唯一の“ウーチューバー”!?、多才過ぎる宇宙飛行士の素顔(ゲスト:野口聡一)【後編】

【前回コラム】スペースXから船外活動まで!現役飛行士が語る宇宙飛行のリアル(ゲスト:野口聡一)【前編】

今週のゲストは、先週に引き続き、宇宙飛行士の野口聡一さん。今回は宇宙飛行士になる条件や活動内容の変遷などをうかがいしました。

今回の登場人物紹介

ゲスト 野口聡一。

※本記事は10月10日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。

宇宙飛行士になるための条件とは

中村:JAXAが13年ぶりに、宇宙飛行士の募集をこれから始めるらしいですね。宇宙飛行士に必要な能力を、どう見極めたり、育てていくのかなっていうのが気になります。

権八:確かに。

中村:一般人には全然分からず……。

権八:だって、面接して「いいよ」ってわけにもいかないですもんね。

中村:どう見極めるんですか。

野口:でも、実は「宇宙飛行士はこれができればいい」「このテスト満点なら決定」みたいなものは全くなくて。

権八:へえ~。

野口:むしろ試験のほとんどは面接ですよ。筆記試験がないわけではないんですけど、プレッシャーを与えたときにどういう反応をするかとか。グループで自然に生まれる人間関係でも、リーダー役やその補佐役、黙々と手を動かす人と、それぞれスタイルがあると思うんですけど、リーダーだからいいわけでもない。グループのなかで、それぞれがどう動くかを見たりしますね。

結論から言うと、我々や先輩あるいは同期の宇宙飛行士も含め、「この人となら一緒に死線を乗り越えられる」と思えるかですね。ただ、実際に全員を宇宙に連れていって状況を見ればいいんですけど、それができない以上、擬似的なストレスがかかる環境で反応を見る場合が多いと思います。

権八:「宇宙飛行士になりたいです」って応募して、実際に採用されるまで、どれぐらいの面接があるんですか?

野口:過去の例では、半年から1年ぐらいかかります。

権八:そうか……。

野口:やはりステップごとにいろんな試験をやります。あと、結構医学試験が多いですね。身体検査ですけども。日常生活には全く支障がないけれど、宇宙飛行士としては、はねられる条件がいっぱいあります。

一同:へえ~。

野口:宇宙旅行は違いますよ。宇宙旅行は1週間の宇宙飛行、あるいはロケットのGに耐えれば行ける時代がたぶん来ているんです。けど、プロの宇宙飛行士は選抜してから10年ぐらい訓練やフライトがあり、その結果をまたフィードバックしていくので、最低で10年雇用することになります。状況によっては、15年20年と仕事をしてもらわないといけないので、いざ採用して訓練し始めて、「この人すごく優秀だけど、ちょっと船外活動できないな」となれば、それだけで活動の幅が半分ぐらい減ってしまう。そうならないよう、入口でグッと絞るというわけです。

権八:具体的に言うと……?言えないかも知れないですけど。

野口:なかなか言えないこともあるんですけど、例えばひと昔前は「パイロットになりたかったけど目が悪くて」とよく言われたように、裸眼で1.0の視力。ふた昔前ぐらいかな。ただ、最近はパイロットの視力も結構緩く、矯正で1.0あれば大丈夫だと。実際に眼鏡やコンタクトで宇宙に行く人も多いです。

でも、逆に言えば、矯正でも1.0にいかないとダメで。それはいじめているわけではなく、宇宙で異常事態があったとき、例えば煙が充満した船内で必要なスイッチを探し、表示を確認して正しい動作をするとなったときに矯正視力で1.0いかないとなると、おそらくその人の命を救うことが難しいだろうという判断です。だから、残してある条件だと思います。

澤本:全てが命と直結しているんですね。

野口:そうですね。ですから、宇宙飛行士は最低限自分の命は救える。次に仲間の命を救えるかどうか。最後は宇宙船および宇宙ステーションを含めて、乗り物を無事に戻せるか。たぶん、そういう順番で我々は見ていて、宇宙旅行者はできれば最低限自分の命は守ってほしいと。つまり、全員順番にパラシュートをつけて落ちていくのであれば、自分のパラシュートはつけられるようにしてほしい。

宇宙旅行者とともにフライトする時代になると、我々プロは、例えば毒ガスを吸って意識が混沌としたり、転倒して腕を折ったという人に、自分のパラシュートをつけた上でアシストができる必要が出てくると思います。そういう部分をかなりの時間を割いて訓練をすることになりますね。

次ページ 「宇宙から発信する唯一の“ウーチューバー”」へ続く

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