赤ちゃん本舗×サクラクレパス対談 長寿企業に聞く!コロナ禍の周年事業

『広報会議』では、長寿企業から学ぶ企画「周年イヤ―の迎え方」を連載している。今回は、2021年12月に開催した「リージョナルサミット2021 大阪」内で講演された、2022年に90周年を迎える赤ちゃん本舗と、2021年に100周年を迎えたサクラクレパスの対談をレポートする。コロナ禍で周年を迎えることとなった両社。そんな中で注視したのは、理念に立ち返ることだったという。

※本記事は、2022年2月1日発売の『広報会議』2022年3月号の転載記事です。

赤ちゃん本舗 代表取締役社長 味志謙司氏

あじし・けんじ 1993年 法政大学経営学部卒業後、イトーヨーカ堂入社。2007年赤ちゃん本舗出向。2010年黒字化の一翼を担った。2014年に始めたリ・ブランディングの指揮をとり、コーポレートメッセージをはじめ企業理念を刷新し、社内の意識改革にも注力。2021年3月から現職。

 

サクラクレパス マーケティング部 部長 今川清隆氏

いまがわ・きよたか 1985年サクラクレパス入社。中央研究所に勤務、樹脂膜の剥離技術を担当。1992年、学芸員資格を取得しサクラアートミュージアム勤務。その後、サクラクレパスが展開する文化事業であるアートサロン事業部へ。アートサロン事業部を兼務として、2016年から現職。

 
2021年、創業から100周年を迎えたサクラクレパスと2022年90周年を迎える赤ちゃん本舗。

両社の周年イヤーの迎え方から見えてきたのは、従来の周年事業とコロナ禍の企業が迎える周年事業の意味合いは大きく異なってきているという事実だ。

企業価値を見つめ直すきっかけ

その影響について、赤ちゃん本舗の代表取締役社長 味志謙司氏は次のように述べる。「弊社はこれまで、販促プロモ ーションやイベント中心の周年事業を行 ってきました。ところが社会はコロナに
よって激変し、出生率が低下したことで大きな影響を受けました。その中で90周年を迎えるにあたり、この先どんな企業でありたいか、という社会的価値が問われているのを強く感じます」。

本質を突き詰めた先に見えたのが、 “赤ちゃんのいる暮らし”を知りつくした会社として「子育て環境への貢献」を徹底することだったと味志氏は言う。「例えば、現在進めているのが “ウィズアカチャンホンポ” という異業種間の共創プロジェクト。先日、ミールキットの会社と手を組んだのですが、これにより離乳食だけでなく、子育てで大変なパパ・ママの食生活を支えることもできる。まさに企業理念に適っているわけです」。

子育てには大変な労力が伴うもの。それをサポートすることは即、社会貢献へとつながる。そこがはっきりと見えたことは、次の100周年を見据える企業の節目となった。

「大切なのは、社内の一人ひとりが何をすべきか、という点でバラバラにならないこと。そこで、企業としての方向性を示した “ブランディングブック” を社内向けに配布しています。それを読んだ上で何を実行するのか。実際に体現することが自主性につながると考えています」。

 


 

“次の100年”のために

対して、サクラクレパス マーケティング部長 今川清隆氏は次のように説明する。

「100周年を迎える7年ほど前から、『サクラクレパスって何者なんだろう?』ということを社員で考え始めたんですね。ユーザー調査やヒアリングなどから分か ったことは、弊社の桜のロゴマークが全体の90%以上の人たちに認知されていたということ。また、そこにはお母さんや友達との『楽しかった』『嬉しかった』という温かい思い出が紐づいていました。そこにネガティブなイメージは一切なか った。こんな企業って他にないじゃないか、と自覚したことで新たなものづくりが始まりました」。

そこからサクラマークを全面に押し出した「サクラクラフトラボ 」なる高級筆記具シリーズが生まれた。「これまでは、筆記具にサクラマークをつけると子ども向けのイメージがつくのでは? と躊躇していたのですが、改めて社内外の声を拾えたことで、今では堂々とサクラマークを入れた方が良いと判断できるようになりました。頭冠にサクラマークの入った筆記具は当社の誇りにもつながっています」と今川氏。

 
また、若手社員中心の周年事業を盛り上げる組織も数年前に立ち上げられた。チームの名前はサクラとラブを掛け合わせた「サクラブ(サクラ部)」。コンセプトは「自分たちが大好きなサクラクレパスを、もっと好きになってもらいたい」だという。

