特に注目されるのが、世界の生活者に新たなコンテンツ体験を提供し、ブランドと生活者をつなぐ新たな場を提供する、各種プラットフォームの活用です。本コラムでは動画コミュニケーションにスポットを当て、Googleが主催するYouTubeで高い効果を獲得した動画広告を表彰する「YouTube Works Awards 2022」の審査員の皆さんと、これからのブランドコミュニケーションについて考えていきます。審査員の皆さんに聞く、5つの質問。最終回は工藤里紗さんが登場します。
Question1
いち生活者としての自分を振り返って、日ごろのメディア・コンテンツ消費行動で変わったなと思うことはありますか?
スタンプを買うなんてもったいない!と感じるくらい、あらゆるモノに課金をしてこなかったのに、今ではあらゆる動画サブスクリプションに入っていること。
特にこの 2 年位は、SNS、YouTubeで「海外のコンテンツを見る時間が増えた」ことが大きな変化です。
コロナ禍になってから、自転車(主にロードバイク)にハマっているのですが、ロードバイクの乗り方から、夏のウェア、冬のウェア、バイクトラベルのパッキングの仕方など、全てYouTube先生から学び、動画に登場する世界中のサイクリストと「ナゾの仲間意識」を感じています。
動画は一部を切り取る写真よりも情報量が多いので、購入の決定にも参考にします。
例えば、フランスのニースにある『Café du Cycliste』という好きなサイクルウェアのブランドがあるのですが、最初の出会いは広告のクリックから。
そこからブランドサイトを見て、SNSやYouTubeの動画をキーワードで検索して(を何度か繰り返し)、意思が固まったら、サイトに戻って注文。PayPalで支払い、商品はEMSで発送!今ニースを出ました、パリを出発しました、上海に着きました、出発しました!みたいな連絡が。
自分のウェアがパリから家までに届く道中をワクワクしながらチェックして手元に。この手元に至るまでのワクワクやストーリーも含め楽しんでいます。
ちなみに、日本人による、日本語のみのサイトよりも、英語のページをチェックするだけで、違う視点が得られてとても楽しいですし読めない言語でも自動翻訳で何とかなります。口コミの視点が増えた!というのは、消費行動で大きく変わったところかもしれません。
Question2
プライベートで、YouTubeをどんな風に見ていますか?
エンタテインメントとしても楽しんでいますが、一番よく使うのが「説明書」と「決定の材料」としてかもしれません。
チャッカマンも着火剤も新聞紙もない、薪と斧とマッチのみのフィンランドの森で何をどうやっても火が付かなかった時に、真っ先にYouTubeで薪の組み方を参考にしました。
お産の前は、世界各国のお産を見ましたし、何かの化粧品を使う前は、様々な人の肌の反応を動画で確認。
車を買う前も、パンフレットや写真、短い試乗では分からない部分を動画で確認。
初めて自転車のレースに出た前は、あらゆる選手の動画を見て、コースのカーブなどをチェックし「説明書」「決定材料」として使いました。
息子が今ハマっているのは、パリ在住の“えもじょわさん”という料理人の方で、YouTubeがとっても充実しています。
チャンネル登録者数が200万人以上。例えば「ふるっふるの台湾カステラの作り方」という動画は、なんと1動画で約3800万再生もされています。料理動画は定点カメラでBGMが付くものが多いですが、えもじょわさんの動画はBGMもナレーションも一切なし。まさに料理をする音のみで構成されています。
字幕をONにすれば、材料や手順がわかり、イヤホンとつけると料理の音を「ASMR」的にも楽しめます。画はもちろん、かなり録音にもこだわった作りで、実際に料理をしなくても癒しコンテンツとしても楽しめます。
息子は、この動画を見ながら毎週末「気持ちはパリのパティシエ」となり、様々な本格スイーツに挑戦しています。
フォートナイトのネフライトさんに代表されるように、ゲームの攻略の参考に、そして実況を見ることで、まるでスポーツ中継を楽しむ感覚で、YouTubeを見ているようです。
私が「説明書」のようで「実はエンタテインメント」的に楽しんでいるのは、モーニングルーティーンや、メイク動画、整形手術の動画などです。Laura Clearyというコメディアンの動画も好きでよく見ていますし、オーディオブックとして「YouTubeを聞く」ことも。
Question3
仕事では、YouTubeをどんなふうに活用していますか?
