私は、絵を描く生きもの
中村:そんな友沢さんですが、どんな育てられ方をされたんでしょうか?
友沢:ホントに、このマンガのまんまって感じなんですけど……。
中村:「まめおやじ」のまんま?(笑)
友沢:はい。のびのびと何も止められることなく、やりたいことはやらせてもらっていて。母の身の回りにあるカルチャー、マンガや映画に幼い頃から触れてきたので。それに『クレクレタコラ』っていう特撮アニメを見て育ってきて……。
澤本:『クレクレタコラ』ってやってるの、いま?
友沢:今はやってないんじゃないですかね。VHSでずっとそれを見てて……。それがこう、まっすぐここまできたって感じです。
澤本:『クレクレタコラ』見てたの?はははは、ツボに入っちゃった!(笑)
権八:映画が趣味って言ってもさ、一番好きな映画が『ゆきゆきて神軍』(1987年)なんでしょ?(笑)
澤本:すごいねえ……原(一男)監督だ。
権八:すごいですよね。僕ちゃんと見たことないですけどね。なんとなく知ってるだけ。
澤本:最初、大学の時見てビックリしたもん。
友沢:私もビックリしますね。やっぱり、いつもそこに還っていきますね。原点というか。
澤本:『クレクレタコラ』と『ゆきゆきて神軍』が共存してるのね?これは、アーティスト以外の何者でもないわ(笑)
権八:アーティストだよねえ……。
中村:結構幼い頃からそういったものに影響を受けて、こたおさんご自身はその頃から絵を描いたりしていたんですか?
友沢:そうですね。やっぱり母が漫画家なので、ずっと絵を描いているという状況だったので。私も日常生活の一部として絵を描いていました。今もそれでお仕事をさせていただいているんですけど、本当に自分の一部という感覚ですね。「ヨッシャー、これから描くぞ」みたいなことではなくて、「私は、絵を描く生きもの。」みたいな感覚でやっています。
権八:なるほどー。まあ、さっきご本人もチラッと言ったけど、絵の中の女性、アレは自分なんだよね?頭からスライムをかぶったような絵とか、あとは、赤ちゃんの人形なのかな?それがスライムをかぶっているわけですよね、今の作風は。それがカッコよくて、僕はやられてしまって……。
「なんてすごい絵なんだろう!」と興味が湧いて、買えるものなら買いたいって初めて思ったんですよね。普段はそんなに芸術やアートに詳しくなかったりする人が、なんだか掻きむしられるというか、捕まってしまうパワーがありますよね。
友沢:そうですね、結構幅広い方に見ていただいていますね。本当にアートが好きな方もきてくださるし、全然アートを知らない若い方とかも興味を持って展示に来てくれて嬉しいですね。
スライムをかぶった時に見えた「原始の自分」
澤本:アートに「なぜ?」っていうのもアレかもしれないですけど……。なんでスライム状のものを見出したんですか?とぅるーんとしているのがいいなぁ、って感じだったんでしょうか?
友沢:いや、スライムとの出会いは偶然だったんですよ。私の知り合いが家に置いていって。気づいたらそれをかぶっていた、ということなんですけど。
澤本:かぶる?ご自分でですか?
友沢:はい。自分の顔にかぶっていました。それは偶然だったんですけど、自分としてはやっぱり偶然ではなくて。この世で今まで感じてきた事にもまれながら、子どもの頃に感じたことも全部絡まって行き着いたのが、あの瞬間だったんですよ。でも、別に絵を描こうと思ってかぶったわけではなくて……。
スライムをかぶった時に、鼻の穴や口にどんどんスライムが入ってきて、息が止まった状態……。なんか、そういう時に外の世界……つまり、理性の世界と遮断されて「原始的な自分」が見えたというか。それをやってる時にすごく安心したんですよね。
その事を描くという行為がセラピーだったのかどうかは、分からないんですけど。やっぱりスライムの色だったり、かけ方も色んなライティングを試して。その時、その時のメッセージを出しながら描いていますね。
権八:こたおさんの初めてのベビーシッターさんが、ね?
