最近ネタバレを見てから映画を観る人が多いらしい。検索が日常化して、知りたいことを瞬時に受け取ることは普通になった。Tipsなるものがありがたがられるのも、うまくやる方法を効率的に手に入れたいという人が多いからなのだろう。気持ちはとてもわかる。わかりみしかない。コストはなるべくかけずにリターンは得られるだけ得たい、という正直な心に、こうするといいよ!とやさしく、あるいはカッコよく教えてくれる本は不思議と目にとまる。そうした本は書き方もうまいもので、これなら自分にもできそうな気がしてくる……のだけれど、実際に書いてみると、読む前と比べていいコピーがバンバン書ける!ということにはなっていない。という経験、ありませんか?(ぼくにはあります)
ではなぜこういう悲劇がおきてしまうのか。それは決して本のせい、ということでもなくて。おそらく自分の頭で考えることをなるべくショートカットしたい。もっと言うと、できることなら誰かにかわりに考えてもらって答えだけ知りたい、と、ついつい思ってしまうような脳の使い方に慣れてしまっているからじゃないか……というのが現時点での結論です。本を一冊読めば、方法論というOSがまるっとインストールされる、という都合のいいことを期待しすぎ、というか。
自分もこの便利なネット社会を生きるひとりなのでよくわかるのですが、人間ってたいてい、できるだけ自分で考えずにすませようとしませんか?こういう刺激が来たらこう反応する、っていう電気的に処理されるパターンがいくつかあれば、日常生活はほぼ支障なく送れる。ネットにはもういろんなことが書かれているから誰かの意見から選ぶほうがラクだし。「『シン・ウルトラマン』で神永が『野生の思考』を読んでいた理由?それはね……(略)」とか。
でも、コピーを書く場合、そういうわけにはいかない。いや、そういうわけにいってるものもあります。検索で見つかる記事なんかをそのままいただいちゃったのかな?と思ってしまうようなものも、たまにある。でも、自分の視点でコピーを書きたい人なら真摯に、切実に、心の中で叫ぶはずです。「じゃあ、どうしたらいいの?」
そこで今日ご紹介するのが、コピー年鑑です。高い!重い!場所もとる!Tips的に使えることはほぼ書かれていない!コスパ、控えめに言って最悪!でも、この分厚い本には、コピーライターたちがああでもないこうでもないと、それぞれの頭を働かせて考えた実例ばかりが載っています。こうするといいよ!と誰も親切に教えてはくれないけれど、こんなふうに書いてもいいのか、とか、自分ならどうしよう、とか、とにかく自分の頭を使って考えて自分のコピーを書くしかないんだな、という覚悟のような諦観をくれる。教えてくれない本だから、考えるしかない。いい制作者への羨望とか嫉妬とか、人間らしいどろっとした感情も刺激してくれます。ため息をつきながら、この人たちは自分と違って特別なんだよ……と本を閉じるか。よし、もうちょっとジタバタ考えてみようか……と思うか。それは自由。年鑑は全て、あなたに委ねられている。定価22,000円(税込)です。
(おまけ)
冒頭で紹介した、ネタバレを見てから映画を観る人の言い分。「だって犯人が誰かわかっていたほうが、むしろ犯人役の芝居を楽しめるじゃないですか」……なるほど!そんな視点もあるのか、と虚をつかれた思いでした。この流れで最後にもうひとつ言うと、年鑑は視点の宝庫でもあります。いますぐ書店へ!
照井晶博 てるい・あきひろ
TCC1995年入会
株式会社照井晶博 コピーライター
1969年生まれ。博報堂(1993〜)→風とバラッド(2004〜)→現在(2011〜)。
最近の主な仕事に、サントリー ミルキープレッソ「コーヒーニューニュー」、BOSS「休み方改革!」「勤続25年」、マクドナルド「おなかすいたね。」「ごはん、できたよ。」、HONDA CLARITY「Honda Newtype!」など。編集委員長をやった『コピー年鑑2020』もよろしければ!
※六本木「文喫」にて「ことバー Presented by TCC」が開催中です。
開催期間:2022年4月27日(水)~6月5日(日)
営業時間:9:00~20:00(L.O. 19:00)
観覧料:入場無料
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関連リンク
『コピー年鑑2021』東京コピーライターズクラブ (編集)