そんな「なりわい」革新を続けている企業の一つが、東レです。東レの「なりわい」革新とは何か。そして、その革新を支えるインターナル(社内)活動とはどのようなものなのか。東レの新しい「なりわい」を支える舵取り役である、地球環境事業戦略推進室・参事 室長の野中利幸氏に、著者の一人である朝岡崇史氏(ディライトデザイン 代表取締役・法政大学大学院 客員教授)がお話を伺いました。
野中 利幸氏
東レ 地球環境事業戦略推進室 室長
1984 年 3 月 慶応義塾大学 法学部政治学科卒業後、東レ入社。フイルム営業を担当。2006 年 7 月 東レフイルム加工出向(営業部次長、営業管理室長)。2009 年 4 月 東レ フイルム新事業企画室長。2009 年 6 月 東レ 地球環境事業戦略推進室 主幹。2022 年 1 月 現在に至る。産業環境管理協会理事、産業環境管理協会理事、日本経済団体連合会(環境安全委員会 地球環境部会 地球温暖化対策 WG 委員)、内閣府「エネルギー・環境イノベーション戦略」(NESTI 2050)委員、その他、環境省 サプライチェーンチェーン排出削減方策 WG委員など歴任。
聴き手:朝岡 崇史氏
株式会社ディライトデザイン 代表取締役/法政大学 大学院 客員教授
1985年、株式会社電通入社。電通ではブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長、電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクターを歴任。現在は、ブランド戦略、カスタマーエクスペリエンス戦略を専門とするコンサルタント、ファシリテーター、研究者。北京伝媒大学 広告学院 客員教授(2013年)、公益社団法人日本マーケティング協会マーケティングマスターコース マイスター(2011年〜現在)、U35新宿ビジネスプランコンテスト・アクティベーター(2018年〜)などを務めている。
主な著書に『拝啓 総理大臣殿 これが日本を良くする処方箋です』(2008年 東洋経済新報社 共著)、『エクスペリエンス・ドリブン・マーケティング』(2014年 ファーストプレス)、『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』(2016年 ファーストプレス)、『デジタルマーケティング成功に導く10の定石』(2017年 徳間書店 共著)がある。ウェブマガジン『JDIR』powered by JBpressに記事を連載中。
東レの新しい企業広告が伝えるメッセージとは
朝岡:東レさんは、2021年9月に企業広告を4年ぶりに刷新し、「素材には社会を変える力がある」というシリーズでCMを展開されています。「資源循環型社会へ。CO2排出量を少なく。安全な空気、水を。健康をすべての人へ」という内容で、まさに環境ビジネスであり、新しい東レさんの「なりわい」がテーマになったCMですね。
野中:私たちは素材を作る会社なので、完成品がそのまま世の中に出ることがありません。でも、素材は隠れているけれども、社会を変える力がある。そのメッセージを伝えたCMです。例えば、東レの炭素繊維はボーイングさんの飛行機の素材に使われていますし、ユニクロさんのヒートテックや清涼素材などにも東レの商品が使われている。こういった素材が地球環境に貢献していることを、企業広告を刷新してしっかりアピールしているところです。
実は、東レは1990年代から社会のさまざまな問題に取り組んできました。そして、2009年ごろから社長の日覺昭廣が「素材は社会を変える力がある」と言って、社長直轄の組織である地球環境事業戦略推進室を作った。このことも併せて社長からのメッセージなのです。
地球環境事業戦略推進室の役割と東レの横軸カルチャー
朝岡:野中さんは、東レの地球環境事業戦略推進室の室長で、まさに東レの「地球環境ビジネス」という新しい「なりわい」を支える舵取り役としてご活躍です。この部署はどんな役割を担っているのですか?
野中:環境経営の司令塔であり、グリーンイノベーション事業を拡大することと併せて、社会貢献を企画推進するのが役割です。
朝岡:関連部署の兼務者もいるそうですね。
野中:現在、地球環境事業戦略推進室には専任者が6人、各事業部と兼任している者が9人います。社長直轄だからといってうまく動くわけではなく、専任者がいるだけでは難しい。ですから、縦軸の各事業に横串を刺す組織として、兼任者と共に縦と横をうまく組み合わせて進めていくのが私たちの役割だと考えています。
朝岡:兼任者の部署は地球環境ビジネスに関係ないのでしょうか?
