購買データでは分からないショッパーインサイトを知る
─今回の取り組みについて教えてください。
榊原:キリンビバレッジは2021年から、主力ブランドのひとつである「生茶」を“環境のフラッグシップブランド”と位置づけ、ラベルレス商品や100%リサイクルペットボトルの導入などに取り組んでいます。一方で、環境訴求が売り上げにつながっているのか、またお客さまにその価値がきちんと伝わっていないのではないかという仮説があり、それらの検証をしたいと考えていました。そんな中、リテールAI研究会の枠組みの中でコニカミノルタが実施している「棚前行動研究会」で今回のお話をいただきました。
リアルなお客さまが利用する売り場で検証するためには、小売企業の協力が不可欠です。今回はドラッグストアチェーンさんからリテールAI研究会の取り組みを通じて「検証してみたい」と手が挙がり、互いのニーズがマッチしました。横浜市内にある同一チェーンのドラッグストア2店舗の常温飲料売場に天井カメラを設置し、両店舗の棚前行動をA/B テストで検証しました。
―Go Insightにはどんなことを期待していましたか。
榊原:POSデータだけでは取れない、お客さまの購買に至るまでの一連のプロセスを可視化できる点を魅力的に感じていました。お客さまに環境配慮商品の価値をご理解いただけているかの検証は、売り上げという結果だけなく様々な側面から見ていく必要があると考えているからです。
売り場改善の効果を数値化
―実証実験の結果と、そのデータからどんな気づきが得られましたか。
榊原:両店舗とも、2週間ずつ2つの期間に分けて実施しました。一方の期間は何もしていない場合、他方は店頭POPによる売り場改善を行い、その差を比べたところ、「生茶」の商品接触回数は+45.3%と大幅に伸びました。このことから、売り場改善が奏功した可能性があることが分かりました。さらに、売り場改善を実施した期間は雨天の日が多く、来客が伸び悩み各メーカーとも軒並み商品接触・購入が減少する中で、当社の商品は相対的に影響が少なかったことから、販促物の効果が出た可能性があったことも分かりました。
Go Insightでは、お客さまの購買に至るまでのプロセスである「立ち寄り」「滞在」「接触(手に取る)」「購買」のそれぞれの割合を数値で示すことができます。一般的に、「立ち寄り」から「滞在」、「滞在」から「接触」に至る過程でその割合が大きく下がってしまいます。いかに目を引き滞在してもらえるような楽しい売り場づくりをメーカーとしてご提案できるか。また、売り場に立ち止まったときに手に取ってもらえるような、分かりやすく目に留まる商品パッケージの重要性も改めて実感しました。
―この結果について、実験に協力した店舗側からはどのような反応がありましたか。
紫藤:POPをつけることで売り上げが上がることは頭では分かっていたものの、数値で裏付けられたことで改めて発見があったと話されていました。
売価が変わらずとも訴求方法を変えることで、最終的な売り上げだけではなく、通過から立ち寄り、滞在、接触、購入までの各プロセスのコンバージョン率も変わるということが店舗さん側と共通認識として持つことができました。それにより、価格以外で効果の高い販促方法をこれから生み出していけるのではという気づきがあったともおっしゃっていました。特に日本市場においては少子化で客数は伸びないため、いかに客数、売価以外の部分でポジティブな要素を示していけるかが我々メーカーと店舗さんの腕の見せどころだと思っています。
―今回の実験からはどんな示唆が得られましたか。
榊原:今回の実験は、同じ価格で店頭販促物の有無だけが変わるというA/Bテストでしたが、訴求方法をいくつかのパターン行った結果がどうなるかも今後検証してみたいですね。例えば環境訴求以外にも、「ラベルをはがす手間が省ける」といった手間の部分で訴求したら反応がどう変わるのか、といったことです。
また、その店舗で購入されたラベルレスの商品によって、どれだけプラスチックやCO₂などの削減につながったのか、環境へのポジティブなインパクトを重さや距離で換算してお客さまにPOPで訴求するということもできるのではないか、などと考えています。
柳原:店頭では、アンケート調査などとは違った消費者の「本音」が見えることがあります。「環境訴求でモノは売れない」と言われることもありますが、今回の結果を見ると環境訴求のメッセージが消費者へしっかり届いていると言えるのではないでしょうか。
また、流通に対するアプローチとしても、キリンビバレッジさんの環境訴求商品を継続して売っていただくことで、「年間でこれだけのプラスチックの削減ができ環境貢献につながった」といった訴求もできそうですよね。
榊原:「訴求方法を変えたら売り上げやお客さまの共感度も上がる」という示唆も得られたので、柳原さんがおっしゃったような訴求方法についても、次年度に向けて今社内で検討しています。
メーカーと流通で“データ”という共通言語を持つ
―今後の展望をお聞かせください。
榊原:同じ景色を見ていたとしても、メーカーと流通では、全然違うものに見えている場合もあり得ます。それを“データ”という共通言語を通して見ていくことで「では次どうしていくか」と同じ方向を見て取り組めることに意味があると思っています。
お客さまの購買行動を紐解くデータを収集・蓄積していき、店舗や自動販売機などの各チャネルで蓄積したものも包括していきながら、最適なマーケティング施策に生かしていければと考えています。
柳原:今回の取り組みは「流通さまとメーカーさまの共通言語としてデータを使う」がキーワードでした。データドリブンな営業活動やマーケティングを進めていく上での第一歩としては、非常に良い取り組みができたと思っています。
今回の実験では天井カメラから顧客行動を追いかけましたが、カメラを棚につけることでお客さまはどれだけPOPに注目してくれたかという視認性も定量的に測ることも可能です。さらに、企業として蓄積している様々なデータを組み合わせて統合的に分析することで、マーケティングにROIという観点で「どういった施策がどれだけ売り上げに寄与しているのか、またはしていないのか」を可視化できます。今後も、様々な側面でメーカーさまや流通さまの販促施策をお手伝いできればと思います。
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