【参加者】
オンラインで開催されたマーケターの課題共有の場
2014年11月に発足し、活動も8年目を迎えた「CMO X」。8年目を迎えて、最初の研究会を2021年12月1日に実施した。通算では29回目となる研究会だ。
今回はアサヒビール、積水ハウス、丸亀製麺、ユーグレナのマーケティング部門をリードする4名が集まった。
会の冒頭で「CMO X」Founderの加藤希尊氏は、「『CMO X』は8年の活動の中で、多種多様な企業のマーケターが集う組織に成長をし、その中でマーケター同士のコラボレーションが生まれ、形になっている。特に異なる事業モデルの企業同士のディスカッションは、刺激が多いと思う」と話した。
実際、今回参加のメンバーも業種・業態の異なる4社。互いの事業に対する理解を深めるため、まずは各ブランドのカスタマージャーニーマップとUSPを紹介しあうことから始まった。
積水ハウスの足立紀生氏の発表は、同社の複数の事業のなかでも、戸建住宅について。「ほとんどの方が、住宅購入機会は生涯に1度か2度で、非常に頻度の低い特殊な商材。マーケティングゴールもおのずとユニークなものになる。また、住宅購入のスイッチが入ってからの検討期間もお客様によって千差万別」と足立氏。だからこそ、家の検討に入るタイミングでいかに顧客との接点をつくれるかが、カスタマージャーニー上のポイントになるという。
また、ニーズが顕在化した顧客へのコミュニケーションについては、顧客ベネフィットを基点にメッセージを開発。鉄筋や木造など、素材や機能別の提案が多かったというが、現在は「『わが家』を世界一 幸せな場所にする。」という企業理念をもとに、どのようなライフスタイルをイメージしているか?という顧客を基点とした提案を強化しているという。
積水ハウス
業務役員 コミュニケーションデザイン部
CXデザイン室 室長
足立 紀生氏
続いてユーグレナの工藤萌氏からは、「からだにユーグレナ」に関する事例が発表に。同ブランドでは「discover、try、meet、like、love/超love」という、カスタマージャーニーマップをもとにコミュニケーションを組み立てているという。
またユーグレナでは「からだにユーグレナ」に代表されるヘルスケアやビューティケアなどを展開しているが、今後企業としては実用化が始まっているバイオ燃料事業の成長を目指していく方針もあるという。
新たな事業であるがゆえ、ステークホルダーからの応援が重要だが、工藤氏は「『からだにユーグレナ』の顧客に対するアプローチが、コーポレートコミュニケーションにもつながっている」と説明。同社は個人株主の人数が多く、顧客がファンになるケースも多いのだという。
続いてはアサヒビールの松山一雄氏から自社の事例が発表に。
最近だけで、「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」に「アサヒ生ビール(通称:マルエフ)」など、次々に社会的に話題になるほどのヒットを連発するアサヒビールの松山氏からは、「生ジョッキ缶」で広がったブランド体験について紹介があった。
「カスタマージャーニーがとても短く、店頭で決める方が多い」とビール市場の特徴を前置きした上で、「『アサヒ スーパードライ 生ジョッキ缶』は発売直後からご好評いただき、品切れ状態に。他のビールと比べて、驚きや感動を生み出せたことで口コミが広がり、“手に入らないけれど、いつか手に入れたい”というサイクルを生んだ」と松山氏。
また缶を捨てずに、「アサヒ スーパードライ」を移し替えることで生ジョッキ缶の泡を楽しむ方法をユーザーが考えSNSで発信するなど、ユーザーによるブランド価値向上という流れができていると、松山氏自身も驚きを感じながら紹介。ビール業界は主にUSPとして機能や味を中心に置くなか、「アサヒ生ビール(通称:マルエフ)」は「日本に、ぬくもりを。」をパーパスに、人情味のあふれるビールというUSPを押し出す商品展開も成功ケースになっている。
丸亀製麺の南雲克明氏は、来店前・来店~入店・店内・退店~継続利用という流れで、顧客心理と顧客行動、顧客体験、さらには伝えたいブランド要素などについて紹介。また、その見せ方も特徴的で「アルバイトの方も多く、言い方もやわらかく、マーケター目線ではなく、顧客目線の表現でカスタマージャーニーを作成している」と南雲氏。ポイントとして「CMや店頭などで、美味しい理由を見たり、認識している状態で商品を食べていただくことが、記憶に残り再来店意向を高める顧客体験になると捉えている」と、同社ならではの戦略を紹介した。
USPは、「職人がつくっているから、うどんが生きている」という同社のメッセージそのもの。トッピングによって自分好みにできる楽しさ、五感を刺激する店内時間も、体験価値として提供しているという。
丸亀製麺
執行役員CMO 兼 トリドールホールディングス
マーケティング部長
南雲 克明氏
カテゴリーが抱える課題と、解決に向けたマーケティング戦略
カスタマージャーニーマップとUSPの紹介に続いては、各ブランドが属するカテゴリー全体の課題とその課題を解決するための戦略について意見が交換された。