友沢:そうなんです。有名なノイズミュージシャンの方なんです。
澤本:えぇ~?!
友沢:はい、結構有名な方にベビーシッターをしてもらっていて。だから、人形を切り刻んで組み合わせたり、小さい時から見てきたので。
澤本:すごいなぁ~ ……(笑)
権八:で、そのシッターさんが何かのきっかけで置いていったスライムをかぶってみようと。それは、いくつぐらいの時ですか?
友沢:大学1年生の時ですね。受験前は、心の中の風景をダークな感じで描いていたんですけど。まぁ『ゆきゆきて神軍』もそうなんですけど、やっぱり実際に起きてることが一番強いな、と自分は感じまして。だから、実際に自分の皮膚を使ってやったことを絵にしてみる、と。入学してからずっと絵について考え続けてきたので。何かを自分でねじ曲げるよりは「これがありのままの現実です、コレをここでやりました!」っていうシンプルさに還ろうと。そこに還った結果、あのスライムの絵ができたという感じですね。
権八:いやぁ。とてもすごいことを言っているんですけど……。
澤本:そうね、すごすぎて、笑っていいのかも分からない……。
友沢:いや、笑ってもいいんじゃないですか?(笑)
澤本:それで、スライムに行き着いたと?
中村:でもすごいね。鼻の穴とかに入った時に、外界と自分の内側がこう……っていう話がすごいなあ。
権八:息が止まるとか鼻や目がふさがってる時に、すごくこう……。なんていうのかなぁ。リアルと言うか「ピュアなもの」を感じたわけでしょう?生きてる実感というか。それはちょっと羨ましいというか……。なんかさ、こたおちゃん独自のユニークなことを言っているようなんだけど、実際はみんな、どこかで「生への実感」みたいなものがふわふわしてる感じがあるわけですよ。
友沢:そうですね、私の周りは結構多いですね、そういうことを感じている人が。
澤本:だから、僕ら……。僕らって、混ぜてもらっていいのか分からないけど、普通に生きている人間が感じながらも言語化できないことを、言葉や造形物にしてくれてるって気がしますね。
権八:いや、それはおっしゃるとおり。だから本人の作品がさ、ご自身の「言葉にならないような感情」の発露であるというかさ。
友沢:そうですね、言葉にならないですね……(笑)。だから、今はスライムの絵になっているんですけど。それは本当に一部っていう感じ。なんかもっと、自分の野望的にはこう、『ゆきゆきて神軍』ぐらいにぶん殴ってみたいな、という感じです。
一同:(笑)
友沢:今は「スライムの人」って感じかもしれないけど、これからはもっといろんなことに触れながら挑戦してみたいですね。
澤本:スライムはまだ第一歩だと。これから「神軍」になると?
権八:パンチするアクションをしながら『ゆきゆきて神軍』みたいに世界をぶん殴りたい、みたいなことを言ってましたけど。ビジュアルとのギャップがすごくないですか?
友沢:結構、男性だと思われていることが多いですね。
澤本:それは、お名前からね?
友沢:名前と作品の感じで。「あ、女性なんですか?!」っていう声が結構多いですね。
権八:これ、本名なんですよね。由来があるんだよね。
友沢:はい。タイに「コ・タオ」っていう島がありまして。私の母親と、とてもファンキーな父親がそこの島に行って。とても小さな美しい島だったので、そんな子どもが生まれてほしいと「こたお」と父が名付けました。
澤本:ファンキーでいいですねえ……。生まれてくる子が男の子に間違われるかもしれない、なんてことは一切意に介さなかったんでしょうね。
友沢:小さいときは名簿順で呼ばれる時に「こたお」くんって呼ばれることもあったりして、すごいこの名前が嫌だったんですけど。やっぱり、この「こたお」っていう響きがニュートラルというか、「こたおってなんじゃ?!」みたいな。いくらでも可能性があるというか。今日から「こたおくん」になるかもしれないし、何をやっていてもいい名前だよなぁ、と。で、こういう名前はこれから流行るんじゃないかと思ってます!
一同:ははははは!
〈END〉後編につづく