みなさんこんにちは。「The Future 100: 2022」から紹介するテーマの1回目は、「メタバース」です。みなさんもご存知の通り、2021年後半から「メタバース」が世の中を席巻しています。今回は特に注目すべきトピックをピックアップしてお伝えします。
「60年代の宇宙開発競争のように、今メタバース競争が繰り広げられている」
マーク・ザッカーバーグ氏が「将来Facebookはメタバース企業になる」と明言し、社名を「Meta」に変更した2021年以降、メタバースを構築、定義し、所有する熾烈な競争がはじまっています。
メタ社は、北米でソーシャルVRプラットフォーム「Horizon Worlds」を展開し、ユーザーは既に30万人を超えました。今年6月には英国でのサービス提供が始まり、今夏以降ほかのヨーロッパの国でも展開を始める予定です。
Microsoftなどの大手テック企業や、Epic Gamesなどのゲーム企業がメタバースのための資金調達に奔走。さらにその横で、法律や資産管理などの企業が動き出していることも見逃せません。仮想資産を対象とした世界初の不動産投資信託、メタバースの法律問題を取り上げる法的ガイド、メタバース投資ファンドの登場など、さまざまな企業がメタバースに殺到し、アピールする競争が始まっています。
メタバース上で構築される“本物の”つながり
メタバースをユーザーの視点から見れば、この仮想空間は性や年齢・人種・地域・志向性など違いを関係なく受け入れ、誰でも安心して参加できる世界になりつつあります。
世界最大の3Dアバターベースの友達発見ソーシャルネットワーク「IMVU」は、毎月700万人以上のユーザーが訪問し、1日平均55分もの時間を使って、アバターのカスタマイズ、友人とのチャット、ショッピング、クールなパーティーでの交流などをしています。中には、バーチャル製品を作成して本当のお金を稼いでいる人もいます。
IMVUでは体験を共有することでより深い友情が築かれ、クリエイティビティが重視されるとともに、あらゆる人間関係が大事になってきます。IMVUを開発したTogether Labs社のCEOであるDaren Tsui氏は、「このIMVUはソーシャルでの存在感と本物のつながりを育むように設計されている」と述べています。本当の意味で心が通い合うつながりが、メタバース上で実現するようになっているのです。
写真のように超リアルな進化型アバターも登場
アバターそのものの進化も見逃せません。写真のように超リアルなデジタルヒューマンが、次世代のアバターとして続々登場しています。さらに、一部のアバターはスクリーンの中から飛び出して、実際の世界においても登場しつつあります。
GPU(コンピュータゲームに代表されるリアルタイム画像処理に特化したプロセッサ)の大手企業Nvidia社は、対話型の人工知能(AI)を搭載した3Dアバターが、バーチャルとリアルの両方の世界で動く未来に向けて準備を進めています。同社は2021年11月にインタラクティブなAIアバター作成用プラットフォーム「Omniverse Avatar」を発表しました。これは、同社の基盤であるグラフィック、シミュレーション、AI技術を組み合わせて開発した、これまでで最も複雑なリアルタイムアプリケーションです。
このプラットフォームで作成されたアバターは、レイトレーシング(光線追跡)された 3D グラフィックスによる、インタラクティブなキャラクターで、見ること、話すこと、多様な話題について会話することができ、自然に話された意図を理解することができます。例えば、レストランでの注文や銀行取引、個人的なアポイントメントと予約といった、日々のカスタマーサービスのやり取りを担う仮想AIアシスタントへの扉が開かれると期待されています。
Epic Games社のUnreal Engineは、顔色やシワ、切れた毛細血管や傷跡など、人の特徴の複雑なディテールを再現できる「MetaHuman Creator」を開発しました。あらゆる人が自分に生き写しのアバターを生成できるようになる日が近づいています。
クリエイティビティが「新しいステータスシンボル」になる
Wunderman Thompson Intelligenceが2021年7月に実施したメタバースに関する調査によると、Z世代とミレニアル世代の72%が「今日のクリエイティビティはテクノロジーに依存している」、そして、92%が「テクノロジーによって全く新しいクリエイティブの世界が開かれる」と考えています。
IMVUはクリエイティビティを、影響力や収入を凌駕する次のデジタル時代の「新しいステータスシンボル」と呼んでいて、ユーザーにとっては、「お金儲けは最も重要なことではなく、重要なのは自分の創作物が認められることなのです」と説明しています。
クリエイティビティは、ますますテクノロジーによってもたらされ、高められており、次の時代のデジタルプラットフォームとクリエイティブな影響力の舞台となっています。
ブランド化されてゆくバーチャルワールド
最後に、メタバースがブランドやマーケティングに影響を及ぼしている事例を紹介したいと思います。ゲーム内の広告市場はさらなる成長が見込まれていて、多くのブランドが「ブランド化されたバーチャルワールドが繰り広げられるゲームの世界」に真っ先に進出しています。
その多くは、「Roblox」のような既存のゲームプラットフォーム内で斬新なブランド体験を提供して、4600万人のデイリーアクティブユーザーの関心を集めようとしています。
ラルフローレンは、2021年12月にRoblox内でデジタルコレクション「Winter Escape」を展開しました。ホリデーをテーマにした世界で、アイススケートや借り物競争などのアクティビティや、Robloxでのみ購入可能なRalph Lauren Digital Collectionのショッピングを楽しむことができます。
一方、自社のプラットフォームでブランドの仮想世界を構築しているブランドもあります。BMWは2021年9月、国際モーターショー「IAA Mobility 2021」への参加活動の一環として、バーチャルワールド「Joytopia」を立ち上げました。Joytopiaは、BMWが未来のモビリティに関するビジョンを発表する場であると同時に、コールドプレイの限定コンサートなど、フェスティバルのような要素も提供しました。
メタバースについて、理解を深める助けになりましたでしょうか?さらなる詳細や事例は「The Future 100 2022」に掲載されています。
「The Future 100 2022」でメタバースについてさらに読む:
・バーチャル・テレポーテーションが現実化する
・NFTマーケットプレイスがエンゲージメントに革命をもたらす
・ダイレクト to アバターへの小売モデルの登場
・メタバースが形成するリミナル(境界)・スペース
・ARから生まれる拡張広告
などのトピックがご覧いただけます。
2回目は、「ウェルビーング」に関するトレンドを中心にお届けしたいと思います。どうぞお楽しみに。
執筆者プロフィール:
Senior Strategic Planning Director
細見裕之
2005年、外資系代理店から、Wunderman Thompson Tokyoへ入社。入社以降多岐にわたるブランドを担当し、日本市場でのブランドの構築およびビジネスの成功に貢献してきた。また、WT Intelligence チームが発行するFuture 100をはじめとしたグローバル・トレンド・レポートを日本に紹介するサポートを担っている。