野中:はい。繊維や樹脂、フィルム、複合材料、炭素材料など主な事業部から営業技術として来ていたり、生産技術である技術センターの人がいたりと、各部署の中心人物に参画してもらっています。
朝岡:地球環境事業戦略推進室が横串となって、各事業とも密接に関わっているんですね。
野中:そうなんです。実は、領空侵犯をしながら進めるのが大きな仕組みの一つになっていて。普通、企業では事業本部を強化し、かつカンパニー制をとってホールディングカンパニーとして仕切る部分がありますが、私たちはそうはしていません。東レにはビジネスカテゴリーごとに研究開発施設や組織が縦軸としてありつつも、生産技術を取り仕切る技術センターが会社の横串としてあり、そこを副社長が統括しています。私たちはその下にも配置されており、社長直轄ですが生産技術の傘下として副社長にも仕えている。この仕組みで動かしているのが工夫している点です。
朝岡:技術センターが横串として技術融合による新技術を創出しているのが非常に大きな特徴だと思います。地球環境事業戦略推進室も横串の組織になっていますし、会社に横串を通すカルチャーがインターナル文化として根付いているんですね。
野中:そうですね。運営するのはなかなか難しいのですが、大変なりにこういったことに長年取り組んでいるのが弊社の特徴かと思います。繊維は染めて織れば衣服になりますが、不織布にするとマスクになるし、繊維を焼くと炭素繊維になる。ですから、一つの事業部で完結させてしまうと、更なる技術開発ができないんです。だからこの組織文化が成り立っているということが、おわかりいただけるのではないでしょうか。
長い歴史の中で行ってきた東レの「なりわい」革新
朝岡:東レさんは1926年創業で、祖業は「ナイロンやテトロンなどを作り出す化学繊維のメーカー業」だったわけですよね。それが現在は、機能化繊維や炭素繊維の複合材といった、環境エンジニアリングやライフサイエンスにまで広がって、「革新技術による先端材料メーカー業」へと「なりわい」革新を図っている。しかも、かなり長い歴史の中でそれを行っているのを感じます。
野中:私たちが極めて広い事業を行えている理由は、一つの技術を事業部や技術、開発、研究に渡して、「このアイデアをうまく使って何かできないだろうか」と横展開を大事にして技術開発を進めているからです。「自社で商品化すれば、もっと儲けられるんじゃないか」と思われるかもしれませんが、私たちは素材を作るのが「なりわい」です。だから、川下は炭素繊維だったらボーイングさんに、繊維であればユニクロさんにとお客さんにお願いしているわけです。ある意味身の丈を知りつつ、素材の横展開による技術開発や、そのほかの革新技術を目指していくのが東レの「なりわい」革新であり、それが私たちの本意でもあります。
私たちはコーポレートスローガンとして「Innovation by Chemistry(科学の力でイノベーションを起こしていこう)」を掲げています。そのために、私が進めているグリーンイノベーション事業と、もう一つ、ライフイノベーション室というライフサイエンスの仕事があり、この2つを1つの柱として「なりわい」革新を進めています。これが私たちのバリューでありパーパスであり、これで社会貢献をしていこうとしているのです。
朝岡:なるほど。例えば80年代にあった「トレビーノ」という家庭用浄水器やメガネ拭きクロスの「トレシー」、最近だとユニクロのヒートテックなど、元を辿れば全て東レさんが作っています。そういった形で先端素材が形を変えて、消費者のところまで来ているということですよね。
野中:はい。よくある素材メーカーは、素材を作ってある程度大きな規模で売って終わりというところが多い。しかし、私たちの開発者は、マーケットの先の先まで考えた上で「実はこういう素材があるから、新しいものを作ってくれないか」という動きをしている会社です。お客さんの、さらにその先にお客さんがいて、その先の地球環境問題はどうなっているのかまで知った状態で振り返り、「素材に何ができるんだろうか」を考えることに地味に取り組んでいます。
