「ベネフィットと機能」の正しい理解が成否を分ける(内田和成×音部大輔)

優れた機能もベネフィットが明示できなければ成功しない

音部:ブランド定義をするときにも、機能をベネフィットのように扱ってしまっている例は数多くあります。本書でも「ムレない紙オムツ」の「ムレない・モレない」は、機能であってベネフィットではないという話をしています。「20%もモレなくなりました」なんて言うとベネフィットっぽく聞こえます。そこをきちんと「(ある機能によって)消費者にとってどんないいことが起こるのか」を明確にすることが重要です。

先ほどのMaaSの議論も「車を持たないことによってどんな良いことが起こるのか」「モビリティだけをサービスとして抽出することでどんな良いことが起こるのか」を明らかにすれば、消費者の議論に集中しやすくなります。

内田:こんなケースを思い出しました。医療用の画期的な材料が開発されたときのこと。競合と比較して、どの角度から見てもはるかに優れたスペックであるにもかかわらず、まったく普及しなかったそうです。何が原因だったと思いますか。

音部:人体にはフィットするのに、お医者さんが使いたがらなかった……。使うのが難しい素材だったからでしょうか? もしくは価格?

内田:正解は、「(まだ実績のない)その材料が、5年後10年後に何らかの問題を引き起こし、医療訴訟に発展するかもしれないという万一の懸念」を医師が抱いたからです。従来の材料はそれより劣っているかもしれないけど、何十年も使われているものだから少なくとも非難されることはない。

新しい材料の機能がいかに優れていても、何年か後にトラブルが起きたときに「なぜそんな不確かなものを使ったんだ」と言われてしまう。そうするといつまでたっても普及しませんよね。結局その会社は参入をあきらめました。機能的に優れたものを出せば無条件で採用してもらえると思ったら、実は全然違っていたんです。

音部:なるほど。医師にとってのベネフィットが明示できなかったのですね。

内田:医師に対して、パイオニアとして関わることによって「こんな良いことがありますよ」というベネフィットを示せればよかった。こちらが思う優れた機能と彼らが感じているベネフィットは違うというのはご指摘の通りですね。

経営者は「五感」を研ぎ澄ませ

音部:多くの日本のメーカーはベネフィットと機能の違いが分からず、「競合が何かの指数で80という点数を取っているなら我々は90点を取れば勝てる」と考えてしまいます。競合が80点のところで90点を取りにいくのではなく、今まで誰も気にしてなかった新しい座標軸をつくり、それが重要であるという認識を消費者の中で構築することでイノベーションを起こすことができる。ベネフィットに集中して、それを消費者がどう捉えるのかに着目することで、より効果的で効率の良い全体図を描きやすくなります。

内田:マーケターの方は、自社やブランドが目指していることを理解して、全体像を見てまわりを巻き込んでいくことが重要というのは本書でご指摘の通りです。

一方で、経営者の立場から見ると、状況はもう少し複雑かもしれません。フレームワークで問題解決する部分もあれば、自動車会社のように会社の根底を揺るがすような命題に直面しているところもある。そういう会社の経営層は、まず今世の中がどう変わっているかの理解が前提です。本書で音部さんは五感という表現を消費者サイドに使っていましたが、私は経営者サイドも「何かおかしいぞ」「何か風向き違うぞ」と五感でつかむことが大事な世の中になっていると思います。
 

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