FRACTA
執行役員
One by One局 共同局長
狩野 雄氏
グラフィックデザイナーからキャリアをスタートし、2015年にFRACTA入社。自社サービスのディレクターから自社新規事業開発まで幅広く手掛け、Webディレクション、事業コンサルティング、UXデザインなどの領域で様々なブランドを支援。共書に『DtoC After 2020 日本ブランドの未来』(宣伝会議)。
あらゆるフェーズに伴走しブランドの課題を解決する
―アウトプットベースのプロジェクト単位ではなく、各企業が必要とする支援の形に合わせ、スキルの異なるメンバーをアサインして伴走型の支援を行う『One by One』の概要についてお聞かせください。
『One by One』は、一言でいうとブランド伴走型サービスです。デザイナーやプランナー、テクニカルディレクターなど各領域のスペシャリストがクライアント企業の「伴走者」として、ブランドの根幹となる事業の構想や、企業のアイデンティティや組織体制などの包括的な課題に取り組みます。
プロジェクトに加わるスタッフの人数と稼働時間から費用を算出して、期間ベースで契約を結びます。進めていく中で、初めに想定していたオーダーとは異なる課題が見つかることもありますが、対応ボリュームが変わらないのであれば、当初の要件は一旦停止して、スキルの異なるメンバーをアサインして、違うことに取り組む、ということも可能です。
―クライアント企業が抱えるマーケティング、ブランディング上の課題として感じることをお聞かせください。
ご相談いただく内容は、やりたいことはあるが、どう進めてよいかがわからない、自分たちである程度やってみて課題を見つけたが人手が足りずにやり切れていない、といった相談が多いと感じます。
ブランドや事業の規模やフェーズにより具体的な課題は様々ではありますが、日々の仕事の中で、どうブランドを体現する行動を促せるか、という点では共通点があるのではないでしょうか。
何らかの課題を抱えて当社に相談に来られる方は、経営者や事業の責任者レベルの方がほとんどです。しかし実際にブランドのアイデンティティを体現するのは、例えばサイトやSNSを運用される方や、直接的な顧客接点を持つ従業員の方々。ブランドを立ち上げた後、継続して自走していくためには、日々の企業活動の中で横断的に「ブランド」を意識する必要があります。
私たちが考える「自走」できる状況を目指して支援する取り組みも、まさに組織において一人ひとりの従業員の方がブランドを体現する活動ができるようにする取り組みだと考えています。
誤解されやすいですが、「自走=内製」ではありません。例えば広告出稿やクリエイティブのデザインなど、各フローの効果を最大化するためには、それぞれのプロフェッショナルに外注することも必要だと考えています。重要なのは、外部リソースも含めて「自分たちがブランドらしさをコントロールできる状態であること」。外注先に任せきりにするのではなく、ブランドらしいかどうかを判断し、ときには軌道修正することが大切です。
また昨今は、特に社会の変化が激しく、ブランドも細かなアップデートを重ねていく考え方が必要だと感じています。これからのブランディングは、一度決めたブランドのルールを頑なに守り続けるというだけではなく、柔軟に変化しながらブランドを磨いていくことも求められていると考えています。
そのため、私たちは組織体制や人材育成に関わる部分までサポートすることもあります。“中の人”がブランドのあるべき姿を理解し、ブランドに愛着を持って仕事に取り組む方がモチベーション高く、健全な気持ちで働くことができるはず。送り手側の気持ちもブランド体験の質に大きな影響を与える部分ですので、これもある種のブランディング活動の一環だと考えています。
デジタルとリアルの双方で小さな成功と失敗を重ねていく
―コロナ禍で、ブランドビジネス事業者のDX化が加速しました。課題感に変化はありましたか。
まずDXの捉え方について、何もかもをデジタルに置き換えることがDXではないと思います。デジタルの方がよい部分と、人の能力を最大化した方がよい部分は、企業によって異なります。
大切なのは、DXをきちんとビジネスに結びつけること。例えば単純にツールを導入して業務の効率化を図ったとしても、それがほかの業務と連動していない場合もあります。自社にとってのDXとは何か。誰のためのDXなのかということを考えなくてはなりません。
もうひとつの課題が、DX化の先のブランド体験についてです。
私たちはデジタルベースでのお手伝いが多いのですが、デジタルが担える範囲には限界があると考えています。例えばECで販売を始めてから対面販売が選択肢となることもありますし、ECのみだとしても、最終的には商品をリアルで受け取るはず。この時、オンラインとオフラインで得られる体験に、齟齬が生じてしまうことが多々あるのです。
手に取る瞬間までの体験を、いかに最大化できるか。Webサイトを見ても楽しくて、実際にお店に足を運んでも、それをさらに上回る体験が待ち構えていて…というような、オンラインとオフラインをセットにした設計が求められている。「商品を買ってよかった」だけではなく、「このお店で買えてよかった」と思える総合体験が、ブランドの知覚や認識につながると考えています。
いまや商売のためのインターネット上のあらゆるアセットは整っていて、ビジネスも気軽に始めることができるようになりました。一方で「b8ta」のような販売を行わない体験型の店舗や、設備投資を行わずに試せるポップアップストアなど、リアルの売り場の選択肢もすごく広がってきていますよね。立ち上げが軽やかになった時代だからこそ、デジタルとリアル双方で小さな成功と失敗を重ねていくことでビジネスの確度を高めていけるとよいのかなと感じています。
―今後の展望をお聞かせください。
ブランディング戦略のより深い部分で、パートナーとして取り組みができたらと思っています。
これは個人的な願望でもありますが、いま、伝統的なものづくり企業が社会の変動によって継続が困難な状況にあります。それは、ものづくり大国と言われた日本の世界におけるプレゼンスが弱まることにもつながりかねません。日本発のブランディングエージェンシーとして、ものづくりの技術や文化を支えていくために、私たち自身も研鑽し、挑戦し続けていきたいと考えています。
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