[講演者]
パーソルホールディングス
グループコミュニケーション本部
インナーコミュニケーション室
柴田 真亜美 氏
ゴールドウイン
経営企画本部
コーポレートコミュニケーション室
則武 見佳 氏
エビリー
取締役
大城 亜紀彦 氏
高まる社内広報・採用広報における動画活用への期待
従業員向けのコミュニケーションにおける動画活用が、にわかに活況を見せている。企業向けに動画を用いた広報支援を手がけるエビリーでは、動画配信システム「millvi(ミルビィ)」において、契約社数が700社を超える。社員教育のほか、トップの考えを熱意と共に伝えるのに活用されているという。コンテンツ内容でも、社内広報と採用広報との共通点は多く、応用が容易な点もメリットに挙がる。
新型コロナウイルス感染症の拡大で、社員同士が離れた結果、自社への関与度(エンゲージメント)が低下していることが背景にある。総務担当者向けの業界誌『月刊 総務』の調査では、「テレワークで会社が目指す方向について伝えづらくなった」とする総務担当者は79.1%に上った。また、その結果として「エンゲージメントが低下した」と答えた人は95.7%と、ほぼ全員になった。
こうした中、「会社の理念やビジョンを伝えたり、事業部間の連携や社員同士の相互理解を促したり、業務において有益な情報の共有を図ったりする社内広報の意義が高まっている」と話すのは、エビリーの取締役の大城亜紀彦氏だ。
「こうした役割を従来から『社内報』が担っている。紙だけでなく、オンライン化している企業も少なくない。動画で実施することのメリットは、ひとつはエンターテインメント性の高さ。もうひとつは動きがあることで、わかりやすさが増すということ。そして、熱意や臨場感といった、言葉を超えたメッセージが伝わるということ」(大城氏)
トップが掲げる指針や、部門、社員、各事業部で扱っている商品の紹介。あるいは、社内イベントの様子などは、総じて、その企業の実態を浮き彫りにする。大城氏は「こうしたコンテンツは、採用広報でも活用できる。社内向けに作っているものが、そのまま採用広報にも応用できる」と話す。
就職活動をする学生側も企業の情報を動画で得るようになった。プルークス、レバレジーズの「就職活動におけるスマートフォンの活用と採用動画視聴に関するアンケート調査」によると、企業が制作した採用広報向けの動画を「YouTubeで見た」という人は2019年の19%から、20年は46%に増加した。トップは「企業説明会」の68%、次いで「企業のWebサイト」の67%だが、伸び率では最も高い。
自社の実態を伝える動画については、学生の89%が「あったほうがいい」と回答。「採用動画はあったほうがいいと思うか」に対して「とても思う」が58%で回答割合でも最多となった。視聴後に志望度が「大きく上がった」という人は21%、「上がった」という人は52%となった。
「業界に対する先入観の払拭や、評価や報酬、福利厚生制度、企業理念の紹介など、動画のコンテンツになりうるものと、採用広報自体の課題は表裏となっているものが多い。たとえば、仮に自社の属する業界に、いわゆるブラックといった風評があるのなら、『○○業界はブラックって聞くけど本当!? 聞きにくいことを聞いてみた』などと動画で打ち出すことで、興味関心に沿いつつ、きちんと実態を伝えることができる」(大城氏)
“何を目指すかを考え抜くことが重要”―ゴールドウイン、パーソルホールディングスの取り組みにみる動画活用のポイント
動画ではないものの、企業の実態や雰囲気が感じられるコンテンツにより、実際に採用につながったケースもある。ゴールドウイン コーポレートコミュニケーション室の則武見佳氏は、「採用目的ではないですが、当社社員の仕事やプライベートを通じてスポーツの素晴らしさを伝える『SPORTS FIRST MAG』というオウンドメディアがある。そこから、実際の仕事のイメージや企業文化、従業員の雰囲気を感じて当社に興味をもって頂き、採用につながったケースがある」と話す。
ゴールドウインでは、近年のキャリア採用の増加や社内コミュニケーションの希薄化を背景に、2021年の10月に社内向けのメディア運営も開始。そこでは、社長と関係の深い人物との対談を通じて、トップの考え方や人となり、さらには会社の向かう方向までもが伝わるようなコンテンツを用意している。また、全国の社員一人ひとりにスポットライトを当て、社員同士のコミュニケーションのきっかけになるようなコンテンツや、仕事に役立つ豆知識などを得つつ息抜きにもなるようなクイズなども配信し、社内コミュニケーションの活性化を図っている。
則武氏は「動画については、まだこれから取り組むべき課題」としながら、全社を挙げたイベントについての社長メッセージ動画を社内向けに制作。「社長が自身の言葉で直接、イベントにかける思いや熱量を伝えるのが目的だったが、文章で表現するよりも効果的であった、というのが実感」と話す。
「目的次第ではあるが、人となりや世界観を伝えられる点が動画の良さであるのは確か」と語るのは、パーソルホールディングス インナーコミュニケーション室の柴田真亜美氏だ。同社はカメラだけでなく、スイッチャーやミキサーといった専用機材を備えたスタジオを社内に設置。社員がそれらを扱えるよう研修も行い、グループ会社も含めて、社内向けの動画での発信を積極的に行っている。
2021年10月には、コロナ禍でもグループの一体感を感じられるような社内イベント「PERSOL Work, and Smile Week」を企画。社外からも有識者などのゲストを招き、Live配信も含め、全部で11のセッションを、ランチタイムに配信した。2週間にわたる本イベントでは、延べ9,000人以上の社員が視聴し、各セッションの満足度は平均90%以上になったという。
柴田氏は、「このイベントを通じて、社員がパーソルの今を知って、未来を想像し、そこに向けて自分も一歩進もうと、グループビジョンである『はたらいて、笑おう。』を少しでも自分ごと化するきっかけになったのでは」とし、動画の活用に際しては、業績のように「情報を正しく伝えるべきもの」、あるいは視聴した人がモチベートされるような「受け手が何を感じるかを重視するもの」など、何を目指すのかによって、動画制作の進め方は変わるように思う。その目的をぶらさずに、最初に考え抜くことが大事」と語った。
エビリーでは、企画や制作のほか、視聴回数や人数、アンケート回答数といった重要業績指標(KPI)に基づく運用支援も手がける。国内最大級のYouTubeデータ分析ツール「kamui tracker(カムイトラッカー)」も自社で開発・運営しており、登録者数や再生回数の増加のコンサルティングも行うという。
「単純に綺麗な動画を作るということではあまり意味がない。目的を明確に定め、それに沿った動画を制作することはもちろん、作って終わりではなく、その後の反応や設定したKPIをみながら課題解決ができたかどうかをしっかり検証し、運用していくべき」(大城氏)
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