今回は、3月31日に発売した新刊『顧客起点のマーケティングDX データでつくるブランドと生活者のユニークな関係』(横山隆治・橋本直久・長島幸司著)の「はじめに」の一部を紹介します。
顧客体験(CX)をデジタルで最適化する
コロナ禍において、日本の企業そして社会のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれていますが、日本ではIT化の延長線上にDXをとらえている経営者が多く、どうしても企業のバックエンドやミドルエンドに目が向きがちです。
しかし、たとえば経済産業省が提示するDXの定義をみると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを元に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。
組織におけるDXの目的とは市場環境が目まぐるしく変わる中においても競争上の優位性を確立すること。そのためには、顧客やユーザーにとっての価値を創出し、選ばれる組織になる必要があります。
そう考えると、バックエンドやミドルエンドではなく、顧客と向き合っているマーケティング部門、広告部門、広報部門などにとってのDXとは何かを定義する必要があることがわかります。
そこで本書では、顧客と向き合っている企業のマーケティング部門、広告宣伝部門にとってのDXとは何かを明示しようとしています。DXは企業の資材、製造・物流・販売マーケティングなどバリューチェーンを串刺しにして、デジタル化によって従来ではできなかった新しい価値を創出しようとするものです。単に効率を高めるだけでないということがポイントです。
ひとことでいうと、広告・マーケティング部門にとってのDXとはCX(カスタマー・エクスペリエンス=顧客体験)をデジタルで最適化することです。
そして当然ながらデジタル化は目的ではなく手段です。目的はあくまで顧客体験の最適化にあります。ただ、この目的の実現のためには、顧客に向けたあらゆる施策の企画実施プロセスに大きな変革が必要で、そのプロセスの大変革にデジタル思考が欠かせないのです。データ活用はその一部にすぎません。
よくデータ活用が目的となってしまう企業がありますが、大事なのはデータではなく、顧客です。顧客体験を向上させるという目的がまずあって、そのために使えるデータは何かと思考するのであって、ありもののデータをどうにか活用しようとするのでは、まったく順序が逆なのです。
生活者はすでにデジタル化している
それではDX化を実現できなかった企業はどうなるのでしょうか。当然、競争上の優位性を確立することができなくなります。なぜなら、DXが必要とされているのは、顧客である生活者がとっくにデジタル化してしまっているからです。それにもかかわらず、企業において顧客と接している部門、つまりはマーケティング部門や広告部門のデジタル化はずっと後手に回ってきました。
デジタルを使った施策を行うことが、デジタル化だと勘違いしてきた向きもあるでしょう。確かに、すでにインターネット広告費はテレビを抜いて日本の広告市場で最大規模の売り上げを誇っています。しかしデジタル化の基本は、企業人がデジタル思考、デジタル発想を身につけて、施策を企画実施するプロセスをデジタル化することにあります。
顧客との接点はすべてデジタルではありません。むしろアナログなことがたくさんあります。重要なのはアナログな施策(アウトプット)もそれを実現するまでのプロセスにデジタル思考が働いていることなのです(逆に施策がデジタルでもその開発プロセスがアナログ時代のままとなっている例もあります。これではとてもDXとはいえません)。
その意味では、DXとは「デジタル思考ができる人財を育てること」と言い切ってもよいかもしれません。そしてあらゆる「企業と顧客の接点」についてアナログ施策、デジタル施策を問わず、そのプロセスのデジタル改革が必要なのです。
本書ではデジタル思考で従来のアナログな施策をも見直していく際のポイントとは何か? について、筆者のドメインである「広告・マーケティング」の見地から具体的に解説しています。
テレビ広告の効果をデータで説明できるか?
マーケティング活動全体について触れてはいきますが、中でもページを割いて解説しているのが、マーケティング投資の中でも多額の費用が発生するテレビ広告です。多額のコストがかかることもあり、その投資対効果の説明責任がますます大きくなるでしょう。
デジタル化を推し進める理由の1つに、勘と経験を排して、データで「可視化」し、データを元に意思決定ができるようになるということがあります。ですから広告マーケティング部門にはDX推進の指令とともにテレビ広告の効果を、データを以って説明せよとの圧力が強くなるはずです。
そこで本書では、テレビ広告の到達実態を今一度確認します。デジタル的思考で従来テレビ業界にはない角度から実態把握をしてみます。デジタル化の基礎はこうした従来のプロセスにデジタル思考を持ち込むとどうなるかを検証することから始まるでしょう。そこには「ユニークデータ」の発見があります。「ユニークデータ」とはいってみれば、「自社ブランドと顧客の間だけにある関係をあらわすデータ」といえます。そういう「価値あるデータ」をデジタル思考で発掘するのもDXの成果です。
また広告マーケティングにAIが活用される時代もすぐそこまで来ています。広告は人の能力・労力に相当依存しています。簡単に「教師データ」もつくれないのでAI活用はまだ先のような印象を持ちます。しかし広告作業の実態は「運用」や「メッセージの個別最適」などむしろヒトの作業では追いつかないことが増えています。
広告へのAIの浸透は、第1段階は「広告運用やバナークリエイティブ」、第2段階は「メディアプランニング」、第3段階は「ブランド広告のキービジュアル・コピー」と進むでしょう。
AIを活用できる企業とできない企業に格段の差が生じます。そのためにも今デジタル思考ができる人財、プロセスのデジタル化を実現する人財の育成が必要なのです。
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