(※本記事は月刊「ブレーン」8月号「エディターズチェック」での記事内容に加筆したものです)。
黒川紀章は日本を代表する建築家/思想家で、建築運動「メタボリズム」の提唱者でもある。1969年に書籍『ホモ・モーベンス―都市と人間の未来』(中央公論社)に全8条から成る「カプセル宣言」を掲載。1970年の大阪万博では並行して設計していた「住宅カプセル」を展示した。また72年にはその思想を体現した集合住宅「中銀カプセルタワービル」を、73年に別荘「カプセルハウスK」を竣工した。
そんな黒川の思想や同氏の建築について関係者への取材を通じて検証し、写真家 山田新治郎氏が撮り下ろした写真と共に収録。さらにカプセル建築の未来まで考察をし、日英バイリンガルでまとめたのが『黒川紀章のカプセル建築』だ。
著者は80年代後半に黒川紀章都市建築設計事務所に所属していた、工学院大学建築学部教授 鈴木敏彦氏。「『すべては建築である』というハンス・ホラインの思想の元、本も建築ととらえて制作しています。本はそれならではの価値を求められ、高級化している時代。今回は割り切って、とことんつくり込んだ本にしようと考えました」と説明する。
その言葉通り、ボール紙にカプセルの形状が型押しされた表紙は、タワービルそのもののチャーミングな佇まいを体現する。右上の2つの「窓」は実際に穴が空いており、そこから黒川の「カプセル宣言」がのぞく。
装丁を手がけたのは、デザイナー 舟山貴士氏。「ボール紙は建築の無骨さが体現できるよう、穴が空けられる範囲で最も厚いものをオーダーしました。構造がむき出しなっている様子を表現しつつ、写真もよく見えるようにコデックス装を採用。カプセルの形状の型押しは、上下を入れ替えて、表紙と裏表紙に施しています。その余白にタイトルやバーコードを黒で箔押ししました」。
ページをめくると黒色のトビラが現れる。それは黒い外壁にアルミのフレームが張られた実際のタワービルのエントランスのよう。タイトルにはフォント「Cera」を起用して「ロ」の字形にタイトルを配した。縦横に組まれた文字は、本来組み換え可能なカプセル一つひとつを表現するかのようだ。
「印象的な丸窓を象徴に、当時の人々がカプセルタワービルを見て感じたであろう近未来感を、現代の私たちの感覚で再解釈しようと考えました。表紙を開くと、ビルの中に入り込んでいく感覚になるようそれぞれの要素を配置しています」(舟山氏)。
また建築物を記録した写真は、裁ち落として見開きいっぱいに掲載。建物や部屋の全景だけでなく、ドアノブや家具の細部など、細かい部分まで山田氏が撮影した。
山田氏は日本のモダニズム建築をけん引した建築家・山田守氏の孫であり、建築にまつわる撮影を得意としている。「通常、カプセルタワービルは俯瞰で綺麗な写真がメディアに掲載されることが多い。今回は経年劣化した部分や普通の写真では見られない部分まで掲載しているので、建築の専門家にとっても資料性の高いものになったのでは」と話す。
発売後、これまで「カプセル建築」に関してバイリンガルの書籍がなかったため、海外でも注目が集まっているという本書。
「ビルの解体に直面したこのタイミングで、その存在を保存するかのような本書が生まれたことが稀有なことだったと思います」(山田氏)。
スタッフリスト
- 企画制作
- Opa Press
- 編集+翻訳
- 杉原有紀
- AD
- 鈴木敏彦
- D
- 舟山貴士
- 撮影
- 山田新治郎
- 作図
- 石間克弥
- 印刷
- シナノ書籍印刷