よくわからないまま「コンセプター」になる。

わたしは今、企業や商品・サービスなどの言葉まわりを「コンセプト」からつくる仕事がメインになっています。いわゆる「コピーライター」というよりは「コンセプター」といった感じでしょうか。

もしかしたら、この「コンセプトづくり」に自分の立ち位置を見つけられたことが、コピーライターとしてなんだかんだやってこられた理由のひとつなのかもしれません。

というわけで今回は「コンセプト」のお話を書こうかなと思います。

わたしの経歴は前回のコラムでも触れましたが、そのなかで「コンセプト」と出会ったのは32歳でコピーライターへ転身してから約1年後。デザイナーの求人募集になぜか「コピーライターって募集してますか」と問い合わせて東京から転職(移住)した大阪の制作会社でのことでした。

過去も含めてコピーライターが一人もいない会社だったので、コピーライティングをだれかに教えてもらえるような環境ではありません。とくに講座などで基礎を学んだこともなく、宣伝会議賞でグランプリを受賞して見切り発車でコピーライターになってしまった身なので、なにもかもゼロから自分で考える必要がありました。そんなよくわからない人間をほんとによく採用してくれたものです。

なにはともあれ、ひとまず遅ればせながら、これまでの名作コピーたちを読むところからはじめてみることに(それまでちゃんと読んだことがなかったなんて今振りかえると自分でも信じられないのですが)。「いいな」と感じたコピーたちをひたすら集めて分類し、共通するルールを50パターンほど抽出しました。

そのおかげでコピーをたしかに書きやすくはなったのですが、実際に得られたのは「ふーん」といった虚しさにも似た気持ち。こんな小手先のやりかたで本当の意味でおもしろいコピーが書けるわけないし、もし仮に書けてしまったとしたらなおさらおもしろくないじゃないかとなんだか腹が立ってきました。

そこで「そもそも、どうして、そんなに腹が立つんだろう」と自分自身に問いかけてみることに。すると「どんなに言葉としておもしろくてもクライアントの課題を解決できていないコピーなんておもしろくもなんともない」という意外と真面目な答えが見えてきました。

じゃあ、どうすればいいのか。

そう悩んでいるときに「とある大阪の大御所コピーライターはなにやら『コンセプト』なるものをびっしり書いてからコピーを提案するらしい」とのウワサをたまたま仕事仲間のデザイナーから耳にすることに。もちろん、当時も「コンセプト」という言葉は知っていましたが、正直なところコピーライターとしてしっかりと意識できてはいませんでした。(これもまた今振りかえると自分でも信じられないのですが)

いろいろと調べたり聞いたりした情報をまとめると「コンセプト」とは「クライアントの課題を解決する方向性を言語化したもの」だそうで「コピーも含めたクリエイティブ全体を考えるベースになる」とのこと。まさに自分が求めていた考えかたじゃありませんか。

これまた遅ればせながら「コンセプト」と向きあう日々がそこからはじまることに。コンセプトをどのようにつくればいいのか。一つひとつのプロジェクトをとおして自分なりに試行錯誤しながら実践的に方法論を組みあげていきました。

そうこうしているうちにコンセプトから言語化するプロジェクトがすこしずつ増えていき、冒頭でもお伝えしたように独立した現在もメインの仕事になっているわけです。よくわからないまま考えつづけていたら、いつのまにか「コンセプター」にもなっていた。そんな感じでしょうか。

ちなみにコンセプトづくりの方法論について本コラムでは文字数などの関係で書けませんが、さもプロにしかできないかのように難解な用語を振りまわしたり、さも門外不出の価値があるかのようにもったいぶって隠すつもりもありません。むしろ、できるだけシンプルでわかりやすいフローを心がけていますし、なんなら基本的な考えかたはウェブサイトなどにも公開していますので、暇で暇でしょうがないときにでも覗いてみてください。

というのも、だれもがコンセプトをつくれるようになってほしいなと考えています。まちにあふれる一つひとつの言葉に奥行きが生まれれば、まちはもっと深く多様でよくわからないものになっていくでしょうから。もちろん、いい意味で。

まあ、だれでもコンセプトをつくれるようになれば、わたしの仕事はなくなってしまうのかもしれませんが、それならそれでべつにいいやとも思っています。

どうしよう。

田辺ひゃくいち

ただの『一(ぼう)』代表。『よくわからない店』店主。コピーライター。コンセプター。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、オトナの会社や中国法人の支社長など10年で10職以上を流転したのち、第52回宣伝会議賞グランプリを受賞。もうすこし生きてみることに。東京や大阪の制作会社を経て独立。現在はコンセプトづくりを中心に企業の『言葉顧問』なども務め、2021年には家族と暮らす東京・小平市に『よくわからない店』をオープンした。足立区生まれ足立区育ち。偽名。
Twitter:https://twitter.com/tanabe101


田辺 ひゃくいち
田辺 ひゃくいち

ただの『一(ぼう)』代表。『よくわからない店』店主。コピーライター。コンセプター。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、オトナの会社や中国法人の支社長など10年で10職以上を流転したのち、第52回宣伝会議賞グランプリを受賞。もうすこし生きてみることに。東京や大阪の制作会社を経て独立。現在はコンセプトづくりを中心に企業の『言葉顧問』なども務め、2021年には家族と暮らす東京・小平市に『よくわからない店』をオープンした。足立区生まれ足立区育ち。偽名。
Twitter:https://twitter.com/tanabe101

田辺 ひゃくいち

ただの『一(ぼう)』代表。『よくわからない店』店主。コピーライター。コンセプター。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、オトナの会社や中国法人の支社長など10年で10職以上を流転したのち、第52回宣伝会議賞グランプリを受賞。もうすこし生きてみることに。東京や大阪の制作会社を経て独立。現在はコンセプトづくりを中心に企業の『言葉顧問』なども務め、2021年には家族と暮らす東京・小平市に『よくわからない店』をオープンした。足立区生まれ足立区育ち。偽名。
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