コロナ禍をきっかけとするビッグデータを活用したDOOH
「At the Forefront Of Location Data: Where We Are Now With Programmatic DOOH ロケーションデータの最前線~プログラマティックDOOHの現在地~」には、はじめにLIVE BOARD・クライアントサービス部ディレクターの現王園章太氏が登壇。10年近くにわたりOOHに従事してきた立場から、OOH(DOOH)業界や生活者意識の変容を紹介した。近代日本におけるOOH業界のターニングポイントは、2013年の東京五輪開催決定であり、2020年に向けて街をはじめとした公共空間の美化・整備が進んだと説明。その過程でデジタルサイネージに対する期待の高まりを感じたという。2020年にかけてデジタルサイネージの売上は右肩上がりで、ポスター広告や駅構内、車内広告などがDOOHに置き換わり、プログラマティックDOOHがトレンドワードとして業界内に広まったと現王園氏は振り返る。
好況のOOH(DOOH)だが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大で状況が一変。生活者が屋外にいることが前提のOOHメディアだが、外出自粛や在宅勤務などの新しい生活様式により街中から人が消え、特価で販売されるなど「人がいなくなりOOHメディアは価値を見失ったのでないか」と評するほどの未曾有の事態に陥ったという。
一方、生活者はコロナ禍で行動規制が敷かれる中でも外出意欲を失っておらず、限られた外出時にはその光景をSNSに頻繁に投稿。外出が非日常になった社会では街中の広告も素晴らしい体験のひとつとなり、インパクトのあるOOHは多くの関心を集め、コロナ禍で価値を見失ったかと思われたOOHに、インパクトメディアという一筋の光が差してきたと現王園氏は解説する。
OOH(DOOH)業界に変化が訪れた2021年に、現王園氏はLIVE BOARDに入社。日本初のインプレッション(広告視認者数)に基づくデジタルOOH広告販売事業を、海外では主流のPDCAサイクルを用いた手法で運営し始めた。PDCAサイクルを採用した背景には、データに基づくOOH提案が広告主にとっての価値になるという考えがある。PDCAサイクルを回すことで街中の人々の興味関心、位置情報など様々なデータを活用できるが、当時の日本ではデータを活用した検証作業はほぼ取り入れられていなかったという。
LIVE BOARD は、PDCAサイクルの前提条件となる共通指標を設定し、狙いをもったOOHキャンペーンを提案。欧米を中心とした世界各国では、OOHを含めた様々な媒体を横断して業界標準と言われる視認者数が存在しており、これを土台に「PLAN」ではリーチの最大化などの目的に応じたインプレッション数のプランニング、「CHECK」においてはプランニングしたKPIに対しての広告効果を検証など、各プロセスを運用している。
位置情報ビッグデータにもとづくDOOHの有用性
LIVE BOARDの狙いをもったOOHキャンペーンに必要な視認者数は、親会社であるNTTドコモの計測技術を活用し算出している。続いて登壇したNTTドコモ・クロステック開発部第4企画開発担当主査の中川智尋氏は、2015年から位置情報を活用した分析・システム開発に従事してきた立場から、DOOHの広告価値の計測技術について紹介した。
DOOHの広告価値指標は、インプレッション(延べ視認回数)、リーチ(広告視認人数)、フリークエンシー(平均視認回数)で構成され、計測目的として「既存メディアと比較できる指標の実現をするため」と説明する中川氏。テレビやWEBの広告価値を計測する技術はすでに存在しており、DOOHを加えて有効に活用することで、広告全体の総合的なプランニングや効果検証が可能になる。
DOOHの広告価値を計測する手法として、視認エリアの設定が重要となる。対象エリアの通行量と視認率からインプレッションを算出し、そこから重複するユーザーを除くことでリーチを得ており、これらはNTTドコモの位置情報ビッグデータを活用している。特に、通行量は携帯電話の基地局が収集するモバイル空間統計と呼ばれるデータをもとに正確な情報を導き出している。
これを受けて現王園氏は、LIVE BOARDのシミュレーション・レポート機能を紹介。インプレッション、リーチ、フリークエンシーに関する多角的な分析・確認に、NTTドコモの位置情報ビッグデータが活用されていることの有用性を説いた。現在は消費者との様々な接点に対応することを目的に、駅や商業施設のほかタクシーの車内外といった媒体も計測対象に加え、さらなるサービスの拡大を見据えているという。
DOOHにおけるプログラマティック化
最後に登壇したLIVE BOARD・クライアントサービス部ディレクターの西中村洋巳氏は、デジタル広告の知見にもとづきDOOHの現状と将来性について解説した。
インターネット広告市場内のビデオ広告は5000億円規模に成長し、なかでも運用型広告は全体の80%ほどを占めるまでに至っている。広告配信プラットフォームにおける変化としては、インストリームやオーディオなど様々なデバイスが台頭し、メディアを横断した広告配信へのニーズが増加。いわゆるオムニチャネル化が進行するなかで、DOOHもそのデバイスのひとつとして活用されるようになった。
西中村氏もインプレッションの重要性に言及。デジタル広告とDOOHではインプレッションの意味合いが異なり、デジタル広告は「1:1のコミュニケーション」、DOOHは「1:nのコミュニケーション」と説明した。DOOHにおいては、1回の再生で何人が視認したかが重要であり、プログラマティック化の実現度合いとしては掲載までのリードタイムが既存のOOHにくらべると短く、配信時間などをニーズに合わせて自由にコントロールできており、ジオデータを活用したターゲティング配信もすでに実績があるという。プログラマティック化にはデータが不可欠な点からも、PDCAサイクルにもとづくデータ収集・効果測定を行っているのが現状だという。
続いて、西中村氏はLIVE BOARDのポジションに触れ、メディアオーナーとSSP(サプライサイドプラットフォーム)双方の展開をしており、販売形態としては予約型配信(LIVE BOARD Network)とプログラマティック配信の2つの方法を紹介した。SSPを運営する側面としては首都圏を中心に1万6000以上のスクリーンとネットワークを構築しており、今後も他社との連携を強化しながら配信面を強化していくと話した。2020年からDSP事業者との接続によりRTB(リアルタイムビッディング)での買付も行われており、今後さらにプラットフォームから直接インベントリを購入する流れは強まると西中村氏は語る。
最後に西中村氏は、LIVE BOARDがローンチするDOOHのバイイングに特化したLIVE BOARD DSPの機能とあわせて、LIVE BOARDが目指すDOOHプラットフォームを解説。「エコシステムとして成立しないと意味がない」と前置きし、デマンドサイド側はDOOHをインプレッション単位の粒度で購入できるようになり、サプライサイド側は単価向上や販路拡大に繋がる、といったバイヤー・サプライヤー双方がwin-winになる関係構築に寄与したいと話した。そして、様々なインプレッションを計測し、生活者のあらゆるモーメントに対してワンプラットフォームで配信していきたいと将来展望を総括した。
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