【CES2022】ヘルステックが実現する安心の海外旅行(玉井博久)

自動運転や宇宙関連技術が注目を集めた「CES2022」。今年は米国ラスベガスの見本市会場とオンラインのハイブリッドで開催され、1月7日に閉幕しました。本稿では、江崎グリコの玉井博久氏が注目ポイントを速報します。

 

航空会社がコロナ検査キットを提供

CES2022では、史上初めてヘルスケアカンパニーによるキーノートが行われました。AbbottのCEOであるRobert Ford氏が登壇し、彼らが取り組むヘルステックが紹介されました。中でも興味をひいたものが、ユナイテッド航空とヘルステックカンパニーeMedとの協業による、コロナ検査キットの取り組みでした。

ユナイテッド航空に限らず、世界中の航空会社がコロナパンデミック以降危機に面しています。人々の空のインフラを担う立場として彼らがこの困難を打破するために着目したのが、コロナ検査でした。お客様に空の移動を提供するためには、コロナ検査をよりスムーズなものにする必要があると考え、AbbottとeMadとパートナーシップを結ぶことにしたようです。

 
現在ほとんどの国において入国するためにはPCR検査の入国前実施(と陰性証明)が必要です。この検査の手間を乗客に負担させたままにするのではなく、航空会社側であるユナイテッドが顧客のために検査キットを準備することに決めました(紹介された内容は、アメリカから他国に海外旅行し、アメリカに再入国するために必要な検査が想定されています)。

顧客はウェブを通じてこのキットを旅行出発前にオーダーしておき、海外旅行の荷物に入れて出発します。そして海外旅行を終えてアメリカに入国する前に、ネットにつながる場所ならどこからでもテレヘルス(遠隔医療)にアクセスすることで、例えば宿泊しているホテルにいながらにして、自らがキットで検査して、陰性である証明を受けることができるというものです。なお検査結果は15分ほどで出るようです。

 
このキットはアメリカのCDC(疾病管理予防センター)が設ける基準をクリアしていて、FDA(米食品医薬品局)の承認も下りた初めての旅行者向けのコロナ検査キットのようです。このキットがあることで、乗客が他国からアメリカに入国する何時間前にどこで検査をしないといけないかを考えて、検査の予約をするといった手間や不安を取り除くことにつながります。

ユナイテッド航空で顧客のコロナ検査を統括しているAaron McMillan氏は、「この取り組みによって私たちは安全にそして自信をもって旅行ができるようになる」と言います。

 

安全性を担保し、行動を後押しするサービス

今回紹介されたこの検査キットとテレヘルスの仕組みは、他国からアメリカに再入国する旅行者に向けたものではありますが、この仕組みが他国でも同じように取り入れられるなら、人々が検査の予約をすることなく簡単にコロナ検査を受けることができ、かつ自分は陰性であることに自信を持って、海外旅行や国内旅行に出かけることができるようになると期待できます。

「イノベーションとテクノロジーの力によって人々が安全で不安のない海外旅行ができるようになることをうれしく思う」と今回の協業パートナーであるeMedの共同創業者Patrice Harris氏は話します。オンデマンドの迅速な検査プロセスは、利用者が家からでも、オフィスからでも、宿泊先のホテルからでも、どこからでも、そしてどの国からでも利用できるサービスです。利用者は自分がコロナに感染しているのかを知ることができます(Test to know)。また利用者は飛行機に乗ったり、安全に職場に向かったり、子供たちを再び学校に戻れるようにしたりできます(Test to go)。人々が「行動できる」ことを後押しできると彼女は述べます。

さらに、このヘルステックによって人々が治療にいち早くアクセスできるようになります(Test to treat)。コロナに限らず病気で体調がよくない時に、家にいながら、適切な治療をなる早で受けることができるわけです。人々は病院に行く必要はないため、病気の感染拡大を最小限に抑えることにもつながります。そして1分でも早い対応が早期回復のカギであるため、病気から早く回復することも期待できます。

eMedはこれからも、人間を中心に据えた、人々の健康な生活を実現するヘルスケアテクノロジーに取り組んでいくといいます。

 
コロナパンデミック発生から約2年間、私もシンガポールから一切出ておらず、日本にも一度も帰っていませんが、こうしたヘルステックの取り組みによって、もう一度人々が簡単に海外旅行や国をまたいだ移動ができる日を楽しみにしています。
 

玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。2017年からシンガポールに駐在し、P&G、ユニリーバ、ネスレ、ロレアル、ペプシコ出身の外国人マーケターたちと広告開発に取り組む。宣伝会議「オリエンテーション基礎講座」(2022年1月開校予定)講師。アドタイのコラムニストとして「世界で活躍する日本人マーケターの仕事」の連載を担当。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。

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