これまでと異なる教育
─まずは経済産業省としての「リスキリング」の定義を教えてください。また、省内で行われている企業支援の取り組みについても教えてください。
平山:我々が定義する「リスキリング」とは、新しい職業に就くため、あるいは今の職業に必要とされるスキルの大幅な変化に対応するためにスキルを獲得することです。個人においては自らスキルを学ぶことであり、企業としては従業員にスキルを獲得させていくことです。
DXを推進していく上では様々な課題があるのですが、特に人材に関する課題が重要だと感じます。人材育成については、「リスキリング」というワードが世に出る以前から課題でした。ただ、現状がこれまでと違うのは、社会やビジネスがデジタルによってこれまでにないほど大きく変革している、ということ。その点を踏まえると、人材育成施策を従来の「学び直しが大事」という延長線で考えるよりも、「リスキリング」という新たなワードと概念で捉え直す必要があると考えています。
経産省が取り組むリスキリングの施策としては、学習環境を拡充する支援という観点から「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を2017年度から行っています。こちらはITやAI、データサイエンスなど将来の成長が見込まれる技術領域において、一定レベル以上にある人材のキャッチアップを図ろうという試みです。現在では、経産大臣が116講座を認定し、厚労省の提携により受講費用の50%が支給されるなどの教育給付金制度を利用することができます。
各種施策を草の根的に始動
─リスキリングというものは、デジタル化への大きな変革の中で捉えるべき、ということですね。その点、北國フィナンシャルホールディングスが行ってきた試みは、リスキリング制度を取り入れた民間事例の先駆けといえます。お取り組みをご説明いただけますか。
西村:当社ではこれまで、組織体制の変革やペーパーレス化、オフィスの省略化など、幅広くデジタルを活用しながら取り組んできましたが、 DXというのは全社的に推進するべきものだと考えています。そうなると、DX化を推進するための知識や技術は、全社員が持っておくべきものだと分かります。
リスキリングを全社的に進めるには、まず「どんな人材が必要なのか?」を明らかにしなければなりません。なぜなら、こうした指針がなければ何を学べばよいのか分からないからです。
そこで、まずはスキルマップを策定し、法人担当者や個人担当者、本部企画のチームにはこんなスキルが要るよね、と部署別に区分けし、開示していきました。それをベースに勉強会を開き「今、どんなスキルが弱いのか?」という初歩的な確認や「なぜ、デジタルスキルが必要なのか?」というそもそも論についての啓蒙活動も進めていきました。
そうすると、「もっと基本的なところから教えてほしい」というニーズも出てきます。そういった方向けには「デジタル人材への第一歩勉強会」という入門レベルの内容を、草の根的に定期開催しています。また「ITなんでもQA」という相談窓口を設け、気軽に何でも聞ける場所をつくりました。
一方、全社員向けとは別に、より高度なデータサイエンティストの育成も並行して進めているのですが、これはやりたい分析があっても実行できる人材がいない、という部署間共通の課題がきっかけでした。
そこで各部署から選りすぐりの人材を集め、データ分析の座学に始まり、最終的には分析結果の評価まで行えるよう進めていきました。今後、彼らがコア人材として、各部署でその知識を広めていく、という流れなわけです。
また、彼らがデータサイエンティストとして獲得したスキルは、社内浸透のみならず、お客さまの来店予測を行うことで適切な人員配置をしたり、口座が不正に利用される前に予め感知できるようにしたり、といったことに活用されています。
平山さんがおっしゃるように、社内全体でDXを推進していく鍵は結局、「人材」なんですよね。その点を明確にせず、「デジタル化の流れだから」といった動機付けでは、社員たちの真の育成にはつながりません。
社員一人ひとりがそこにちゃんと納得できるよう丁寧に説明することを心掛けています。というのも、我々が最終的に目指しているのは、会社側が必要なスキルを提示し、それを社員一人ひとりに選んでもらうこと。そこをサポートするのが私たちの役目だと感じています。
─リスキリングというものは今後、採用やブランディングにも活かせるのではないかと思うのですが、その点についてはどう思われますか?
佐々木:まさにそうだと思います。組織として学べる環境が整っていることは、働きやすさやホワイトな職場であることと同じぐらい、企業にとって重要な要素だと思います。そういった意味では採用面だけでなく、企業のイメージアップやブランド力の向上にも大きな効果が見込めるでしょう。
当社では、20年前から多くのシステム的な改革を進めてきました。この20年の経験からも、リスキリングは企業が変革するための重要な要素だと感じています。こうした試みを継続的に続けていくことで、ホールディングス全体の価値も高まっていくのだと思います。
……続きは広報会議2022年3月号で!巻頭特集では、リスキリングの他、「男性育休」「チル(癒やし)」といった、2022年、生活者からの共感を呼ぶ社会トレンドについて有識者に語ってもらっています。
広報会議3月号
【特集】
企業の“好感度”を上げる
企画・発想
GUIDE
企画の前に押さえておきたい
メディアに聞いた2022年注目キーワード
企画のヒント1リスキリング(学び直し)
北國FHD×経産省×『日経ヴェリタス』編集長 座談会
ロードマップの見える化が肝
企画のヒント2男性育休
『FQ JAPAN』編集長×ファザーリング・ジャパン代表理事×積水ハウス 座談会
法改正でどう変わる?発信と浸透が鍵に
企画のヒント3チル
リラクゼーションドリンクメーカー×アロマ調香デザイナー 対談
余白のある「チル」の感覚が必要
【特集2】
事例研究
ニュースバリューの高い広報
CASE1
食糧危機を救う代替食
自動車部品メーカーが「昆虫食」に新規参入
課題解決と市場理解を目指す、広報施策とは
ファインシンター「コオロギスナック」
CASE2
耳にやさしいマスク
“めがねのまち”から生まれたマスク
浸透のカギは賛同者を増やす巻き込み力
ササマタ「ZiBi」
CASE3
デジタルデトックス
コロナ自粛でブームとなった家庭菜園通じて
“自産自消”のライフスタイルを提案
タキイ種苗「UETE」
CASE4
食品ロス削減
予想以上のスピードで臨機応変な対応が求められた
牛乳消費拡大キャンペーンの広報対応
明治「モ~っと飲モ~っとプロジェクト」
COLUMN
「2地域居住」をオウンドメディアで発信
日本航空「OnTrip JAL」
【特集3】
プレゼンの心得と伝わるビジュアルの基本
テレビリサーチャーに聞く!
メディアがつい読んでしまう情報まとめ術
喜多あおい(テレビ番組リサーチャー)
Instagramの「ビジュアル」づくり
瞬時に心を動かすための3つのステップ
佐々木 愛実(コンセント デザイナー・アーティスト)
ブランディングにつながる写真選び
続きが読みたくなる仕掛け
前田鎌利(プレゼンテーションクリエイター)
など