持続可能な社会を実現する「デザイン力」と「発信力」∕CHORDSHIPデジタルハブを活用した社会デザインとは

写真左上から時計回りに、富士通デザインセンター フロントデザイン部 マネージャー 森下 晶代氏、同ビジネスデザイン部 小黒 興太郎氏、同フロントデザイン部 境 薫氏、同ビジネスデザイン部 櫻井 亮汰氏

 

新型コロナウイルスをはじめとする社会情勢や生活者の行動が変容している昨今、顧客とのタッチポイントのデジタル化の流れが加速している。その中で「デザイン」が果たす役割とはなにか。富士通デザインセンターは、CHORDSHIPデジタルハブを活用し、デザインの力とアジャイル開発のスピードで自治体や企業をあるべき姿に近づけながら、社会へ広く発信しているという。その多岐にわたる活動の意図とは。連載3回目では、「社会を持続可能にするデザイン」を担う取り組みを紹介する。

ユーザーに寄り添うチャットボットサービスを目指して

2017年に販売が開始された、富士通独自開発のAIチャットボットサービス「CHORDSHIP」。顧客接点のデジタル化を目的としており、現在では国、地方自治体、民間企業など、約260団体(2022年5月現在)で導入されている。様々な団体で運用が進む「CHORDSHIP」だが、それらの導入の過程は、最初からデジタルにものごとを捉えるのではなく、人間中心設計をはじめとする、デザインプロセスで構成されている。

CHORDSHIP デジタルハブ

 
代表的な事例が、日本年金機構だ。期間限定でおこなわれる各種申告や申請に対するお問い合わせに対し、もっと国民がストレスなく問題を解決できることを目的として2020年5月に「CHORDSHIP」を導入した。現在は、HP上に「相談チャット総合窓口」として搭載され、扶養親族等申告書、年金相談のインターネット予約、ねんきんネットなどの主要な問い合わせに対応するメニューに加えて、新型コロナウイルス社会保険料といった時世をふまえた項目も設けている。

様々な問い合わせを網羅する「相談チャット総合窓口」には、富士通デザインセンターの大切にする、人中心の視点で創造的な問題解決を行う“デザイン思考”が行きわたっている。年金は、保険料の納付が始まる若年層から、年金を受給する高齢者まで、幅広い年代に関係のある分野。様々な立場や状況にある国民に対して、使いやすくする必要があるため、ユーザー視点で課題を洗い出し解決するための多角的なリサーチを実施した。同案件にチーム設立から携わる富士通デザインセンターの森下晶代氏は、「国民というたくさんのニーズをもった人たちが使うものだからこそ、デジタル化された顧客接点ならではの可能性を活用することができるのではと考えました」(森下氏)と当時を振り返る。

森下氏

「ただ単純にチャットボットを導入するだけでは、ユーザーのニーズに到達することができず、いずれ形骸化します。現地窓口や電話などの、既存の国民接点があるなかで、チャットボットに求められる役割はなにか。幅広い年代のユーザー、社会保険労務士などに、インタビューやユーザー調査を行いました」(森下氏)

デザイナー自らが複数のユーザーに対して、チャットボットを活用して解決したい悩みについてヒアリングし、ユーザーリサーチを通じて使い勝手のボトルネックを抽出することにより、チャットボットに必要な要素を収集。企業の中だけでの活動では拾いにくいユーザーの“生の声”からは、チャットボットへの印象はユーザーの情報検索の好みや行政手続きに関するリテラシーなどが大きく影響してくるとわかった。この点を踏まえ、改善を重ねながら、デジタルな接点であっても、できるだけストレスなく欲しい情報に国民がたどりつける親しみやすいサービスを築いた。

欲しい情報を親しみやすく届けるプロセスの中で、「一人の人間に焦点を当てて“行動の文脈”を読み解いていけたことが、多くの人にとって使いやすいデザインにつながったと感じています」と富士通デザインセンターの境薫氏は話す。

境氏

「大多数の意見はもちろん大切ですが、一人のユーザーが感じたことを深く理解し紐解くことに努めました。たとえ少数派であっても、同じような困りごとを持っているユーザーはいるはずです。ユーザーの追体験を経て浮かび上がった具体的なニーズや課題を起点に、できるだけ親しみやすくわかりやすい解決策を考えていきました」(境氏)

