片山 義丈氏
ダイキン工業 総務部広告宣伝グループ長
1988年ダイキン工業入社、総務部宣伝課、1996年広報部、2000年広告宣伝・WEB担当課長を経て2007年より現職。業界5位のダイキンのルームエアコンを一躍トップに押し上げた新ブランド「うるるとさらら」の導入、ゆるキャラ「ぴちょんくん」ブームに携わる。 統合型マーケティングコミュニケーションによる企業ブランドと商品ブランド構築、広告メディア購入、グローバルグループWEBサイト統括を担当。日本広告学会員。
小堺 吉樹氏
ネスレ日本 マーケティング&コミュニケーションズ本部
媒体統括部 媒体統轄室
2011年ネスレ日本入社。業務用製品のセールスを経て、2015年マーケティング部へ異動。業務用コーヒーマシン担当として、新しいコーヒーマシンのローンチや、「ネスカフェ サテライト」といった家庭外における新しいビジネスモデルの創造に注力。2018年より媒体統括部にて、「ネスカフェ」や「キットカット」といった製品のペイドメディアを担当。
平尾 喜昭氏
サイカ 代表取締役CEO
慶應義塾大学総合政策学部卒業。父親の倒産体験から「世の中にあるどうしようもない悲しみを無くしたい」と強く思うようになる。大学在学中に出会った統計分析から経営支援の可能性を見出し、2012年2月に株式会社サイカを創業。統計学と経済学をベースに、これまで数多くの大手クライアントにてマーケティング精度向上のコンサルティングを行ってきた。
Cookie規制の影響でデータの先の「人」を見据えた「仮説→検証」の意識が高まった
―昨年、2021年の潮流をどのように捉えていますか。
小堺:Cookie の利活用制限をはじめ、データ領域の制約が増え、マーケティングの打ち手を考え直さなければならなくなったことが、一番の変化だと思います。改めてマーケターが原点に立ち返って「人」に向き合うことの意識を高めました。特にデジタル広告においては、今まであらゆるデータを活用した配信が簡単に実現できていたがゆえに、顧客のことを考え、深く知るという基本的なプロセスがおろそかになっていたのではないかと感じます。
平尾:Cookie 規制やコロナ禍を背景に、マーケターが本来やらなければならなかった原点に立ち返り始めたのが2021 年でしたよね。
片山:データを使ったターゲティングの意味を再度見直す必要がありそうです。確かにセグメンテーションは重要ですが、本当にこれまでのような細かい粒度のターゲティングは必要なのかという疑問もわきます。また、広告だけでマーケティング課題を解決しようとすること自体が、ますます限界に近付いているのを認識した年でもありました。当社はコロナ禍で、換気に関するコンテンツをオウンドメディアで発信しましたが、こうしたコンテンツが生活者に支持され、またインサイトの把握に適切な場合もありました。
平尾:広告に限らず、多様なマーケティング活動全体を把握しながら、一人ひとりの顧客に対して適切なコミュニケーションを取る必要性が生まれていますよね。
―データ利活用についてどのような考えをお持ちですか。
片山:大切なのは「データを信じすぎない」ことだと思います。データからいかに、仮説を構築できるか。行間・余白を読み解く力が、ますます重要になっていると思います。
平尾:同感です。当社はデータ分析の会社ですが、お客さまには「当社が提供する分析結果は、答えではなく議論するための材料」と強く訴えてきました。
片山:勘と経験ではなく、マーケティングはデータドリブンになっていく必要はありますが、データに依存しすぎないことが重要ですね。
平尾:私たちのようなデータ分析の会社が、こんなことを言うとお叱りを受けそうですが、仮説がないとどれだけデータがあったところで、意思決定をすることはできません。
―本日の座談会のテーマである「マーケティングの全体最適」についての皆さんの考えをお聞かせください。
平尾:当然、プロモーションだけでなく、マーケティングの4P すべてを統合した戦略が必要であることは言うまでもありません。さらに、ここ1 ~2 年の傾向として「顧客起点」への流れがある中で、この全体最適に深さが求められるようになっています。一方で深さのある全体最適は、他部門や経営層などの上位レイヤーへの働きかけや巻き込みも必要となるので、実現の難しさは理解しています。
小堺:全体最適とは何を指すのか、と考えた際、私は「短期的及び長期的に売上を一番上げるためにはどうすればよいのか」ということだと捉えています。そう考えると、全体最適を追求することはビジネスにおいて必然です。一方で、マーケティング施策には、あらゆる可能性・組み合わせが存在します。その中から明確な解を導き出すことは非常に難しく、試行錯誤の毎日です。「こうすればよい」という正解はなく、仮説を立て検証を繰り返すしかないと考えています。
変わらない本質への原点回帰と変わるニーズ捕捉を両立するこれからのデータ分析とは?
―近年、ワン・トゥ・ワンのマーケティングを目指す企業は増えていると思いますが、それと全体最適はどう両立すると思いますか。
片山:いまだかつて一人ひとりのニーズに応えたコミュニケーションができたことはなく、まだまだワン・トゥ・ワンマーケティングは実現しえないと思っています。加えて、そもそもワン・トゥ・ワンを目指すべきなのかという疑問も抱いています。私は、お客さまはある程度の「塊」で捉えることができると考えているので、自社の施策の目的や仮説に応じたセグメントの粒度を考えていけばよいのではないでしょうか。
小堺:私も、広告においてはワン・トゥ・ワンの実現を主軸に置いていません。まずは、ブランドや製品ごとに対象となる顧客がどのような「人」なのかを考えたうえで、その「人」たちに、どんな接点でどんなコミュニケーションを行うことが最適なのかを考えていきます。
平尾:小堺さんがおっしゃっていた「人から始まってそこに合わせて最適化を考える」というのは、まさにその通りですね。最適化を可能にする手法として、日本でも統計をベースにしたMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)が活用され始めています。実は米国では一時期、個人をログで追うMTA(マルチタッチアトリビューション)が急激に浸透し、MMM を凌駕する勢いだったことがありました。ところが今、MTA はどんどん勢いをそがれています。皮肉なことに個人を追って、個人に最適化していった結果、全体が最適化されなかったからです。
―これからのマーケティングはどのように変化していくと思いますか。
小堺:「仮説を立てる→実行する→ 検証する」。この基本的なサイクルの起点となる仮説を構築する力がますます求められるようになるのではないかと考えます。
片山:時代が変わっても、本質的なところは変わらないと思っています。むしろ、変わらないところが大切で、そこにいかに目を向けていくのかが大事なのです。
平尾:原点回帰という意味では変わるのかもしれませんが、片山さんがおっしゃるように変わらないところに戻るべきだと思っています。原点回帰をよりよい形で行うためには「検証」を担うデータ分析の方法が重要です。全体把握の精度と頻度をどれだけ上げられるかが問われると思います。常に変遷する消費者ニーズ・動向を捉えるために、日常のPDCA に分析結果を取り込めるよう、サイクルやスピードを上げていくことが重要だと思います。
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