調査背景・概要
株式会社エルテスでは、公開されているSNSデータを独自に収集・分析し、2019年8月より毎月ネット炎上レポートを公開しております。企業の広報やリスク管理を行う方々に炎上トレンドをお伝えすることで、自社のレピュテーション保護を行っていただきたいという想いを持ち、作成しております。
エルテスの定義するネット炎上
▼定義
ネット炎上とは、オフライン・オンラインでの行動や発言に対して、ネット上で批判が殺到し、拡散している状態を指します。対象に対する批判の投稿量が、通常時と比較して有意に多いことが条件となります。
▼炎上事例の収集方法
SNSやメディアの中で、批判が殺到しやすい媒体を複数選定し、常時ウォッチング。その中で、上記の条件を満たす事象を確認した場合、炎上事例と認定しています。
2021年11月のネット炎上トレンド
11月に最も多かった炎上対象は前月より25ポイント増加し76%となった「企業・団体」でした。次いで前月より10ポイント低下し14%となった「個人・著名人」、前月より8ポイント低下し1%となった「マスメディア」と続きます。「企業・団体」の内訳ですが、前月よりも19ポイント増加した「サービス」が全体の32%を占め、「メーカー」が続きます。「自治体・団体」は前月より6ポイント低下し14%となりました。「IT」は6ポイント低下し5%、「インフラ」は5ポイント増加し5%、「教育機関」は3ポイント増加の5%という結果になりました。(図1)
「企業・団体」を対象とする炎上内容では、8ポイント増加した「顧客クレーム・批判」が全体の43%を占めています。次いで、15ポイント低下したものの「不適切発言・行為、失言」が38%となっています。前月と比較すると大きく低下していますが、平均的な数値に戻っています。「不祥事/事件ニュース」は5ポイント増加の11%となり、2ポイント増加した「情報漏えい/内部告発」が5%、前月と変化のなかった「異物混入」は3%を占める結果となりました。(図2)
2021年11月の炎上理解の事例
<店頭における展示に対する批判>
11月6日には、大型雑貨用品店舗の一階で開催されたイラストレーターの個展に対して批判が集まりました。展示された作品が性的要素の強いものだったため、不特定多数の目に触れるエントランスに展示するのは不適切だという批判でした。これを受けて店舗側は人目につく導線側に目隠しを立てるなどの対応を行いました。
不特定多数の来店客の目に性的コンテンツが飛び込んでくるという展示に関しては、典型的なゾーニングの失敗だったと言えるでしょう。そうしたコンテンツを見たくない来店客にとってはセクハラとなる可能性があるためです。過去にも献血ポスターに採用されたキャラクターが、胸を協調し過ぎていると炎上したことがありました。炎上に関しては「本来ターゲットではない人」がコンテンツに触れ、不快感を示すことに端を発するケースが多くあります。こうした事態を避けるため、万人受けするように表現を丸めるのは得策ではありません。むしろ届けるべきターゲットに集中するよう、ゾーニングに配慮することが重要だと言えます。
<キャラクターグッズ化が呼び起こした批判>
11月14日、某有名アニメの公式アカウントがキャラクターグッズとして作中に出てくる「腕章」を発売するとアナウンスしました。しかしこの腕章は、作中において迫害を受ける民族が身に着けることを強要されていた「差別の象徴」であり、ホロコースト下でユダヤ人を区別するために用いられた腕章がモチーフであると考えられていました。そのため、グッズ化そのものに関して批判が寄せられました。巻き起こった批判を受けて、アニメの製作委員会は翌日の11月15日に謝罪文とともに問題となったキャラクターグッズの発売中止を発表しています。
今回の批判に関して重要な点は、「差別の象徴」である腕章を現実社会に持ち出したことが叩かれているという点です。そもそも作中では腕章に対して批判的に描かれていましたが、それがグッズ化されることで安易に身に着けることができるようになり、意味が変化する(差別の容認につながる)というものです。作品世界の中で描かれる分には問題のない要素が、キャラクターグッズ化することで批判を受けるということで、ある種のゾーニングの逸脱といえる出来事でした。
加えてわずか1日で炎上し、翌日には中止を決定したというスピード感にも驚かされます。古くは1960年代に放映された国民的特撮テレビシリーズに対し、作中に登場する宇宙人が原爆被害者を想起させるという理由で被害者団体から抗議を受け、問題の宇宙人が登場する回は放送禁止になったことがありました。当時はテレビの初回放送から抗議に発展するまでに3年近い歳月が経過したことを考えると、現代の炎上速度が早くなっていることを実感できます。
まとめ
2021年11月の事例として、コンテンツの“置かれ方”によって炎上した二つの事例を取り上げました。以前からゾーニングは炎上に関して重要な要素だと考えられていましたが、今後も人々が触れる情報の量が増え続けることを考えると、「本来ターゲットではない人」がコンテンツに触れて不快感を示す可能性はさらに高まると考えられます。今後も重要性は高まる一方ではないでしょうか。
どのようにしてゾーニングを配慮すべきか、という話題は掘り下げていくと無限の議論になります。大型雑貨用品店舗での事例は「人によってはセクハラと感じるコンテンツを、不特定多数の人の目に触れる場所に展示した」と整理すると分かりやすく思えるのですが、ではどこからが「セクハラと感じるコンテンツ」なのか線引きすることは困難でもあります。人の受け止め方(主観)を定量化して測ることはできないため、常に時代の空気や論調を吸収して、自身のアンテナをアップデートする必要があります。そのために日々起きている炎上に関するケーススタディが有効だと考えます。
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