本CMに関わるのはトライグループ・代表取締役社長の二谷友里恵氏と澤本嘉光氏、篠原誠氏、東畑幸多氏、野崎賢一氏のクリエーティブ・ディレクター4人。5人は、日々どのような“宣伝会議”を行っているのでしょうか。座談会形式で5人に話を聞きました。
【参加者(本文中・敬称略)】
トライグループ 代表取締役社長 二谷友里恵氏
電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー 澤本嘉光氏
篠原誠事務所 クリエーティブ・ディレクター 篠原誠氏
(つづく)クリエイティブ・ディレクター/CMプランナー 東畑幸多氏
電通zero クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー 野崎賢一氏
『アルプスの少女ハイジ』のキャラクターのアテレコによる「家庭教師のトライ」のテレビCM「教えて!トライさん」シリーズが放映開始から今年で10年目を迎えた。
アルプスでの暮らしについて教えるのが「おんじ」であれば、勉強を教えてくれるのはトライのオリジナルキャラクターである「トライさん」という設定で、その時々で新しい表現方法を取り入れながらも基本的にそのスタイルは変えていない。
澤本嘉光氏、篠原誠氏、東畑幸多氏、野崎賢一氏という日本を代表するクリエーティブ・ディレクターの4名が集結して生み出されてきた「教えて!トライさん」シリーズのCMだが、実はこの4名が“本当のクリエーティブ・ディレクター”と呼ぶのが二谷友里恵社長だ。
広告主企業側が事業成果に貢献するクリエーティブを評価するのは、難しい側面もある。それでは、「教えて!トライさん」シリーズは、経営トップとクリエーターの間でどのようなディスカッションを経て世に送り出されているのだろうか。
「昨年以上に効果のあるクリエーティブを!」の継続で10年
――2012年に「教えて!トライさん」企画がスタートした背景や当時の狙いをお聞かせください。
二谷:2012年は当社が、国内における個別指導塾市場で、教室数全国1位を獲得した時期でした。広告活動においてはブランディングのその先、当社が持つ個々のソリューションの奥行きを示すべきフェーズに入っていると考えていました。
そんなときに出会ったのが「アルプスの少女ハイジ」です。提案の中には、ハイジ以外のアニメ作品もありました。しかし、大自然の中で、おんじに多くのことを教わりながらハイジが成長していく物語は教育との親和性が高いこと。またトライをご利用いただく生徒の世代から、親御さんの世代まで広く親しまれているアニメであったことで、ハイジで行こうと決めました。
野崎:ハイジの世界に、トライの特長でもある「教育プランナー」(開始当時は担任制)の役割を担う「トライさん」が入り込むことで、親御さんが教えられないことを教えてくれる「家庭教師のトライ」を訴求できるという機能的な理由から生まれたと記憶しています。
二谷:教育プランナーは私が2005年に社長に就任した年に導入した制度ですが、この教育プランナーをより分かりやすく世の中に打ち出していきたいということで「トライさん」というオリジナルキャラクターが生まれました。ハイジの世界に溶け込むキャラクターにするため、つくり込みにはかなりの時間をかけました。
東畑:「教えて!トライさん」シリーズが始まる前は、ドラマ『特捜最前線』にアテレコを当てたテレビCMを放映していましたよね。私は2008年から携わらせてもらっていますが、当時から今もトライグループが広告に対してこだわり続けているのは、放映後の問い合わせの数です。
親御さんのインサイトに刺さることを考えながらも、小・中・高校生がCMを見て「面白い」と思ってもらえるか。その両方を捉えて企画に昇華させてきたのが「教えて!トライさん」シリーズだと思います。
篠原:シリーズが始まり10年目を迎えましたが、ただやみくもに続けてきたわけではありません。シリーズを続けるべきか否かは、毎年のように議論します。結果として前年を超える問い合わせが来ているので、継続することになっています。そこは二谷さんの経営者としてのシビアな判断に基づいていると思います。
二谷:テレビCMは15秒、30秒という限られた時間のなかで表現しなければならず、内容によってはCMが終盤になるまで、どの企業の広告であるかがわからないケースもあります。一方でトライのCMは継続してきたことで、ハイジやオンジ、トライさんが出てきた瞬間に、もう「トライのCMだ!」と認知していただけるようになりました。これにより、残りの尺で思い切りサービスの価値を伝えることができる。これは大きなアドバンテージだと思います
