鳥井 武志 氏
Conviva Japan合同会社
社長執行役
2002年からインターネットテクノロジーに従事し、Yahoo! Japanを含む大手企業の事業の拡大に寄与。複数の米国資本企業日本事業責任者や日本法人代表を務め、日本において合同会社の立ち上げ後、2022年Conviva Japan合同会社に社長執行役として参画。
ユーザーを離れさせる第三の要因
2020〜21年のコロナ禍を経て、インターネット利用率が増加している。
とりわけ接触時間を増やしつつあるのが動画配信サービスだ。総務省の「令和3年通信利用動向調査」では、動画投稿・共有サービスを利用用途に挙げた人は21年で57.5%。前年から3.3ポイント伸長した。
また、インプレス総合研究所の調べでは、有料動画配信サービスの利用率も20年から3.3ポイント増加の28.9%。インターネットに接続できるテレビ受像機の普及で、テレビでオンライン動画を視聴するスタイルも広まりつつある。
オンライン動画を視聴していて時折出くわすのが、点滅する円環状のドットだ。リバッファリング(再生中の動画データの読み込み)による再生の中断を示す。
ストリーミング動画再生の分析を手がけるコンビバジャパン社長執行役の鳥井武志氏は、「動画の視聴を断念させてしまう要因のうち、見過ごされてしまっているのが、ストリーミング再生にまつわる品質」と指摘する。
「動画視聴者の増減要因として、よく挙げられるのは、コンテンツの内容と料金です。たしかに、これらも重要な因子ではありますが、同じくらいかそれ以上に重要なのが、動画再生時の体験ではないかと思います。特にリバッファリングによる再生の中断は、体験を損なうアクシデントのひとつです」(鳥井氏)
リバッファリングは、ストリーミング再生を行うのに必要な機能だ。ストリーミング再生は、動画データを小分けにして、ダウンロードと再生を並行して行うもの。通信速度が早くなったり遅くなったりしても影響がないよう、一時的にデータを蓄えておくのがバッファリングだ。データの蓄積が再生に追いつかなくなると、再生を中断し、データのダウンロードを先行させるのがリバッファリングとなる。こうした中断は、ネットの通信速度のほか、端末側の処理能力やメモリ容量などによっても発生する。
コンビバの調査では、日本国内のストリーミング再生でリバッファリングが生じたのは、21年10〜12月期で0.4%。鳥井氏は「一見、少なく見えますが、これは平均値。週末や夜間など、動画再生が増えるタイミングでは、もっと多くのリバッファリングが生じているおそれが強い」と話す。
リバッファリングが生じているかどうかを測定するやり方にもポイントがある。一般的な手法は、再生時間中、リバッファリングが発生した「回数」を測るというものだ。たとえば、4分の動画で、0〜60秒までで1回、61秒〜120秒までで1回、といった具合だ。
「しかし、発生の回数だけを見るのでは、実際のユーザー体験を反映することができません」と鳥井氏は指摘する。コンビバの分析では、リバッファリングの継続時間を測定できるという。
「先ほど挙げた例で言うなら、0〜60秒の間と、61〜120秒の間に起きたリバッファリングが何秒間続いたのか。1回、1回と数えるのではなく、継続時間を測定すると、61〜120秒の間のリバッファリングは、次の121〜180秒の間まで続いていた、ということもわかります。4分間で2回起きた、と、4分間の動画で2分近くのリバッファリングが起きた、とでは、深刻度が全く異なってしまうわけです」(鳥井氏)
リバッファリングは、動画本編だけでなく、その前や途中に再生される動画広告でも発生しうる。
鳥井氏は、サンプルサイズが小さい、としながら、「動画広告再生時にリバッファリングで中断が起きた割合は77%というデータもあります。そもそも動画広告を再生するために、ユーザーをどれくらい待たせているか、という時間の平均は0.22秒。これも平均なので場合によっては5秒、10秒というケースがあると思われます。動画広告においては5秒間待たせると、13.6%の人が動画自体の再生をやめて離脱することもわかっています」と話す。
ユーザーの視聴環境にもよるものの、再生時の体験が望ましいものでなければ、サーバーやコンテンツ配信ネットワーク(CDN)の見直し、ということを考える必要がある。
「動画本編も動画広告も、どちらの再生品質もユーザー体験の非常に大事な要素です。インプレッションや再生回数、完視聴率などの数値はこれまでも重視されてきましたが、そこで見えないのが、再生時の体験であり、また、それが損なわれることによる、視聴の離脱です。コンテンツの内容をどれだけブラッシュアップしても、再生品質が悪ければユーザーを維持、獲得することができません」
測定が再生を損ねることも
リバッファリングの発生など、再生体験を損ねるような障害を計測するツールは、コンビバの提供するもの以外にもある。「しかし、場合によっては測定の仕組み自体が、再生に悪影響を及ぼすこともある」と鳥井氏は話す。
「よくあるのが、動画再生プレイヤー自体がフリーズしてしまうこと。アプリ上での再生でも、アプリ自体がフリーズしてしまう場合に、測定のためのシステムが関わっているケースはあります」(鳥井氏)
フリーズさせてしまうときに考えられるのが、プレイヤーに組み込む、測定のためのソフトウエア開発キット(SDK)だ。データ処理を端末側で行う場合、メモリなどを多く消費することで、フリーズを誘発させてしまう。
「コンビバのツールの場合、そうしたことのないようにデータ処理はサーバー側で行っています。組み込むSDKは非常に軽量なもので、端末側にかける負担を限りなく減らすことを意識しています。機能を追加する際も、サーバー側で実施できるので、SDKを入れ替えるという作業もありません」(鳥井氏)
データ分析の重要性は日進月歩で高まっている。
「大切なのは、きちんと現実を反映したデータをリアルタイムで見ることができるか。それによって、適切な施策につなげられているか。そして、測定のために利用者の体験を損ねることのないように務め、最終的に売上増に貢献しているか。それが今後のストリーミングビジネスで成長する重要な鍵となるのではないでしょうか」(鳥井氏)
Convivaによる、【ストリーミング市場レポート】はこちらから
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