P&GがCESに出展する3つの目的
2019年からCESに出展しているP&Gが、今年もプレス向けにキーノートを行いました。はじめにチーフブランドオフィサーのMarc Pritchard氏から、P&GにとってCESをどのような機会にしたいかという話があり、「テクノロジーを活用することで商品のパフォーマンスを高めたことを伝える場」「より良いブランド体験を提供するために協業パートナーを見つける場」「変化に対してリードする側に立つためのヒントを見つける場」の3つが紹介されました。P&Gのブランドは洗剤やシャンプー、紙おむつといった日用品が中心ではありますが、そうした商品のパフォーマンスを最大化させていくためにも、CESは欠かせないと考えているようです。
1点目の「テクノロジーを活用することで商品のパフォーマンスを高めたことを伝える場」について、そもそもP&Gのブランドは、お客さまの商品利用時における商品のパフォーマンスがすべてだとし、お客さまに対して商品の果たす役割(Job to be done)を進化し続けなければならないとPritchard氏は述べます。
その一例として電動歯ブラシのオーラルBの取り組みが紹介されました。オーラルBがテクノロジーを活用してどの様に進化したのかを、グローバルオーラルケアのシニアバイスプレジデントAlita Vegas氏から説明があったのですが、取り組み内容から2つのキーワードがありました。「コーチ」と「エデュケーション」です。
紹介された最新のオーラルBはスマホと連携することなく、電動歯ブラシ自体が、利用者に正しいブラッシングの力の入れ方、磨くエリア、ブラッシングする秒数などを、まるで歯医者さんが横にいて教えてくれるように伝えてくれるというものです。まさに健康な口内環境を手に入れるためのコーチのような存在だとVegas氏は紹介しました。
この「コーチ」もしくは「コーチング」は、以前フィリップスの取り組みを紹介した際にも出てきたキーワードです。商品のパフォーマンスを最大化させるために「コーチ」になるという姿勢で、テクノロジーを自社に取り入れていくという方向性が、巨大企業の2社から示されているといえます。
もう一つの「エデュケーション」は、お客さまが歯磨きを毎日のルーチンや習慣にすることにつながるような教育コンテンツを提供する点です。教育コンテンツは、ただの読み物という形で提供するのではなく、ゲーミフィケーションを活用して、楽しみながら学べるという方法で伝えています。ここでもうまくテックが使われています。
賞金1万ドルのピッチ開催でパートナー発掘へ
2つ目の「より良いブランド体験を提供するために協業パートナーを見つける場」については、おそらくこれまでも自社が出展したり、他社の出展を見たりすることで、協業パートナーを見つけてきたと思いますが、今年彼らから発表されたのは「イノベーションチャレンジ」という取り組みでした。P&G主催でピッチを開催し、優勝者には1万ドルの賞金と提案内容についてP&Gと一緒になって取り組むことができるという賞品が与えられるようです。
そして「変化に対してリードする側に立つためのヒントを見つける場」については、2つの発表が興味深いものでした。それは「メタバース」と「宇宙」に関する内容でした。この2つはCES2022のホットワードであり、この2つに絡めたプレゼンテーションがしっかりと今回用意されていることに驚きました。
注目テーマ「メタバース」「宇宙」の取り組みも紹介
1つ目のメタバースに関する内容は、P&G ビューティのCEOであるAlex Keith氏から紹介されました。P&Gビューティは今回メタバースの専門家たちの協力の下、beautysphereという仮想空間をオープンさせました。ここにアクセスすれば、何かを探索をしたり、学んだり、誰かとつながりを作ったり、一緒に楽しんだりすることできるようで、これまでのような一般的なウェブサイトと異なり、イマーシブ(没入感のある)体験を消費者に提供します。ブランドと人々をつなぐ新たな形を提示することを目指し、これからのブランド構築のあり方にしたいとP&Gは考えています。
そしてもう一つの宇宙は、宇宙空間における洗濯体験を作り出すという取り組みです。現在宇宙では洗濯をすることができないようで、宇宙飛行士たちは宇宙でのミッションを完遂するために、その滞在期間に必要な枚数の服を荷物に詰め込んで着替えるだけで、宇宙で服を洗濯することはなかったようです。そのような状況に対して、Tideが宇宙におけるランドリーソリューションを提供する取り組みが始まっているようです。
「テクノロジーを活用することで商品のパフォーマンスを高めたことを伝える場」「より良いブランド体験を提供するために協業パートナーを見つける場」「変化に対してリードする側に立つためのヒントを見つける場」という3つの視点は、テクノロジーを自社に組み込んでいこうとする企業やCESとの関りを検討している企業にとって、参考になるのではないかと思います。
玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー
広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。2017年からシンガポールに駐在し、P&G、ユニリーバ、ネスレ、ロレアル、ペプシコ出身の外国人マーケターたちと広告開発に取り組む。宣伝会議「オリエンテーション基礎講座」(2022年1月開校予定)講師。アドタイのコラムニストとして「世界で活躍する日本人マーケターの仕事」の連載を担当。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。