本田技研工業は2021年12月12日に、本経済新聞に広告を出稿した。その広告に書かれていたメッセージには、
「ありがとうフェラーリ。
ありがとうロータス
ありがとうブラバム
ありがとうマクラーレン
ありがとうルノー
ありがとうメルセデス
ありがとうトヨタ ……」
と、F1レースに参戦している、ライバルでもある自動車メーカーや一緒に戦った仲間、関係者への感謝がつづられた。そして、マシンの後ろ姿と共に掲載されたメッセージの最後の言葉は、「じゃあ、最後、行ってきます。」。
12月12日に行われたのは、2021年F1最終戦アブダビGP。ホンダにとって、この日は1964年から参戦してきたF1のラストレースだった。ラストランにあたり、ホンダは全てのライバル・仲間たちに感謝を伝えるメッセージを新聞広告とSNSで発信したのだ。
「F1挑戦の歴史は本当に苦難の連続だったことと思いますが。そんな中でさまざまな難局を乗り越えてこれたのは、”どんな時も常に前だけを見続けてきたチャレンジスピリット”と”共に切磋琢磨してきたライバルと仲間の存在”が根底にあったからこそだと感じました。だからこそ、F1最終戦に挑む広告でも、最後の最後までHondaらしく前だけを見据えながら。ライバル・仲間たちに感謝を示すことで、ラストランでの最高のパフォーマンスに向けた決意表明できないかと考えました」(コミュニケーションプランナー 加我俊介氏)
マシンの後ろ姿という象徴的なビジュアルは、写真家・若木信吾氏が撮影した。
「ビジュアルは今からコースに向かっていくマシンの後ろ姿がいいと思いました。そして既存の写真や場所ではなく抽象的にすることによって、見た人のそれぞれの想いを乗せることができると考えました。時間のない中で撮影するために、さまざまな人の協力があって実現できた原稿です。そして最後のレースでの優勝。本当にカッコよかったです」と、アートディレクター 今井祐介氏。
「HondaのF1ラストランには、さよならではなくありがとうという言葉がふさわしい」と話すのは、コピーライター 三島邦彦氏。「そして、ライバルたちへの感謝、仲間への感謝、ファンへの感謝をまずHondaから言葉にすることで、ファンの人々もそうでない人々も、様々な垣根をこえて共感してもらい、Hondaへの“ありがとう”と“いってらっしゃい”という言葉が生まれる状況を目指しました」。
新聞広告の出稿と共に、ホンダはSNSにも日本語版・英語版でこのメッセージを投稿したところ、F1ファンのみならず、国内外の多くの人から「感動した」「鳥肌が立った」「目頭が熱くなった」など反響を集めた。
その日、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手が優勝。1991年のアイルトン・セナ以来、30年ぶりのタイトル獲得となり、ラストランを有終の美で飾った。
クリエイティブディレクター 東畑幸多氏は「加我、三島、今井から、カンプを見せられた時、“ぜひ実現したい”そう強く思いました。実現までに、超えなければいけない壁はありましたが、この原稿が持つエモーションが、関係者一人一人の心を動かし実現に至ったと思います。SNS上でたくさんの「ありがとうHonda」「いってらっしゃい」という声を目にして、涙が出る想いでした。こういう瞬間があるから、広告はやめられない。そんなことを思い出させてくれる仕事でした」と話した。
スタッフリスト
- 企画制作
- 電通+P.I.C.S.+Fabrica. inc.
- ECD
- 後藤彰久、東畑幸多
- コミュニケーションプランナー
- 加我俊介
- C
- 三島邦彦
- AD
- 今井祐介
- 企画
- 鈴木健太、三浦麻衣
- CPr
- 吉井俊太郎
- Pr
- 池田了
- PM
- 永井聖香
- 撮影
- 若木信吾
- 撮影アシスタント
- 日野敦友
- レタッチ
- 津金卓也
- D
- 大渕寿徳、藤谷力澄
- 戦略プランニング
- 大松邦裕
- メディアプランニング
- 篠木正浩
- AE
- 岡見光仁