「TVer」が好調だ。民放テレビ局公式のネット配信サービスとして、スマートフォンアプリのダウンロード数がことし1月、4500万ダウンロードを突破した。4000万台に乗った21年8月から5カ月。500万ダウンロードのペースは短くなりつつある。
「TVer」単体の月間再生回数は2億回を超えた。サービス開始から7年、日本発の動画メディアとして、存在感を高めてきている。21年4月、本格的に開始したTVer広告の売上高も、12月には4月比で11倍と急伸した。
躍進の要因についてTVer広告営業部の古田和俊部長は、「まずコンテンツ面では、正規のものであること。信頼感もさることながら、違法なコンテンツに広告を出してしまった場合のブランド毀損リスクが顕在化してきていることが挙げられます。ユーザーの動向としては、コネクテッドTVの普及があります」と話す。
現在、「TVer」のレギュラーコンテンツは400番組を超えている。2020年8月末時点で在京キー局5社が追加出資をして関係を強固にしたほか、21年6月には在阪5社が資本参加。コンテンツ面でのバックアップがさらに盤石となった。
オンライン動画はコロナ禍の巣ごもり需要もあり、ここ2年間で視聴時間を伸ばしている。そうした中、映像分野に影を落としているのが違法コンテンツだ。この2月にも映画を権利者に無断で動画サイトにアップロードしたとして逮捕者が出た。出版領域では、いわゆる海賊版サイトへの広告出稿が、著作権法違反のほう助にあたるとして、広告代理店に有罪判決が下されている。
「評判を損ねるばかりか、有罪となって処罰されることもあり得るわけです。また、重要な事柄として、『どういった広告と横並びで表示されるのか』というリスクもあります。違法な広告表現に対する目も日々厳しくなっていますが、それらと同列で自社の広告が同じ水準で見られるというのも、ブランド価値を損ねかねません」(古田氏)
テレビ番組のいわゆる見逃し配信や、スピンオフ番組を流す「TVer」では、広告でも放送基準と同様の審査を実施している。そのため、広告自体に違法性を問われることを未然に防ぎやすくなっている。
コンテンツの品質はテレビクオリティ、では、メディア、プラットフォームとしてはどうか。この点においては、「TVer」は、デジタルマーケティングが主戦場とすべき、デジタルメディアと言える。それを示す、象徴的な変化がデバイスにも訪れている。インターネットにつながった「コネクテッドTV」の普及だ。インテージの調査によると、2021年時点で約4台に1台がネットに接続されている。この5年で約2倍に増加した。
コネクテッドTVはテレビだが、各種のサービスのID基盤によって、視聴履歴をはじめとしたデータが取得できる。その意味ではWebにおけるブラウザーのような立ち位置だ。わかりやすいところでは、「おすすめ」などと提案される動画コンテンツは、それまでの視聴データや利用者の属性に基づいている。
「TVer」においてもコネクテッドTVの伸長は顕著で、視聴デバイスの構成比では2019年の7.5%から、21年は25%近くにまで上昇した。
「どちらに偏ることもない、コネクテッドTVならではの特性があるとすれば、まずは広告の受容度です」
「TVer広告」の2021年の急成長を支えたSepteni Japan セントラルメディアグロース室の本間崇司氏はこう語る。Septeni Japanは「TVer広告」の取扱高が最も高いデジタルエージェンシーのひとつだ。
「『TVer』は、視聴態度がテレビほど受動的でもなく、パソコンやスマートフォンほど能動的でもない、という特徴があります。見たい番組を放送時間の制限なく見られる点で、サービスやコンテンツそのものへの関与度が一定程度高いのですが、テレビというデバイスの特性から、スマホやパソコンほど専念視聴はされない傾向があります。そのため広告が入ることに対し唐突感や視聴を途中で遮られているという印象は弱いと考えられます」(本間氏)
広告への印象をデータで見ても、CMの視聴完了率は15秒で96.0%、30秒は95.2%、60秒でも93.4%と、高いスコアとなっている。また、無料動画投稿サイトと比べると、「音を出している状態」、有音での完視聴率が高く、無料動画投稿サイトの有音完視聴率46.1%に対し、「TVer」では84.6%となった。
好意度向上に有利な環境下、TVerはデータに基づく広告配信も強化しつつある。視聴履歴の管理など、ID基盤・データ事業を支えていた、TVer Technologiesを本体に吸収合併したのが昨年4月のこと。一体化することでデータマーケティングを加速させている。TVer Technologiesは、日本テレビ放送網とバスキュールが2015年に設立した合弁会社が出自。テレビ放送とデジタルテクノロジーの融合に先鞭をつけた企業だ。
民放連研究所によると、テレビ自体に2019年水準への復調の兆しがある。カギを握るのは「デジタルメディア」との連動。「デジタル収入強化の潮流はますます強まる」と見る。2022年度はテレビ全社で21年度比2.3%増、21年度も20年比で9.2%と伸長した。スポット全社は同比3.7%増を見込む。
足元のマーケティング施策動向について本間氏は、「2020年~21年は、広告媒体となりうる主要なデジタルメディアやプラットフォームが出尽くした状況でした。その観点もあり、ブランド育成という考え方が広がってきたように思います」と語る。
「そして、新しくお客さまとなる層に対して、自社の存在感やブランドを構築するためのアプローチの重要度が増しているのではないでしょうか。各社のビジネスモデルの違いにもよるものの、需要を獲得するだけでなく、需要を生み出す手立てが必要です」(本間氏)
どう検証、改善のサイクルに載せるか、というのもブランディングの課題である。見通しの立たない状況下で、その課題はますます重くのしかかる。成果を定量的に把握しながら、最終的なゴールにつなげていくか。データに基づくブランディングの施策とメディア活用がいま、必要になっている。
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