昔は、「素材メーカーはプロダクトアウトだ」と言っていましたが、私たちはマーケットインが染み付いている。ですから、炭素繊維はボーイングさんに持っていこうと考えました。ただ、いきなり素材を持っていっても、先方も「作ってみようか」とはならないので、ある程度私たちが作ったものをお見せするようにしています。こういったマーケットイン思考は今後、各企業もさらに大事になってくるのではないでしょうか。「自分たちの商品が売れればいい」というのではなく、その商品が加工されて最終的にどのようになるか、マーケットを徹底的に知った上で、自分たちの会社を革新していかなければならないのではないかと思います。
朝岡:マーケットインの一つの大きなトレンドとして、今は「サステナビリティ」があって。東レさんは、企業広告にもあるように資源循環型社会やCO2排出などについて考えたり、安全な水や空気などを作り出したりと、それ自体が「革新技術による先端材料メーカー業」への進化を示唆していると思います。今まさに、野中さんが舵を取っているグリーンイノベーション事業につながっていくのではないでしょうか。
野中:そうですね。企業は目の前の数年の話をしがちですが、ここ数年は2030年の世界や2050年のカーボンニュートラルのことなど、長期的な議論が進んできた。これは私たちからすると、実に喜ばしいことです。大量生産・大量消費からの脱却や、環境に優しいものづくりの追求、環境に優しい素材への転換というのがキーワードになりますから。地球環境問題は世界が認ずるところになってきたので、長期的な視野でしっかり見ていくことが極めて大事ですね。
朝岡:これからの地球環境問題において、特にエネルギーと水は大きな課題になってくると思います。
野中:私は今後の課題として大きく3つあると思っています。1つはGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)を削減するカーボンニュートラル(Carbon Neutral)、「CN」の世界です。2つ目は朝岡さんがおっしゃった循環型の世界であるサーキュラーエコノミー(Circular Economy)、「CE」の世界で、この2つが柱となっています。そして、先ほどお話しした水と空気も実は極めて大事で、水資源は気候変動の中で大きなことなんです。そのため、ウオーターセキュリティー(Water Security)、「WS」というのですが、水と空気に対しては弊社でしっかり取り組んでいこうと考えています。これらは今後20〜30年間人類が苦しめられる、グローバルな課題の一つになる。そこに対して、しっかり貢献していくのは大事なことだと考えています。
朝岡:水の問題で言えば、今実際にシンガポールや中東の国々は淡水の確保が難しいので、国家レベルで東レさんの逆浸透膜で海水を淡水にできる技術を使って水を作り出しているそうですね。
野中:そうなんです。今はGHGの削減が謳われているので水の問題は目立たないのですが、実は世界では水が偏在化しています。例えば、赤道直下に近い中東などは水が相当少ないため、海水を暖めて蒸気にして、それを冷やして水にしていたのですが、そうするとエネルギーがかかってしまう。そこで、弊社の逆浸透膜を使って淡水化するという技術が見直されてきたのです。今はインドや中国にも渇水地域が出ていますから、ここ5〜10年でおそらく東レの主力事業になるのではないでしょうか。
「なりわい」革新を支える、東レのインターナルの活動
朝岡:経営者が変わっても同じ考え方が続いているのが東レさんの素晴らしいところですが、「なりわい」革新を支えて持続していくためには、インターナルの活動が重要だと思います。歴代の経営者が行ってきたインターナルな施策や「なりわい」革新を下支えしてきた組織文化や組織運営について聞かせてください。
野中:経営者が変わっても同じ考え方を東レが続けてきたのは、続けざるを得ない面もあったからです。例えば、炭素繊維事業は研究開発に30〜40年かかっています。最初はテニスラケットや釣竿などの小さな用途から立ち上げて、20〜30年後に大型のものにも採用できるようになるのではないかと考えて取り組んできました。それが今では飛行機に採用されるようになったわけです。水処理も30〜40年かかっています。このように、素材の研究開発はバトンを渡していかないとできないのが大きなポイントで、短兵急にできるものではない。それゆえに経営者が変わっても続けていくのが染み付いているんです。
朝岡:具体的にはどのような体制で取り組んでいるのですか?
