PR視点だから書けるコピーがある
中野仁嘉(なかの・のりよし)
博報堂 クリエイティブコンサルティング局 PRディレクター。PRならではの発想を大切に、時代に合ったブランドづくりのお手伝いをしています。コピーも企画もリリースも、なんでも書きます。2022年TCC最高新人賞、2021年ADC賞など受賞。
元々クリエイティブというより、営業志望でした。2008年に博報堂に入社して上についた先輩の影響か、僕は営業でありながらストプラに近い業務に携わることが多くて。企画書をよく書いていたんです。
なおかつ当時は、PRの役割が徐々に注目されてきた頃。東日本大震災の影響もあって「社会と企業を結ぶ仕事をしていきたい」という思いもあり、2011年に社内試験を受けてPR戦略局(当時)に異動しました。
PRプランナーとしてクリエイティブ職の人たちと仕事をする場面が増えるにつれ、自分なりに言葉で課題解決をしたい欲求が芽生えていきました。僕から「こういうPR戦略を考えたので、こんなコピーだと伝わるでは」と提案したり、反対にコピーライターの立場から「この言い回しを変えると、よりエモーショナルに伝わるのでは」と教えてもらったり。僕は『コピー年鑑』すらちゃんと読んだことがなかったのですが、表現にも興味を持つようになったんです。
とはいえ異動してしばらく低迷期が続きます。器用貧乏というか、コンペに呼ばれては負けっぱなしでしたね。その中で転機となったのは、社内のアートディレクターである川辺(圭)と組むようになったこと。今回、受賞した大塚製薬「カロリーメイトリキッド」も、日本民間放送連盟の「違法だよ!あげるくん」も彼との仕事です。
川辺と初めて出会ったのも大塚製薬の大豆製品と節分を絡めた「スマート節分」というキャンペーンで、当時の僕らとしては手応えを得られました。大塚製薬の仕事に関わる機会も増え、のちに「カロリーメイト リキッド」の案件に結び付きます。今回の受賞作は第二弾(2021年)で、その前年(2020年)はプログラマー向けのプロモーションを手がけました。
企画当初は「カロリーメイト リキッド」を、アメリカ西海岸にいるようなプログラマーやエンジニアたちが愛飲するアイテムにしたいと考えていました。具体的には、CES(家電やデジタル技術の見本市)の参加者たちが持ち歩くイメージ。「スポークスマンを誰にするか?」という、PR発想から生まれたともいえます。
第一弾では実際にプログラミング言語を書ける社内のプランナーたちにコードを書いてもらい、工学系エンジニアを対象とした第二弾では電気回路に詳しいプランナーに協力してもらいながらコピーは自分で書きました。
「アート&コピー」ならぬ「アート&PR」の強み
大塚製薬の仕事は、商品と企画と時代の間を橋渡しする言葉をいかに見つけられるかが重要だと考えています。受賞コピーの「思考回路をつなげよう」も、頭を使って働く「エンジニア向け」という切り口と「電子回路」のビジュアルイメージから派生して、「思考回路」という言葉を置けたことがブレークスルーになりました。
広告業界ではアートディレクターとコピーライターが組む「アート&コピー」という考えがありますが、僕の場合は「アート&PR」。まずはアートとPRの発想や戦略があって、言葉は最後についてくるイメージ。
だから僕自身はレトリックを駆使したり、一行で心の琴線に触れることを言い当てたりするコピーを書くタイプではありません。いかにPRの視点で言葉を見つけられるかを大事にしています。
ただ今回初めてTCC賞に応募してみて改めて実感したのは、コピーは主観や好きという気持ちをアウトプットに乗せることが大事で、強みにもなること。PRは第三者を介した客観性やファクト、正しさを重視するので、僕自身は仕事の場では自分の主観を出さないようにしていたんです。
自分の感情を乗せる大切さに気付けたのは、自らコピーを書くようになったからかもしれません。今回の受賞でPRに携わる人たちの仕事がより広がり、新しい道を切り拓くようなきっかけになれば嬉しいです。