ロジカル思考を駆使し、WEB販売サイトを再構築
世界的にDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流が加速するなか、富士通は2021年よりハイブリッドなIT環境が実現する統合型クラウド基盤サービスを提供している。富士通が長年をかけて信頼を積み重ねてきたクラウド、データセンター、ネットワーク、セキュリティ、システム運用保守などのサービスや関連技術を組み合わせたソリューション群が特徴で、従来はリーチが難しかった顧客への普及を目指し、WEB販売戦略が展開されている。
WEB販売戦略について、デザインセンターのフロントデザイン部長の薦田将治氏は、それまでのビジネスモデルを分析したうえでビジネスデザインに取り掛かった。
「富士通全体の売上の基盤は、お客様との接点となりビジネス機会を創出するビジネスプロデューサー(BP)によって支えられてきました。相手先には大手企業も多く、BPの精力的な営業活動の成果に他なりません。しかし、BPの営業活動だけでは、対応可能な顧客数に限界があります。そこで、「FUJITSU Hybrid IT Service」の販路のひとつとしてのWEB販売のビジネスデザインに取り組みました。購買への適切なサイト導線を設計できれば、リーチしにくかった顧客の獲得につなげることができます」(薦田氏)
「これまでのデザイン側の意識として、手段であるWEBサイトの改修が目的になっていると感じました」と話すのは、デザインセンターのビジネスデザイン部・福元涼介氏だ。
「そのため、売上や販売数の増加を目指しながらも、WEBサイトのデザイン改修の結果、どの程度契約に貢献できたかを分析することができていませんでした。デザインセンターとして、Webページを改修して終わるだけではなく、その結果、事業にどれだけ貢献ができているか、目標未達の場合は、どのようにしたら目標を達成できるかを考えていく必要があると思います」その点を踏まえて、「FUJITSU Hybrid IT Service」のWEB販売に関する状況や施策について分析を進めると、「WEBサイトの階層構造が複雑であり、顧客が離脱してしまうポイントが多々見受けられ、WEB販売での顧客獲得の実現に向けて改善が必要な状況でした」(福元氏)
WEB販売に関する新たな重要事項を浸透させるため、並行してチームメンバーへの方針共有も進められた。「今までは、Web販売における導線がユーザー視点で十分に計画されていませんでした。そこで、チーム発足の段階で『この商品のターゲットユーザーは○○であり、購入してもらうためにはこの階層やデザインにしないといけないよね』と共通認識を持つことから始めました。関係者と認識合わせをしっかりと実施したことで、同じ目標に向かってプロジェクトを進めることができています」と福元氏は振り返る。
認識合わせ後は、関係者と一体でデザイン思考アプローチを活用し、全体の目標数値を立て、WEB販売網全体のフローを見直したうえで、ユーザー・目的別の適切な導線を設計した。「サイト別のPV数やコンバージョン率を設定し、それを実現するLPやコンバージョンページといったサイトのUIをデザインしていきました」と薦田氏が話すように、WEB販売によって実現したい具体的数値を念頭にサイト改修と全体最適化に向けて取り組んだ。
「ビジネスがわかるデザイナー」の価値は高まり続ける
デザインセンターにとどまらず、富士通全体に“ロジカル思考”という新しい風を吹き込む薦田氏と福元氏。その源泉は、2人のこれまでの経歴が関係している。
「私が経験してきた2つの専門領域が役立っています。ひとつは販売サイトを構築するうえでの実務スキル。もうひとつは、販売サイトやビジネスモデルが急成長する要因に関する研究です。スタートアップ企業や新規事業が急成長する過程では、巨額の赤字を計上しているケースもありますが、そこには中長期的な成長を見込んだ明確なロジックが存在します。今回のプロジェクトでは、その分析経験も活かしてPV数やコンバージョン率、広告費、販売費の理想値を検討していきました」(薦田氏)
「前職では商品企画に従事し、マーケティングの知識を活かしてユーザー調査やテストマーケティングなどを行いました。培ってきた経験やノウハウは、主にターゲット設定に活きています。競合ひしめく市場において、「FUJITSU Hybrid IT Service」の顧客を獲得するには選択と集中が必要です。中小規模の企業様やDXに関心はあるけれど知識が乏しい企業様などのニッチ層もターゲットとして見直すことを検討しています」(福元氏)
「FUJITSU Hybrid IT Service」に関心のある顕在層だけでなく、DXソリューションサービスの導入を検討している潜在層も取り込むため、販売サイト上ではビギナー層向けの情報やコラムをページ上部に配置するなど、次のアクションに導く工夫が散りばめられている。2人がプロジェクトに加わって1年が経過し、WEB販売サイトの効果を可視化できるようになり、チーム内でもデザイナー自ら測定数値を確認する動きが出るなど、ロジカル思考の効果は様々な面で現れ始めている。「『このデザイン施策のビジネス貢献度はこれくらいです』と説明できるのは、数字・分析分野に長けた私たちだからこそ。その独自色がチームにいい影響を与えられていると感じています」と福元氏は一定の手応えを感じている。
その成果の陰には、自身とは異なった専門分野の背景を持つ相手への姿勢も関係している。福元氏は「『傾聴する姿勢』の大切さを実感し、相手と意見が食い違ったときに、その原因を明確にして丁寧に認識合わせをしていくことを意識しています。デザイナーや事業部の方々の意見を理解しようという気持ちで接することで、周囲の賛同や協力が得られると実感しています。ユーザー視点とメンバー視点の両方を意識することは、チーム内にも浸透させていきたいです」。
WEB販売といった強化が必要なビジネス領域においても、重要な役割を果たしているデザインセンター。薦田氏は、組織全体の力をさらに高めるうえで「ユーザー体験とビジネス理論の両方がわかるデザイナーを増やしていきたいです」と話す。
「今後、富士通のビジネスモデルが変容していく可能性は高く、コンサルティング企業、ソフトウェアサービス企業など、その道筋は多岐にわたります。大変革期では、富士通としてデザイン思考を持つ社員を増やすことが必要ですが、デザインセンターが果たすべき役割は無数にあります。商習慣やWEB販売フローの見直し、カスタマーサクセスの視点から契約継続につながるユーザー体験の構築など、富士通が目指すべき方向にアダプトしながら貢献していきたいと思います」(薦田氏)
デザインセンターが起こしたロジカル思考とデザインの化学反応は、富士通全体へと波及する勢いだ。その新機軸は、企業単位にとどまらず社会やビジネスの在り方を一変させるだけの限りないポテンシャルを秘めている。
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