競合プレゼンは本当に不要なのか? コンペの功罪について真剣に考えた

 

このコラムでは、コンペで安定した結果を残すためのスキルシェアを目的に、勝つ環境を整えるための「アシストスキル」の重要性を説いてきました。最終回の今回は「特別編」と位置づけ、読者の皆様からいただいた意見や感想の中から、特に重要な2つのテーマを取り上げたいと思います。「コンペ回避スキル」と「コンペ不要論」についてです。

競合回避は+4得点の価値がある

多くの方がおっしゃっていたのは「そもそも競合は回避できるに越したことはない」というご意見です。これは本当にその通りで、バスケットボールで例えるなら、オフェンスリバウンドをとるようなもの。スラムダンクの安西先生に言わせれば「マイナス2点が消え、プラス2点のチャンスが生まれる」わけです。

自社のコストやリソースを浪費しないという意味でも、戦わずして勝つのが最も良い勝ち方といえます。「回避」は「勝利」より目立たないのですが、本当はもっと社内で評価されるべきです。

コンペは日常業務の延長線上

コンペといえど、日常業務の延長線上にあります。仮に、諸事情により競合になってしまったとしても、日々の業務で培った信頼関係は失われません。特にニューノーマル時代、クライアントへの物理的な訪問が制限される中において、信頼関係が既に構築できているなら、それは大きなアドバンテージです。

クライアントと定期的に接触できていれば「単純接触効果」により好意度が上がります。また、日々の業務に恩義を感じてもらえていれば「返報性」も働きます。まずは日常業務に真摯に、誠実に、丁寧に取り組むことが、コンペ勝利への最短ルートだと肝に銘じましょう。

奥の手は、社内競合でコンペ回避

元も子もないことを言いますが、クライアントも、実はコンペなんてやりたくありません(笑)。時間も労力もかかります。オリエンの準備もさることながら、提案をたくさん聞くのも、実はかなり骨が折れます。採用社を決定するのも様々な調整を必要としますので、なかなか負荷がかかります。

もし、コンペを開く理由が「多くの案やチームを見てみたい」ことであるならば、必ずしも、複数社を集めたコンペを開く必要はありません。社内競合という形を打診し、クライアントにコンペを回避してもらうのもひとつの手段です。社内で複数チームを擁立し、どこが勝っても、自社に利益が落ちることには変わらない。スタッフの立場からすると微妙な気持ちになりますが、営業として、あるいは会社全体としては、正しい判断だと思います。

上司を動かすのはタダ

コンペを回避するにあたり、例えば「全社をあげてより一層、強固な体制を構築します」のようなアピールが必要な場合もあります。しかしこの場合、あなた自身が会社の中でかなり偉くない限り、いくら言葉を尽くしても、相手に信用してもらえません。

そのような場合は、トップ外交してもらうよう上司を動かしましょう。なんせ上司を動かすのはタダですから、使わないのはもったいない。これは、上司が勝手に動くことを期待したり、待ったりしていてはダメです。あなた自身から仕掛けることが必要です。

「誰の口から言わせるのがベストか」を考え、それが「自社の偉い人」だと思ったのなら、遠慮なく動くべきです。具体的には「社長に言わせたいこと」を文章にして、上司に託してみましょう。あとは上司がどう社長を説得して動かすかなので、そこまでやったら、あとは知らんふりして任せておけばいいのです。

根強いコンペ不要論

約1カ月のコラム連載の間、読者の皆様から多くの反響をいただきました。コンペあるあるへの共感や、具体的なスキルが役立ったという声の他に、一番多かったのが、そもそもの「コンペ不要論」への言及です。

本コラムは、勝つためのスキルをシェアするのが目的でした。したがって「コンペという制度自体の是非」については、あえて触れてきませんでした。でも、皆さんここに触れてほしくてたまらないようです(笑)。だから最後に、勇気をもって「コンペ不要論」について私見を述べてみたいと思います。

コンペが害悪と言われる理由

広告業界人なら何度も耳にしてきたであろう、コンペ不要論。いつ頃から言われていたかは定かではありませんが、少なくとも私は新人の頃から耳にしてきました。不要を通り越して、もはや「害悪」とすら言われているようです。巷の声を拾い集めてみると、コンペが害悪であるとする理由には、大まかに次のようなものがありました。

●インプットと議論の問題
コンペとなった瞬間から、クライアントと代理店間の議論が制限され、意見交換の質も量も低下する。結果、解決すべき本質的なビジネス課題の特定が浅いままに、プランニングせざるを得なくなる。

●本質からズレる問題
クライアントが気持ち良い/選びやすい案が採用されがちで、本当に市場で効果のある/課題解決に貢献する案が選ばれにくい。代理店も、本来の課題解決よりも、クライアントが選びやすいことを重視した提案をしがちになる。同時に、本質的な課題解決よりも、オリエン(要件定義)に沿っているか否かで、提案が判断されがち。

●関係性の問題
本来する必要のない案件まで競合にされるので、クライアントと代理店の間に、長期のパートナーシップが形成されにくい。

●成果の問題
期待する成果が出ず、クライアントも代理店も疲弊し、不幸になる。

●代理店の働き方/リソースの問題
代理店は、本質的な課題解決に加え、いかにライバル社に勝つかについても考えねばならず、いたずらに時間、お金、労働力を消費する。

●代理店のモチベーションの問題
競合を実施するのはクライアントが代理店を信用していない証拠であり、それを感じた代理店のモチベーションが下がる。

これらの主張には私も共感するところが多々あります。一説によると、日本の広告業界は特にコンペが多いらしく、長時間労働や燃え尽き症候群の主な要因になっているという話も聞きます。

指名で頼られた仕事を、緊張感を持って遂行する。仕事のあり方としてはこれが一番だと私も思います。でも、コンペが害悪以外の何物でもないならば、なぜこの商習慣はなくらないのでしょうか?

もし本当に、誰も幸せにならない制度ならば、なくなって然るべきです。でも、今日もあちこちでコンペは開催されています。どうやら、一介の広告人が不要論を唱えたところで、この商習慣はなくならないようです。おそらく、問題の根はもっと複雑。そこでもう少し、この問題を掘り下げてみようと思います。

次ページ 「コンペ不要論を唱えているのは誰か?」へ続く

次のページ
1 2
鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)
鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

鈴木大輔(FACT/戦略プランナー)

2006年ADK入社。競合プレゼンの存在すら知らなかった営業時代を経て、2010年より戦略プランナーとして大阪へ。一転して競合プレゼン三昧の3年間を過ごし、勝率5割を達成。ところが東京に戻ってからは、思うように勝てない日々が続く。業界3位の広告会社で苦しみながら戦い抜いた10年以上に及ぶ経験と、百を超える競合プレゼンで溜め込んだ知見を、競合に勝つための方法論として体系化。2023年、著書『競合プレゼンの教科書 勝つ環境を整えるメソッド100』を上梓。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