主に手掛けているコンテンツとの「接点を増やす場」として利用しています。
2009年ごろから、番組でも積極的に活用していて、当時はテレビでは見られないものを見ることができる感じを大切にして、放送されていない取材の裏側や、面白い素材(フッテージ)をUPしたり、あえてテレビ的な作りこんだテロップや音を付けたりせず「生」感を出していました。予算をかけずに番組で累計2億再生ほどに到達しました。
2014年ごろからは、テロップや音も入れつつ、テレビよりも先に何かみられる、みたいな「先出し感」や、ドラマならYouTubeオリジナルのショートコンテンツを制作してUPするみたいな「お得感」を出していました。
2021年現在では、そもそもテレビ番組そのものを、「テレビという家電」で見るわけではないので、スピンオフや独自コンテンツはもちろん本編そのものも権利関係がクリアできる番組は、積極的にYouTubeに出しています。例えば、『シナぷしゅ』は、YouTubeで本編、コーナーごと、24時間再生動画など独自の活用をしている代表的なコンテンツです。
また、コロナ禍になってからは、配信イベントを手掛ける機会も増え「コンテンツ」を見る場というよりも「LIVEの場」=「リアルタイムで繋がれる場」としてもよく活用しています。
作り手としては、動かない家電としても、パソコンの 2nd画面としてでも、スマホでも、もはや画面を観てなくて音だけだったとしても、多くの人に接触してもらいたい思いが強く、それが実現できる”グローバルで大きな場のひとつ”がYouTubeであると考えています。
昔は、「YouTubeだから」のコンテンツ作りをしていましたが、2021の現在は「せっかくYouTubeなんだから」という制作ロジックは古く、今後、YouTubeも他メディアもどう進化していくか楽しみで仕方ないです。
何か「ブツ」(媒体や物質)を観ること自体が変わっていく未来もあるかもしれません。
Question4
今後のブランドコミュニケーション(お仕事)でYouTubeをこんな風に活用したい!と思うアイデアがあれば教えてください。
より視聴者が自分用に「カスタマイズ」できるメディアとして活用してみたいです。
好きなアングル、ずっと見ていたい人を選べたり、さきほどの”えもじょわさん”のように、例えば音だけでも楽む人がいることを前提とした制作にチャレンジしてみたいです。もちろん様々な展開はありますが、日本のマスメディアで、まず主として思い浮かべるのは「国内の視聴者」。現在、YouTubeの字幕の技術が進化しているので、”最初からグローバル市場”を意識した、世界へリーチすることを目指すコンテンツ制作にも取り組んでみたいですね。
観ているひと時に心に訴えかけるだけでなく、YouTubeを通して、実際に人々の行動が変わる。社会課題の解決も目指してみたいです。本当に何かが変わる、そのパワーがあると思います。
Question5
「YouTube Works Awards2022」の審査や応募作品に期待することは?
時代をとらえたカッコいいもの、心を動かすものに多く出会える予感がします。また、新たな価値観、自分で気づかなかった世界との出会いも楽しみにしています。
しかし一番は、「見ているその時」ではなく、「その後」の変化。
消費行動はもちろん、どう生活に変化をもたらし、新たな「ライフスタイル」「心や行動の変化」を生み出すものに出会えるかに期待しています。
Can’t wait!
テレビ東京
プロデューサー
工藤 里紗氏
アメリカ生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。『生理CAMP』『シナぷしゅ』『昼めし旅』『アラサーちゃん』『巨大企業の日本改革3.0 生きづらいです』『インベスターZ』『極嬢ヂカラ』など幅広いジャンルの番組を手掛ける。映画『ぼくが命をいただいた3日間』では監督を務める。2021年『生理CAMP』で「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」メディアクリエイティブ部門ブロンズを受賞。『生理CAMP みんなで聞く・知る・語る!』(集英社)を出版。子供が楽しく経済を学べるボードゲーム『マネーモンスター』を開発発売。