「相談チャット総合窓口」によって、窓口やコールセンターが閉まっている時間でもユーザーが気兼ねなく質問することが可能になっただけでなく、問い合わせ業務全体にも結果的に効率化という職員に優しいサービスになっている。現在は、同団体自らがチャットボットを運用し、富士通デザインセンターは運用のパートナーとして自走を後押ししている。

実現したい社会ビジョンをすぐに描き、きちんと届ける

デザインセンターはCHORDSHIPデジタルハブを利用して未曾有の社会情勢における対応策としても社会に影響を与えている。長崎県が新型コロナウイルスのクラスター発生を早期発見、早期対処することを目的に導入したN-CHAT(CHORDSHIPの健康観察チャットサービス)は、同県に停泊していた多国籍クルーズ船の乗員・乗客の健康観察をモニタリングする役割を担った。感染症専門医と共同で開発したこのサービスの利用を通じて、味覚や嗅覚といった有症状の推移観察の重要性が示されている。

前例がないなかで、必要とされる社会サービスを迅速に構築できた要因はなにか。そこには、運用しながらアップデートしていく姿勢が関係していると語るのは、富士通デザインセンターの小黒興太郎氏だ。構想に時間をかけるのではなく、一度機能を提供しフィードバックを重ね、柔軟にサービス内容を変えていくアプローチで、あるべき社会サービスへ近づけていったという。

小黒氏

「緊急コロナ対策のような不特定多数のユーザー(国民)のリテラシーがバラバラである場合でも、使いやすく離脱しにくいUI/UXの検討に加え、顧客行動特性を分析してサービスをアップデートしていきました。これからは社会の変化も行動様式も変化スピードがより速くなるため、顧客から仕様や要件が明確に示されにくくなります。デザイナーは小さな価値探索を積み重ねることで、その溝を埋めることができると考えています」(小黒氏)

CHORDSHIPを活用し、幅広い課題を解決してきた富士通デザインセンター。より多くの人々や地域に貢献することを目的に、富士通デザインセンターではサービスの使いやすさや利用者の声の発信にも努めている。そのひとつが、「CHORDSHIP」の導入事例に関するコンセプト動画・ユーザーインタビュー動画だ。YouTubeなどにアップしている各動画では、長崎県の「N-CHAT」や沖縄県石垣市のV-CHAT(ワクチン接種予約・接種結果表示サービス)、B.LEAGUE U15(B.LEAGUEのユース)が導入した「健康観察CHAT」など、導入団体の担当者や利用者が導入経緯や使用感を紹介している。また、健康観察CHATは、内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策推進室のサイトで専門家監修の健康観察アプリとして紹介されている。

スポーツ大会の入場時における健康状況確認(B.LEAGUE U15)

 
CHORDSHIPでUIデザインを担当している富士通デザインセンターの櫻井亮汰氏は、「社会デザインでは、使いやすさの最大化を目指す一方で、ユーザーとのコミュニケーションによって最適化を目指すことも必要です」と単なる表面的な改善だけでなく、ユーザーの解像度を上げてUXを考えることの重要性を語る。

櫻井氏

「例えば、私たちはインタビューを通して、導入団体が抱く『私たちはこうしたい』という想いを引き出し、生の声を動画として発信しています。このような活動を通して、より多くの視聴者に生の声を“問い”として受け止めてもらい、予測困難なVUCA時代の課題解決策をみんなで探求していきたいと考えています」(櫻井氏)

ユーザーに合わせて多様な動画を提供(健康観察チャット)

 
今後は、富士通デザインセンターが実現したい持続可能な未来のビジョンを描き、自治体や企業に浸透していくフェーズに入っていく。社会という老若男女が暮らすシーンで活用されるからこそ、万人に使いやすい仕様の追求に終わりはない。その一方で、「サービスコンテンツを作るだけでなく、『こういう未来があったらいいよね』といったコンセプトを提示してクライアントに道を示す“発火点”としても力を発揮していきたいです」(小黒氏)

現代社会を構成する多様なユーザーへ届けるコンテンツを制作しながら、時代の流れに寄り添ったデザインアプローチを行う富士通デザインセンター。これからもデザインと情報発信の両方を軸に、一人ひとりがより良い未来について考えるような社会を目指していく。



お問い合わせ
富士通株式会社 デザインセンター
URL:https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/tech/design/
(「デザインに関するお問い合わせ」から)

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