「これ、俺の話だ」「私の話だ」人々が共感する“燃え殻泣き”が起こる理由(ゲスト:燃え殻)【後編】

原作者が抱くリアルな映画化の感想

中村:初の原作が映画になって、実際ご覧になって原作の思いや違いってありました? こうなるんだ、みたいな。

権八:偉い。ちゃんと映画に戻した。

燃え殻:いや。えっとね。何ですかね…。自分で書いちゃったものなので、いいなと思ったんですよ。思ったんですけど、なんていうのかな……。僕、妹いるんですけど、妹ってかわいいかかわいくないか、分かんないじゃないですか。

権八:はいはい。

燃え殻:同じように、めっちゃいいかめっちゃよくないか、分からないです。もう根本的に好きで、自分の一部になっちゃっているから、離れて見れないというか……。ちょっとくっついちゃっているんですよ。自分とどこかが。

中村:近すぎてね。

燃え殻:だから、僕は最初見たときに感動したんですけど、人に勧められるかどうかは分かんない。自分が好きすぎて(笑)。

権八:まあ、そうですよね。

燃え殻:「俺、好きすぎるな!」みたいな。

権八:自分のことですもんね。

燃え殻:そうなんですよね。

権八:多少描写の仕方は小説と映画で違うところもちろんあるし、小説に出てこないキャラクターもいますよね。

燃え殻:そうですね。大島優子さん。

権八:大島さんそうですよね。だから、細かいことで言うと、「イメージとちょっと違うな、この人」みたいなのはありましたか?

燃え殻:もちろん、ありますよね。

権八:あっても、それを言ったところでね。

燃え殻:それは映画の良さというか。

中村:言ってもいいんじゃないですか?

燃え殻:言っても全然いいです。でも、監督さんやプロデューサーさんも、みんな好きでやってくれてたんで。もうそれが嬉しくて。

権八:そうですよね。

燃え殻:嬉しい。

中村:これ、私小説ということは、主人公は相当に燃え殻さんなわけですよね。

権八:むちゃくちゃ燃え殻さんだよ。

中村:それが、私小説、原作、脚本のフィルターを通って、森山未來で映像で再現されているのを見て……。

燃え殻:一回謝罪ですね(笑)。もう森山さんが素晴らしすぎて。

中村:素晴らしいっすね!

燃え殻:本当に素晴らしいですよね。20代の童貞から46歳のクタクタのおっさんまで、短期間でやるっていう。「こんな職業あるんだ!」と思いましたよ。森山さんを見ると「役者ってすごいな」って言うしかない。

権八:分かります。

中村:ちなみに映画の中でも、とにかくテロップをつくるのが大変だっていう。主人公の森山未來がずっと長い期間職に就いていた、燃え殻さんのプロフィールを見ると、テレビ美術制作会社企画っていうのは、まさにそういう仕事ですよね。

燃え殻:そうなんですよ。

中村:ドンピシャなことをやられてたんですね。

燃え殻:そういうテロップをつくったりね。

中村:当時から大変でした?

燃え殻:そうですね。今はもう改善されましたけど、昔は人も少なくて、バラエティー全盛期。その頃はもうすごかったですね。でも僕も選択肢がなくて、ここで社会人として頑張るか、あとはもう何もねえぞ、っていうところだったんで。選択肢がなくて、がむしゃらにやるっていう時期があってよかったなとは、今は思いますけど。

自分でもよく言っちゃうんですけど、「別に逃げてもいいよ」みたいな。でも、あのときの自分には言えなかった。「逃げたら、俺本当に終わる」って思ってたんです。ここで頑張るしかないって思えたのは本当にありがたかったですね。僕みたいな中途半端にいろんなところに足かけてたようなヤツは、1回ああいう目にあった方がよかったって思いますけどね。

権八:萩原聖人さん演じる三好英明とかね。

中村:社長ね。

権八:(東出昌大さん演じる)関口健太も。

燃え殻:まだ本当に働いてますね。

権八:マジですか?

燃え殻:働いてます。関口は小説の中でいなくなっちゃう役なんですけど、僕は五反田のIMAGICAで、関口と一緒に試写を見ました。

一同:ええ~!すごい!

燃え殻:15、16年一緒にね。もっとかな。一緒に働いてたんで。彼はまだ現場のトップでやっているんです。なんか感慨深かったですよね。

権八:グッときますよね。

中村:これを聞くのはちょっといいのか?と思うんですけど、燃え殻さんご本人も、伊藤沙莉ちゃん演じるヒロインの加藤かおりとの若い頃の初恋のように、影響を受けたんですか。

燃え殻:エッセイで書いちゃったんですけど、女の人に一番影響を受けたなって思っています。付き合う人には、尊敬が入っちゃうんですよ。

一同:へえ~。

燃え殻:その子は「変わっていること」を演じている子でした。今考えたら、彼女も超必死に一生懸命「変わりたい」「普通じゃない子になりたい」って思っていたのかなって。でも、僕にはキラキラ見えるぐらい個性で彩られたんですよ。僕は個性がないとか、社会から需要がないと思っていたので。それで彼女がすごく光り輝いて見えて。男が付き合う理由としてどうかと思うんですけど、「こういう人になりたい」と思って尊敬しちゃったんですよね。それは今考えたら、「お前それはうまくいかんわ」「そんな男と女いねえだろう」って思っちゃうんですけど、そのときはそう思ったんですよね。

これもラジオで言うことかどうかは分かんないけど、ラブホテルで彼女が寝てるときに、初めてホっとしたんです。何て言うんだろう。彼女が世の中のどっかにいなくなっちゃうことは、今はない。今この瞬間はないんだと。こんだけ需要があって、こんなに面白い人がいなくなるのは怖いみたいなね。そう思ってました。

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