サーキュラーエコノミーにシフトするビッグブランド〜「The Future 100」からトレンドをピックアップ解説

Wunderman Thompsonのグローバル・トレンド予測チームは10カテゴリー・100項目にわたってトレンドや変化を解説する調査レポート「The Future 100」を毎年発行している。3回にわたり「メタバース」「ウェルビーイング」「サーキュラーエコノミー」のテーマに沿って同社 Senior Strategic Planning Directorの細見裕之氏がレポート内からトピックを紹介する。
 

「The Future 100 2022」
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みなさん、こんにちは。Wunderman Thompson Intelligence発行の「The Future 100 2022」から、注目すべきトレンドについて紹介するシリーズ企画、今回が最終回です。ぜひ最後までお読みいただけますと幸いです。

日本においても近年SDGsの認知が急速に高まり、サステナビリティに関する興味・関心もさらに強まっています。
そこで今回は、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」に関する5つのトレンド(カーボンニュートラルなブラウジング/浄化技術/グリーンマッピング/環境再生型ブランド/新しいラベル表示)をピックアップして紹介します。

「カーボンニュートラル」なウェブサイトが登場

カーボンニュートラルへの取り組みというと、エネルギー会社や工業製品を思い浮かべる方が多いと思いますが、今ではウェブサイトにおいても、カーボンニュートラルなブラウジングへの取り組みが始まっています。

Eコマースのマーケットリサーチ会社のFoxintelligenceが2021年2月に発表した電子メールによる環境汚染に関するレポートでは、「もしインターネットが国だとしたら、世界で6番目に大きな汚染国になるだろう 」と報告されています。

このような結果を受けて、オンライン活動の二酸化炭素排出量を削減するために、ウェブサイトを全面的に見直すブランドが現れています。

Volkswagenは2021年2月にカナダのウェブサイトを再構築し、より持続可能な閲覧体験を提供しはじめました。「Carbon-Neutral Net」のオンラインデザインでは、すべての色を排除し、写真を低用量データのテキストを用いて作成したモザイクに置き換えることで、デジタルカーボンフットプリントを削減しています。サイト閲覧時に発生するCO2量は大幅に減少しました。デジタル上の炭素排出量算出ツールである「Website Carbon」の評価によると、平均的なウェブサイトでは1ページビューあたり1.76グラムのCO2を排出しているのに対し、このサイトでは1ページビューあたりわずか平均0.022グラムに抑えているとのことです。

この例をはじめ、いくつものブランドが消費者の価値観に合わせてデジタルタッチポイントを再考しはじめています。

Volkswagenカナダのカーボンニュートラルなウェブデザイン。

バイオテクノロジーで公共空間の空気を浄化する

バイオテクノロジーを利用して空気を浄化する「浄化技術」に革新の波が押し寄せています。気候変動の影響を緩和することを目的として、この新しい技術のテストが公共空間で始まっています。

英国の建築・イノベーション企業EcoLogicStudioは、空気中の汚染物質を除去するプロジェクトを発表しました。同社の「AirBubble」は、太陽光発電と藻類を使ったバイオリアクター(生体触媒を用いて生化学反応を行う装置)で、自然の光合成を利用して空気中の汚染物質や二酸化炭素を除去します。現在ポーランドのワルシャワにある子ども向けのプレイグラウンドで使用されています。遊び場の周囲に設置されているバイオリアクターによって、世界保健機関(WHO)のガイドライン以内の汚染レベルを維持しています。同社は、グラスゴーで開催されたCOP26国連気候変動会議でもAirBubbleを発表しました。

EcoLogicStudioによるバイオリアクター「AirBubble」を設置したワルシャワの遊び場。
画像提供:Maja Wirkus

グラスゴーで開催されたCOP26で発表されたAirBubble。
画像提供:Naaro

大気の質への関心の高まりによって新しい技術やデバイスが開発され、公共の場できれいな空気を吸えるようになりました。

グーグルマップが「CO2排出量の少ない経路」を表示するように

意識の高い消費者は、旅行を計画する際にも環境を優先させるようになってきました。そこから「グリーンマッピング」のトレンドが生まれています。

2021年10月、Googleはグーグルマップに環境に配慮した3つのオプションを新たに導入しました。そのひとつが、エコフレンドリー・ルーティング(CO2排出量の少ない経路)で、ドライバーは最短経路だけでなく、最も燃費のよい経路を確認できるようになりました。グーグルマップ以外にも、同社は持続可能な旅行情報の提供に積極的に取り組んでいます。例えば、フライト検索で排出量の推定値が表示されたり、ホテルのリストに持続可能性の認定やエコ認証が表示されるようになりました。

