森喜朗元東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の発言は、用意されたものではなかった。JOC(日本オリンピック委員会)評議員会にオリンピックへの協力を要請するために出席し、評議員会後に「原稿を用意していない」状態であいさつ、様々な話題に触れた中での1コマだったのだ。
件の発言があった当時、オリンピック・パラリンピックの開催可否を世界が注視しており、あいさつをメディアが取材していた。女性に関する発言の部分を日本の複数のメディア、ニューヨーク・タイムズやAFP通信などが速報。翌日の謝罪会見以降の動きもワシントン・ポスト、CNN、BBC、AP通信、ロイター通信など主要メディアを通じて世界中に配信された。
報道がSNSで拡散した。アイスホッケー女子元カナダ代表のIOC(国際オリンピック委員会)委員が4日、「この人を問い詰めます。東京で会いましょう」とツイッターでつぶやき、ドイツ、フィンランド、スウェーデン、欧州連合代表部など駐日大使館はTwitterに職員たちが挙手する写真に「#don’tbesilent(黙っていないで)」のハッシュタグをつけて掲載、女性たちの自由な発言への支持を示した。
日本のメディアも変わり始めた
筆者はラグビー協会で2年間、森会長の他の発言を聞く機会もあったが、理事として女性蔑視を意識したことはなく、今回の発言はアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)によるものと受け止めている。
アンコンシャス・バイアスは誰もが持っているが、無意識のうちに刷り込まれて本人に悪気がないだけに、発言を指摘されるまで問題点に気付くことが難しい。今回、発言の際に出席者から笑いが起こったと報じられたように、従来は笑って受け流されていたのではないだろうか。
しかし、日本のメディアが「女は」とくくる発言をおかしいと気付きはじめた。海外では発言は「性差別」「差別主義者」と批判され、ジェンダー・バイアスに対する捉え方が厳しいことが明らかになった。日本でも男女問わず疑問の声が上がったように、今後はジェンダーに関する配慮が従来以上に求められるだろう。
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稲澤裕子(いなざわ・ゆうこ)
昭和女子大学特命教授 広報担当参事
読売新聞東京本社にて社会部、生活部、経済部記者などを経験。2013年には公共財団法人日本ラグビーフットボール協会初の女性理事に就任。2018年から現職。
広報会議2022年1月号について
「不祥事ランキング」発表 リスク傾向と対策
CASE1
みずほ銀行のシステム障害に見る危機管理広報
相次ぐ不祥事には抜本的な改善案を示そう
浅見隆行(弁護士)
CASE2
森元会長の辞任に見る無意識の偏見
日本のメディアの意識変化を広報担当者も感じ取ろう
稲澤裕子(昭和女子大学 特命教授 広報担当参事)
CASE3
ユニクロ製品の米税関差し止め問題に見る新リスク
SDGsは有言実行で、サプライチェーンにまで目を凝らそう
河合 拓(河合拓コンサルティング代表取締役)
記者の行動原理を読む広報術 特別編
ニュースバリューが変わる潮目に伴い過去の“不発弾”のチェックを
松林 薫(ジャーナリスト)
OPINION ウィズ・アフターコロナ下での危機管理
テレワークで高まる情報漏えいのリスクにどう対応する
鈴木悠介(弁護士)
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クリッピングサービスで日々の醸成が鍵
エレクトロニック・ライブラリー(ELNET)
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不祥事が起きた、と想定して臨もう
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監修/佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役)
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