「100年間を振り返るムービーもつくりました。これによって創業から今に至るまで、先輩たちがどんな思いで何をしてきたのかを改めて振り返ることにつながりました」と今川氏は言う。

 
そして、周年事業の一環として、大阪工場では新棟の建設も行われた。「これによって、それまで敷地内に点在していた様々な部署が同じフロアに集結することになりました。結束力を高めることで、次の100周年に向けて進んで行こうという狙いです」。同社は企業価値をしっかりと認識した上で、さらに次世代を見据え、次の100年に向けて動き出している。

本質を定め、未来へ

奇しくも、社名に商品名や事業内容が入った両社だが、本業への覚悟や誇りを新たにし、次の周年への揺るぎない礎を築いたように見える。コロナ禍の今だからこそ、未来に向けて企業としての本質を見定める。そんな両社の姿勢は、この先周年事業を行う多くの企業に影響を与えることになりそうだ。


赤ちゃん本舗 1932年創業
大阪に本社を置くマタニティ&ベビー・キッズ用品を取り扱う専門店(セブン&アイグループ企業)。全国121店舗(2021年9月時点。 FC含む、海外含まず)を保有する。従業員数は3797人(2021年2月時点)。


サクラクレパス 1921年創業
「クレパス」「クーピー」「マット水彩絵の具」「マイネーム」など多くのヒット商品で知られる総合文具メーカー。1921年、東京で「日本クレィヨン商会」として創業。1925年、「クレパス」の販売を開始。1970年に現社名に。従業員数はグループ合わせ、 1600人(2021年5月末時点)。

 

*本稿は、2021年12月に開催した「宣伝会議リージョナルサミ ット2021 大阪」で講演された内容を掲載しています。

「わが社の周年事業・プロジェクトを広報会議で取り上げてほしい!」
という担当者の皆さま、ぜひ情報をお寄せください。
kouhou@sendenkaigi.co.jp

 

<INFORMATION>

月刊『広報会議』定期購読者の方に、「周年イヤーの迎え方」事例(26ケース)をまとめたPDFハンドブックをプレゼント(2022年6月30日まで)。周年プロジェクト成功までのプロセスが分かります。
詳細はこちらから

広報会議3月号について

【特集】
企業の“好感度”を上げる
企画・発想

■16メディアに聞いた2022年注目キーワード
■企画のヒント①リスキリング(学び直し)
北國FHD×経産省×『日経ヴェリタス』編集長 座談会
■企画のヒント②男性育休
『FQ JAPAN』編集長×ファザーリング・ジャパン代表理事×積水ハウス 座談会
■企画のヒント③チル(癒し)
リラクゼーションドリンクメーカー×アロマ調香デザイナー 対談
 
【特集2】事例研究
ニュースバリューの高い広報

 
■CASE①ファインシンター「コオロギスナック」
自動車部品メーカーが「昆虫食」に新規参入
課題解決と市場理解を目指す、広報施策とは
■CASE②ササマタ「ZiBi」
“めがねのまち”から生まれたマスク
浸透のカギは賛同者を増やす巻き込み力
■CASE③タキイ種苗「UETE」
コロナ自粛でブームとなった家庭菜園通じて
“自産自消”のライフスタイルを提案
■CASE④明治「モ~っと飲モ~っとプロジェクト」
予想以上のスピードで臨機応変な対応が求められた
牛乳消費拡大キャンペーンの広報対応
■COLUMN
「2地域居住」をオウンドメディアで発信
日本航空「OnTrip JAL」
 
【特集3】
プレゼンの心得と伝わるビジュアルの基本

 
■テレビリサーチャーに聞く!
メディアがつい読んでしまう情報まとめ術
喜多あおい(テレビ番組リサーチャー)
■Instagramの「ビジュアル」づくり
瞬時に心を動かすための3つのステップ
佐々木 愛実(コンセント デザイナー・アーティスト)
■ブランディングにつながる写真選び
続きが読みたくなる仕掛け
前田鎌利(プレゼンテーションクリエイター)
 
【特別企画】
組織を強くする企業ブランディング

 
■キューサイ×みんなの銀行
事業を進化させるリブランディングの可能性
■cotta×竹下製菓
生活者インサイトをつかみ企業ブランドをアップデート
 

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