が明らかなのに非を認めない人は容赦なく叩きます。こうなると、危機管理として打てる手は、後手ではありますが、平身低頭謝罪をし尽くしたうえでの辞職以外に道はありません。

ところが、ここでも木下都議は選択肢を間違えます。

11月9日に都議会から三度目の召喚を命じられた際に初めて公の前に姿を見せ、立ち姿のまま一度目の記者会見をしました。その際、議員報酬3カ月分はNPO法人に寄付したなどと報酬目的で議員にしがみついているとの批判に答える説明はしたものの、「辞職を求める声があるのは承知している」とした上で、「批判を受ける一方で続けてほしいという声があるのも事実」と議員辞職を拒絶したのです。無免許運転で人身事故を起こしたことを黙ったまま当選したから辞職せよという本来求められている部分には何も答えていません。

危機対応に際し、まず考えるべきは自身の立場(ポジション)

危機管理の対応策を考える際に最も重要なことは、置かれている立場(ポジション)を理解することです。例えば、食品会社が異物混入を起こした時には、食の安全に対してどう考えているのかというポジションから回答することが求められます。機械メーカーがデータ偽装をした時には、製品の品質の確保や安全性の確保をどう考えているのかというポジションから回答することが求められます。木下都議の場合には、違法行為を黙ったまま当選したのだから、都民(有権者)を騙して当選したことに対してどう考えているのかというポジションから回答しなければならなかったのです。

さらに、一度目の記者会見が失敗した要因は服装です。外見にはその人の内面が現れます。本当に申し訳ない気持ちを持っている時には、葬式に準じるレベルのダークスーツを選び、過度な装飾も外さなければなければなりません。ところが、一度目の記者会見に現れた木下都議の服装は赤いワンピースに目立つ真っ白な大ぶりの腕時計。ラメが付いていなかっただけまだマシですが、とても謝罪の内面で選択した服装とは思えません。こうした外見で記者会見を行っても、見ている側からすれば、「本当は申し訳ないとは思っていないんだろ」としか映りません。

果たして、辞職しないという決断とともに、この日を境に、木下都議に対するバッシングは加速しました。

木下都議は11月19日に合計7回もの無免許運転を理由に在宅起訴されました。争う余地があれば推定無罪を主張して辞職しないという選択肢もあるでしょう。しかし、争う余地がない事実で在宅起訴までされたのであれば、その時点で非を認めて辞職することが周囲も納得するタイミングだったはずです。ところが、この日も辞職の意思を表明しませんでした。

木下都議が辞職の意思を明らかにしたのは週明け11月22日の月曜日でした。この2度目の記者会見で、非を認め全面的に謝罪すればまだ木下都議の反省と潔さを感じられたはずです。ところが、二度目の記者会見も失敗でした。

先に述べたように、危機管理広報では置かれた立場を理解することが重要です。木下都議には謝罪以外の選択肢はありません。

しかし、実際には、「議員として十分に仕事をさせてもらえないという理不尽な現実に悩みました」などと、謝罪を求められている立場とは真逆のスタンスで「理不尽」という言葉を使い、結果、SNSでは「原因を作ったのはあなたでしょう」「未だに悪いと思っていないのか」という声が止まりませんでした。さらに、同席した代理人からも「いじめと同じ構図」との発言があり、まるで木下都議に非がないかのような発言をしてしまったことも、火に油を注ぎました。

それ以外にも、報酬の寄付先やなぜ今になって一転して辞職することになったのか、辞職を決めた日なども明確に答えなかったために、最後まで、潔さを感じない会見になってしまいました。木下都議が再起を図る最後のチャンスも無駄にしたと言えるように思います。
 

浅見隆行(アサミ経営法律事務所 弁護士)

1997年早稲田大学卒。2000年弁護士登録。中島経営法律事務所勤務を経て、2009年にアサミ経営法律事務所開設。企業危機管理、危機管理広報、会社法に主に取り組むほか、企業研修・講演実績も数多い。

 

広報会議2022年1月号では、不祥事ランキングの他、みずほ銀行のシステム障害や森喜朗氏の女性蔑視発言など、2021年話題になった出来事を有識者やジャーナリストが分析。他者の不祥事を「対岸の火事」とせず、自らの学びにつなげる機会に。ぜひお買い求めください。

広報会議2022年1月号について

 

「不祥事ランキング」発表
リスク傾向と対策
 
CASE1
みずほ銀行のシステム障害に見る危機管理広報
相次ぐ不祥事には抜本的な改善案を示そう
浅見隆行(弁護士)
 
CASE2
森元会長の辞任に見る無意識の偏見
日本のメディアの意識変化を広報担当者も感じ取ろう
稲澤裕子(昭和女子大学 特命教授 広報担当参事)
 
CASE3
ユニクロ製品の米税関差し止め問題に見る新リスク
SDGsは有言実行で、サプライチェーンにまで目を凝らそう
河合 拓(河合拓コンサルティング代表取締役)
 
記者の行動原理を読む広報術 特別編
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松林 薫(ジャーナリスト)
 
OPINION ウィズ・アフターコロナ下での危機管理
テレワークで高まる情報漏えいのリスクにどう対応する
鈴木悠介(弁護士)
 
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GUIDE
企業を守るのも広報の役割
不祥事が起きた、と想定して臨もう
危機管理広報の対応シミュレーション最新版
監修/佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役)
 

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