野中:「パイプラインマネジメント」と言って、研究初期、中期、後期などと4〜5つに分けるのですが、技術開発においては必ず黎明期から量産までパイプラインでマネジメントしていく体制をとっています。そして先ほど言ったように、縦ラインに分断されず、横に展開できる研究開発や技術開発体制をつくっている。それをサポートするために、私たち全社スタッフが企画部門として横串で、「こういうことをしていこう」と考えています。
研究開発はなかなか成果が出ないものです。30年かかるということは、入社した人が定年する時になってやっとできるということ。弊社は基礎研究を重視しているので、その部分が次の段階に進化したら、売れる商品ではなくてもその研究開発した人たちのことは評価しようと、基礎研究や開発を評価する仕組みもあります。
朝岡:それはいいですね。東レさんでは、アングラ研究(※)の奨励もされているそうですね。
※研究者が勤務時間のうち20%を「上司に報告しなくていい研究」に費やすことができる制度。
野中:はい。なかなか市場には受け入れられないかもしれないことも、アングラ研究をしていると糸口が見つかることもある。そうすると、市場変化が起こって5年後に全く思ってもみないマーケットにつながることもあるので、アングラ研究やアングラ市場開発なども行っている。これが特徴的なインターナルな活動なのかなと思います。簡単に言えば、研究開発、技術開発、生産事業部と分かれているのですが、その縦糸と横糸が複雑に絡み合ってインターナル活動を行っているのが、弊社の革新を支える仕組みかなと思います。
朝岡:普通の企業ですと、経営者が変わると考え方が変わって分断されてしまうこともありますが、ずっと継続しているのは本当に素晴らしいですね。
野中:ありがとうございます。20年前は「繊維事業は衰退産業だ」と言われ、機関投資家から「繊維事業は切り離した方がいい」という話があったほどでした。しかし、さまざまな事業の芽は繊維事業にあって、切り離さなかったからしぶとく続けていられるのだと思います。
「儲かる・儲からない」ではなく、大事なコア技術というのを守っていくというのは、実は日本企業には多いはずなんです。よく市場の株やESG投資などはPLやBS、ROIC(Return on Invested Capital:ロイック。投下資本利益率)で判断されることがありますが、日本企業は大事なインビジブル・アセットをしっかり持っている。これは、欧米の企業にはない文化だと思っています。このことはすごく大事なことで、日本企業はSDGsやESGなどと言わなくても、昔からそういったことに真面目に取り組んできている。だから、日本企業には礎から100年150年頑張っている会社がいくらでもあるのだと思うんです。このことがインターナル活動というか、身に染みていることではないのかなと最近よく考えます。
事業に直結しない研究費が基礎研究を支える
朝岡:アングラ研究はどのような段階やタイミングで商品になるのでしょうか。何か社内に制度はありますか?
野中:実は、弊社がカンパニー制にしていない理由の一つはそこにあるんです。社内用語なのですが、弊社には「DR」と「CR」というのがあって、「DR」は事業本部が握っている研究開発枠(Divisional Research:事業研究)。これはどの会社でも当たり前に行われているもので、どこまで研究開発するのか、その研究開発投資をどのように回収するのかも含め、事業本部に直轄しています。一方、「CR」は事業本部が持っていない研究開発投資枠(Corporate Research:本社研究)です。そこは、横軸組織の長である副社長が管理していて、各事業本部の人間は「CR」を扱うことはできません。もちろん、企業業績における「CR」のパーセンテージは決まっているのですが、「CR」はすぐに短期・中期の企業業績に影響しない研究開発に使えるという仕組みを取っているんです。
朝岡:その「CR」はどのように管理されているのですか?
野中:毎月技術センター役員会というのがあって、参加するのは各生産技術の部とその研究開発に関わる人だけ。毎月この「CR」をどのように使うか、どこまで増やすかなどを生産技術だけで行う仕組みになっています。これはすごく手間がかかるのですが、そういった会議の仕組みを作って、「DR」と「CR」の配分をどうするかを苦労して行っています。
朝岡:かなり細かく毎月見直しをしているのですね。
野中:その裏でさらにアングラ研究がありますから(笑)。アングラ研究を管理してしまうとアングラ研究にならないので管理過多にはできないのですが、その辺りも大事になってきますね。この2つが大きな仕組みですね。
朝岡:これはやはり、基礎研究が非常に重要で、それが会社の競争力や強みの源泉になるという考え方からなのでしょうか。
