「TEHAI」
警察庁と連携して、指名手配犯の現在の姿を予測するプロジェクト。2020年9月30日に公開し、指名手配被疑者捜査強化月間に合わせて実施した。現在の写真の生成だけではなく、通報を受け付けるシステムの設置や、Yahoo! JAPANの広告枠を通じて、周知にも協力した。
「2100JAPAN」
SDGs関連の社会課題や取り組みについて紹介するメディア「Yahoo! JAPAN SDGs」オープンの一環として実施した特別企画。「Yahoo!検索」で「SDGs」「SDGsとは」などと検索すると、特設サイトへアクセスできるバナーを表示。さらに「SDGsが達成された未来」「達成されなかった未来」を描く動画を視聴できるようにした。
――電通デジタルのアドバンストクリエーティブセンターとの取り組みについて、Yahoo! JAPANの狙いを教えてください。
若林 オンライン広告にとって、効果ももちろん重要ですが、ユーザーの心に届く広告の表現や見せ方も同様に大切です。後者にも改めて力を入れていこうという意図がありました。
それで当社の広告部門の顧問ECDを務めている中村洋基さんにご相談したところ、電通デジタル アドバンストクリエーティブセンター(ACRC)に橋渡しいただいて、プロジェクトとして立ち上がりました。
中村 Yahoo! JAPANは、国内最大級のWebメディアであるだけでなく、ユーザーを楽しませる広告を打ち出せることにおいても随一だと考えています。規模については著名ですが、広告でもさまざまなことができる点については、あまり知られていません。
ACRCは極めて優秀ですし、効率や効果の追求にとどまらないアプローチやプランニング、テクノロジーが先導するクリエイティブができます。ぜひやりましょう、と話をしました。
――「TEHAI」や「2100JAPAN」の手応えはいかがでしたか。
若林 反響としても、制作プロセスの知見としても一定程度得られたと思います。「TEHAI」については当社というより、警察庁が主語ではありますが、これまでも目にしていたはずの指名手配犯の情報募集について、新鮮な気持ちで見ていただけた方が多かったようです。
「2100JAPAN」はSDGsをテーマとした動画コンテンツですが、完視聴率70%以上と、最後まで視聴された方の割合が高く、ポジティブなリアクションが目立ちました。
総じて、ユーザーの皆さまの心にふれるような体験を、Yahoo! JAPANの広告面から届けられたのではないかと思います。ただ、オンライン広告そのものに対する漠然とした嫌悪感を低減させるには、継続的に実施していく必要はあります。
――「TEHAI」の制作について教えてください。
中村 電通デジタルACRC内でのコンペ形式で、何十案と出たものの中から勝ち上がったアイデアのひとつです。選定時に重視したのは、ヒューマンインサイトとテクノロジーインサイトの2つでした。
ヒューマンインサイトとは、現代に生活する人々の潜在的な「あるある」、「言われてみれば、たしかに」と思える話題。テクノロジーインサイトとは、いま、どんな技術を用いることがホットで新しいか。
それで言うと「TEHAI」は、「指名手配の張り紙の顔、覚えている人いないよね?」がヒューマンインサイトです。誰もが一度は見たことがあるはずなのに、こう言ってはなんですが、記憶に残らないのが手配の張り紙。テクノロジーインサイトは、そんな張り紙に注目を集める手段としてAIを用いて、いまの容貌を予測する、というものでした。
石川 これは実際に警察サイドでも課題視されていることでした。実施当時で全国指名手配犯約630人中、30%弱が手配から10年以上経っていて、写真がかなり古いんです。事情からして当然ですが、画質が荒かったり白黒だったりという中で、なんとか情報を求めようとされています。
最終的には現在の顔形を精度高く予測することが主眼の企画でしたが、その前提として、お借りした写真の解像度を高めたり、色彩を再現したりと、複数のAIを駆使した点もポイントではないかと思います。
加えて気を配ったのは、AIの生成画像から通報への導線設計ですね。所管の警察署の通報フォームへのアクセスや、スマートフォンであれば、直に電話をかけられるようにもしました。認知から具体的なアクションまで一連でつなげられる、オンライン広告の手法をそのまま生かしています。
中村 それにしても、「TEHAI」は発見、検挙するところまで行ってほしかった。テクノロジーやメディアの力を示したかった事例です。
――行方不明者の捜索にも生かせそうです。
若林 実際、その話も出ました。ただ、ご親族の方や関係者の皆さまのご心情もありますし、どなたを選定すべきか、という点で非常に困難であろう、と考えました。国外では事例があるようですし、AIを社会的意義のあることに用いる、という主旨としては、そのとおりです。
――「2100JAPAN」のポイントは何でしたか。
高橋 私は映像のプランニングという形でかかわったのですが、いま、さまざまな場所で言われているSDGsについて、どうすればリアルに感じられるかにこだわりました。
「わかりやすかった」といった好意的なご意見を多くいただけたのは嬉しかったです。「学校で使いたい」という方もいらっしゃいました。
中村 僕がとても面白いと思ったのは、SDGsが掲げる目標が達成された未来と、されなかった未来と、見たいものをユーザーが選べるようにしていた点ですね。押し付けではなく、ユーザーに委ねているところ。
インサイトは、「SDGsっていいことらしいんだけど、実はよくわからない。結局、SDGsが達成されるとどうなるの?」という結果を示したことではないかと思います。企業の時価総額が上がるなんて言われても当事者意識持てないですし。
若林 「SDGsが達成された未来」のほうを選んで視聴したユーザーのほうが多かったですね。ポジティブなほうを選ぶ方が多いのは、SDGsテーマ以外でも重要だと思います。
中村 誰もがいい未来を望んでいるんだと思います。だからこそ、きちんとわかる形、誰でも理解できるような形でコミュニケーションをするというのは、Yahoo! JAPANの立ち位置としても意義深かったのではないでしょうか。
――今後の取り組みについて教えてください。
若林 オンライン広告は、プロモーション一辺倒ではないはずと思います。当社でも、効果を高めるためのバナーの改善や研究であったり、動画の最適化手法をまとめてご提供したり、といった活動がありますが、それと同じくらい、企画や表現といった“中身”の部分は何ができるのか、も重視しています。どちらの領域にも偏りなく注力していくことが、広告主にとってもユーザーにとってもよいのではないでしょうか。
売る売る、という話よりも、「この広告、いいな」と言えるような、見ている人にポジティブな印象を与えるクリエイティブは不可欠だろうと思うんです。
中村 世の中としても行ったり来たりというか、振り子のようなものです。いまは運用の効率化に偏っていますが、技術がこなれてくると、また波が返ってきて、デジタル広告で感動させたい、笑わせたい、という使われ方にスポットが当たると思いますよ。そしてまた、効果は、という話になる。
その両方にベットしていくのが、Yahoo! JAPANというメディアなんですね。
高橋 広告制作側としても、効率のいいバナーが必ずしも見た人にいい印象を与えているわけではない点はジレンマです。
石川 ブランディングとダイレクトの両立もACRCが掲げていることですが、それに挑んでいる人が少なく、初めての試みとなるからこその大変さもあります。ただ、チャレンジしていくことで、いずれこれがスタンダードになるのではないかと思います。
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