公正取引委員会は6月28日、独禁法上問題となるクラウドサービス提供者のふるまいの例を示すなど、クラウド市場の競争状況の注視に力を入れる姿勢を明らかにした。利用企業や事業者への調査結果などを踏まえ、クラウド市場の拡大と寡占化が進んでおり、事業者への競争圧力が弱くなるなどの懸念があるとしている。
問題となる例として挙げたのは、データ入力時は転送料無料、出力時は高額に設定するなど他社サービスへの移行を妨げるような料金設定、独占的に取引する導入支援企業(パートナー企業)の優遇など囲い込み、アプリストアのようなマーケットプレイスで、出品するソフトウエア企業に同等性条件を課す、など。
公取委は、別の提供者へのサービスや、自社で情報システムを構築する=オンプレミスへの移行を妨げるような契約上、経済上の制約を最小限とすること、利用者や利用希望者がサービスを選ぶのに有用な情報を、契約前に提供することなどを提供者に求めた。
クラウドの利用者側に対しても、クラウドの利用停止条件を事前に検討すること、システムの移行やデータポータビリティ(集めた個人情報に対し、持ち主本人の意思で引き出したり、移動したりできるようにすること)について、需要を満たすものかを確認すること、必要に応じて移行できるようなシステム設計にすることが望ましいとした。
MM総研の推計によると、2020年度のクラウドサービス市場規模は2兆8750億円で、25年度には6兆6579億円に拡大する。年平均成長率は18.3%。公取委の分析では、20年度のアマゾン(アマゾンウェブサービス)、マイクロソフト、グーグルのIT世界大手3社の合計シェアは60〜70%に達した。市場集中度を示すハーフィンダール指数は11年度の901から20年度は2449に急伸した。
利用者側では、「仮に現在使用しているクラウドサービスが5〜10%程度上昇しても利用を継続する」とした企業が85.9%に上った(「不明」回答を除いた306社中263社)。
公取委は、「アマゾン、マイクロソフト、グーグルら3社を中心に、今後も市場集中度が高まる可能性が高く、利用中のサービスからオンプレミスや他社サービスへの切り替えもほとんど生じない傾向から、クラウド市場は非競争的な構造に変化していく可能性がある。結果、価格引上げや、サービス品質の向上の停滞、利用者に対する取引条件の透明性の低下、技術革新の停滞といった弊害が懸念される」とした。