野中:そうですね。ただ、研究開発でいうと研究開発技術者は猪突猛進型で開発を進めてしまうので、やはりチェック機能が働かないといけません。そのためには、やはりマーケットインの思考が必要です。マーケットの先を確認した上で研究開発をしなければ、当たり外れが極めて大きくなってしまう。だから、研究開発も長期的な視点とマーケットインの視点が欠かせないですね。
弊社は事業と研究を「車の両輪」と言っていて、前輪のタイヤは事業部と研究で、後輪は生産技術。これは、事業部と研究が同じ方向を向いて、後ろの生産技術がそちらに向かわせるというものです。「事業部と研究は方向を合わせよう」という文化なので、研究職の人もどんどんマーケットに行っています。
朝岡:それはあまり他の会社にはないですよね。きっと「こんなものができましたけど」という会社が多いのではないでしょうか。
野中:そうかもしれません。弊社は今、年商2兆円くらいの会社なんですが、商品部が山ほどある。「中小企業の集まりじゃないか」という人もいます(笑)。とにかく新しいマーケットニーズを掴んできて、なんとかやっていくということが染み付いている会社かもしれません。
朝岡:祖業は「ナイロンやテトロンなどを作り出す化学繊維のメーカー業」で、そこから「なりわい」革新を繰り返して、今は「革新技術による先端材料メーカー業」になっている。その秘訣が今、野中さんがお話になったことなんでしょうね。
「THINK GLOBALLY, ACT LOCALLY」が、グローバリゼーションの肝
朝岡:東レさんは「TORAY VISION 2030」や、2050年に目指す4つの社会課題に貢献する2つの事業ということで、グリーンイノベーション事業とライフイノベーション事業を挙げています。でも、普通の会社は先ほどおっしゃったように、3〜4年程度の中期計画を繰り返していて、長期のビジョンや事業戦略をあまり描かない。そんな中で、東レさんは長期に目を向けて、社会貢献と「なりわい」の発展・成長が同じラインに乗っている形になっていますよね。
野中:その理由は、地球環境問題が出てきたことで長期的なことを考えざるを得なくなったからです。カーボンニュートラルやサークルエコノミーに取り組まなければならないから、企業が今のように変化してきたこともあります。
私たちは世界で仕事をしていると、実は「日本の常識が世界の非常識、世界の常識が日本の非常識」になっているのを感じます。ヨーロッパでは風車がどんどん周り、燃料電池列車が走っているし、アメリカではCO2を埋める仕事をしている。日本の企業が考えるよりも世界が動いていることは意外と気づかないんですよね。そういった中で仕事をしていると、グローバルに考えてそれぞれの地域に合わせた事業を進めていく「THINK GLOBALLY, ACT LOCALLY」が大事になっていくのかなと思います。
朝岡:日本企業はどうしたらいいと思われますか?
野中:地球環境問題ではありませんが、日本の中にも非常にたくさんの課題があるんです。例えば、老齢化社会や高齢化社会については、課題先進地域で日本は世界の先を走っています。この問題がすぐに来る中国やインドなどアジアの人たちが、今後どうしていくかという課題があるわけです。このように、実は長期的なことを考えるネタやヒントになるものも、日本にたくさんある。そういったことに取り組んでいくと、日本企業が元気になってくるのではないかと考えています。
グローバル企業ではなくても、グローバルなことを考えておくと、「ACT LOCALLY」の時に地域エネルギー戦略や地域農業戦略など、いろいろなことができて日本の活性化にもつながります。そして、それは海外に出ていけば仕事になるということなのかと思います。
朝岡:「なりわい」革新を繰り返しながらどのように生き抜いていくかでいうと、最近の日本は元気がないので、中国や韓国に劣後している印象を受けてしまいます。しかし、日本企業にはいいところがたくさんある。「THINK GLOBALLY, ACT LOKALLY」という考え方をベースに、社会にどう役立ち、しかも自分たちの事業をどう伸ばせるかということを考えていくと、そこに活路があるのではないかということですね。
野中:そうですね。「CN」「CE」「WS」や、エネルギーや食料、水の問題など複雑に絡まった課題は、世界中で同一である反面、地域ごとに顕在化する課題が違います。アジアは水が多いけれど台風が多く、中東は渇水が問題だとか。実はグローバルと言いつつも、地域ごとの課題が違うことはあまり議論されていないんです。だから、日本には日本の課題があって、「THINK GLOBALLY, ACT LOKALLY」するとそこにヒントがあるのではないかと思います。
成長と価値創造の両立というのは本当に難しい問題だと思います。でも、それを両立してきたのが日本企業です。日本には200年、300年企業が一番多いという統計があるのですが、やはりサステナブルを地で行っているのが日本企業だと考えると、もっと日本が元気になってほしいと思いますし、それに対してどういったことに取り組んでいく必要があるのかは、私も考えなければならないと思います。