丸亀製麺の南雲氏が考える外食業界の最大の課題は、収益構造の改革だ。「収益率の低い会社が多く、投資や労働分配率へまわせるだけの高い利益率のビジネスモデルの転換こそがカギになる」と考えている。そのようななかで丸亀製麺の課題解決策は、徹底的に強みを磨くこと。唯一無二の高付加価値体験の提供と、DX活用による高い利益率創出を目指す。「ただし、効率化だけを追い求めると、本質的な価値の棄損につながる危険性はある」とも語り、その難しさは、各社共通の課題でもある。
この点について、アサヒビールの松山氏は「日本の外食は安すぎなのでは?」と問題意識を提示。大手飲食ブランドでの広報経験もある、積水ハウスの足立氏も「価格を上げることへの不安を持つ企業も多いと思うが、費用対効果として顧客に価値を感じてもらうことがポイント。他社比較ではなく、自社のブランド価値を最大化することを目的にすることが重要」との見解を示した。
ユーグレナの工藤氏は、「健康食品というカテゴリーの商品は、人々を健康にするために出しているものの、実際は健康寿命と寿命のギャップが縮まっていない」という問題を提起。そこでこだわったのが予防の観点。「症状への対処も重要な一方、いま健康であっても、免疫強化、栄養補給、自律神経を整えることが未病予防に繋がると考えている。その対象者は健康意識は高くはないので、啓蒙のアプローチも欠かせない。それが実現できるブランドにしたい」と、課題を発端として将来像にまで話は発展していく。
ユーグレナ
執行役員 ユーグレナへルスケアカンパニー
Co-ヘルスケアカンパニー長 LIGUNA取締役 工藤 萌氏
足立氏が積水ハウスの課題として感じていることは「コロナ禍において顧客の行動様式が変化するなかで、住宅検討のプロセスを変化させなければならないこと」だという。
また、住宅メーカーとしては高価格帯に位置することから同業他社だけでなく、商品に独自性のある、個人の著名な設計会社のようなデザイン性の高い小規模事業者との比較で、どう積水ハウスならではの価値を示していくべきか、も考えているという。
松山氏は「積水ハウスには高品質なメーカーというイメージがある。このポジションに至ったのは現在の戦略もそうだが、数十年にわたるブランドイメージ戦略もあると思う。CMの音楽は、誰でも口ずさめるレベルだと思う」と、自身の感想を込めて発言した。
工藤氏は、「いわゆる構造物として、初期コストとしての住宅販売ではなく、我が家を幸せな場所にするためのソリューションを、ロングスパンで提供していくビジネスモデルに可能性を感じる」と、業界最大手の戦略を、同じマーケターとして興味深く注目していた。
松山氏が飲料業界の課題として感じているのは、「お酒離れ症候群」だという。人口動態の変化や、価値観の変化など。日本のビール市場はナショナルブランドのコモディティ化が進んでおり、消費者からすると同じような商品が並ぶワクワクしない市場だと感じられている傾向があると考えている。そこを打破するソリューションのひとつが「スーパードライ 生ジョッキ缶」。
「消費者の方たちの反応が、“美味しい”だけではなく、“楽しい”もあったことに学びがあった。これは市販ビールにおいて画期的な反応」と、変化のない市場へ波紋を起こす商品の、自身が感じた驚きと、新たな可能性を紹介した。
また、微アルコールビールテイスト飲料などを市場に投入することで、動きの少ない市場を活性化することも目指している。南雲氏は「ビールを飲まない人、苦手な人にとって、関係ない業界。しかし、このような戦略をとられると、自分にも関係する業界、会社だと感じるようになる」と、その戦略の確かさを、自身の嗜好から意見を述べた。
アサヒビール
専務取締役兼専務執行役員 マーケティング本部長
松山 一雄氏
各ブランドの成長のヒント、そしてコラボレーションの可能性が見えた
ブランドカテゴリーの課題から考える自社のマーケティング戦略について意見交換をした後、自らが他の参加企業のCMOだった場合のアイデアも披露。アサヒビールに対しては「若者×ビール×社会課題解決」「お酒をあえて飲まない人へのアプローチ」「業務用ビールの売上拡大」、積水ハウスに対しては、「スマートハウス2.0」「プライシングに関するイメージ改善」「LTVを高めるサービスの提供」、丸亀製麺には「全原材料のトレーサビリティ情報の開示」「女性ターゲットの高単価業態」「ユーザーの単価アップ」、ユーグレナには「究極の大人向け飲料」「主力商材のマスアプローチ」といったアイデアが提案された。
これらの発言を受けて、加藤氏は、「機会づくりをすれば、皆さんの率直かつ大胆な意見交換ができることがわかった。ブランド資源を共有しあうことで、新たなコラボレーションが生まれる可能性を感じた」と総括。参加者からも同様の感想が出た。
コロナ禍という時代において、これまで継続してきた課題だけでなく、新たに生まれた課題が、どの企業にもある。今回の研究会から各社が発展のヒントを得て、課題解決に向けた新たなコラボレーションにつながる契機になる可能性を大いに感じられるディスカッションとなった。