篠原:二谷さんから「昨年以上に効果のあるクリエーティブを!」と良い意味でのプレッシャーがあり(笑)、それが仕事に対する情熱につながっていますよね。
二谷:問い合わせ数が、例年総じて右肩上がりなのも毎回、皆さんが「前回を超えるものを」という期待に応えてくださっているからだと思います。
例えば、「春キャンペーンなんだから冬キャンペーンは超えますよね!」とか、「やっぱりトライは夏が最大の山場ですよね!」とか、「今年は創業30周年だから29年目よりは強いですよね!」みたいな…。これは、私がいつもオリエンの時に皆さんにお願いする儀式みたいなものです(笑)。
篠原:これだけ長い間続く関係性であっても、いまだに緊張感のある状態を保てているのは、もちろん私たちがプロとして結果を出すためにひとつの目的に向かっているからということもありますが、同時に二谷さんからの信頼を感じるからですね。信頼されるって一番緊張するじゃないですか。裏切れないという感じです。
東畑:信頼感と安心感と普段プレゼンで会う時の緊張感、二谷さんとの関係は独特だなと思います。
世の中のど真ん中に広告を届ける
――4人のクリエーティブ・ディレクターがいるなかで、どのように企画の方向性が決められているのでしょうか。
澤本:二谷さんは広告の力、テレビCMの力を信じている方だなと思います。それは、ただやみくもに“信じている”ということではなく、テレビCMでクオリティを極限まで高めた広告を展開することで、目的の成果が得られることをご存じだという意味です。
そしてとにかく「目と耳が優れている」。ナレーションの読み方とか、ちょっとした編集のタイミングとか、音楽の当て方とか、クリエーティブをジャッジする視座の解像度が高いうえに、経営者としての先を見通す判断力も持っている。
ここで質問の答えになるのですが、私たちにとって二谷さんは「スーパー・クリエーティブ・ディレクター」で、その判断に従っていく感じです。
篠原:本来、クリエーティブ・ディレクターは船頭役なので、複数名いると船頭多くして船山に上るという状況に陥りかねない。でも私たちが二谷さんの能力に本当に納得しているので、とてもうまく進んでいます。澤本さんが言うように結局、クリエーティブ・ディレクターは二谷さんひとりなのだと思います。
野崎:社長としてだけでなく、クリエーティブ・ディレクターとしての顔、その2つの思考を何度も行き来しながら判断されているように感じています。広告は(広い意味で)面白くないと見てもらえない、でも、訴求内容が伝わらなければ意味がない。この絶妙な感覚を私は、二谷さんから学びました。他の仕事でも、活かしています。
澤本:二谷さんとの仕事は学びが多いのですが、特に「諸般の事情を許さない」という姿勢には、いつも刺激を受けます。「気になっているところを残さない」という方針は、ややもすると忘れかけてしまう部分で、ご一緒させていただいてよかったと思っています。と、なんだかこの座談会、二谷さんを褒めすぎていて、記事にしたらちょっと怖い感じになるかもしれないですが…。でも本当にすごいんです!二谷さん。
二谷:「家庭教師のトライ」のターゲットは6〜18歳までのお子さんを持つ幅広い年齢層の親御さんです。ということは、当社のターゲットは世の中のど真ん中、つまりは世の中の消費の中心。F2層など、メデイアマーケティング的には色々な切り口がありますが、そういう物差しとはまた違う、漠然と世の中の世代的な縦軸でも、横軸を取っても、ど“真ん中”の方たちが対象です。
そして、これはもう自分の絶対音感みたいなものなのですが、そうした“ど真ん中”の方たちが、とにかく好感を持ってくださるか、どうかをポイントにクリエーティブの判断をしています。
※後篇に続く
【関連】家庭教師のトライ「教えて!トライさん」シリーズ、「とっくにネタは尽きた」それでも面白さを追求し 8年続くCMに
(※月刊「ブレーン」デジタル版のサイトに移行します)。
スタッフリスト
- 企画制作
- 電通+篠原誠事務所+(つづく)+KEY pro+電通クリエーティブX
- CD
- 澤本嘉光、篠原誠、東畑幸多、野崎賢一
- 企画+Pr
- 城殿裕樹
- 企画
- 曽根良介
- Pr
- 飯田祐司
- PM
- 八塚大志
- 演出
- 浜崎慎治
- アニメーション
- 山本浩、堤義幸
- 編集
- 渋谷竜彦(オフライン)、小木曽功治(オンライン)
- モーショングラフィックス
- 船見享平
- 音楽
- 山田勝也
- 歌
- 松室政哉
- MIX
- 太斎唯夫
- AE
- 中村祐亮
- NA
- 佐藤正治(おんじ)