Small Luxury Hotels of the Worldグループは、2021年10月に「Considerate Collection(思いやりのあるコレクション)」を発表しました。Global Sustainable Tourism Councilと協力し、地域の生物多様性の向上や地域コミュニティのウェルビーイングの改善など、サステナビリティへの卓越した取り組みを行うホテルが選ばれています。

ブータンのシャバ村にあるブータン・スピリット・サンクチュアリ。Small Luxury Hotels of the Worldの「Considerate Collection」に選ばれた目的地のひとつ。
画像:Jaylen Prater, 提供:Pinterest Havens

スウェーデンの北極圏ハラッズに建設された北極風呂。こちらも「Considerate Collection」に選ばれている。

このように、消費者は旅行を完全にあきらめるのではなく、より持続可能な計画を立てられるようなブランドに関心を寄せています。Wunderman Thompson Dataによると、世界の消費者の79%はブランドが紹介する「より持続可能な生活をするためのヒントやアドバイス」に興味があると答えています。

地球への害を減らすのでは不十分、主題は「再生」へ

業界を問わず、多くのブランドが再生型の活動に取り組み、サステナビリティの目標を達成しようとしています。それが「環境再生型ブランド」です

再生とは、地球への害を減らすだけにとどまらず、資源の回復と更新によって負の影響を逆転させることを目指しています。Wunderman Thompson Intelligenceの2021年版レポート「Regeneration Rising」によると、回答者の84%が、企業が推進しなければ再生は実現しないと考えています。これを受け、さまざまなカテゴリーのブランドが、再生を目指すことを宣言しています。

大手ファッションブランドも再生農業に投資しています。2021年10月、ラルフローレンはSoil Health Instituteと提携して「US Regenerative Cotton Fund」の立ち上げを発表しました。続いてConservation Internationalと世界的なラグジュアリーグループであるKeringが、「Regenerative Fund for Nature(自然再生基金)」主導のもと、最初の7つの助成先を任命し、今後5年間で100万ヘクタールの土地を再生的な手法に移行させるというミッションを進めています。

Ralph LaurenとSoil Health Instituteは「US Regenerative Cotton Fund」を立ち上げた。

大手食品メーカーも近年環境再生型農業への取り組みを進めており、多国籍企業のダノン、ネスレおよびジェネラルミルズの3社は、一部のサプライヤーに再生技術を導入する計画を明らかにしています。また、2021年4月には、ペプシコ社が2030年までに同社の全農地面積に匹敵する700万エーカーの土地に再生技術を導入するという野心的な目標を発表しました。

ペプシコが導入を進める再生型農業。

企業やブランドは、地球への害を減らすだけではもはや十分ではないことを認識しています。世界の資源を再生し、何世紀にもわたって蓄積されたダメージを修復することは、今や究極のサステナビリティのストレッチ目標となっています。

ビューティブランドが手を取り合い、環境への影響をパッケージに表示

最後に紹介するのは「新しいラベル表示」のトレンドです。環境負荷の透明性に対する消費者の期待に応えるため、ビューティブランドは、製品が環境に与える影響に関して透明性を持たせるためにラベル表示を見直しています。

2021年9月、著名なビューティブランドが協力して、製品の環境負荷や持続可能性を追跡するシステムをブランド横断で開発しました。このプロジェクトに参加する企業の商品はラベリングシステムを通じて比較することができ、消費者は購入する製品が環境に与える影響を明確に把握することができます。最終的にはUnilever、Henkel、L’Oréal、Natura & Co、LVMHの各ブランドが参加し、他のブランドにもこのプロジェクトへの参加を呼びかけ、美容業界全体の完全な透明性の実現を目指しています。

Henkelは、美容製品の環境負荷を追跡するためのブランド横断型のシステムの開発に協力した。

多数のブランドを抱えるUnileverもこのプロジェクトに参加している。
画像提供:Unilever

より多くのビューティブランドが、自社製品の環境への影響をパッケージラベルに表示し、透明性あるサステナビリティ活動を選択するようになりました。消費者の注目も高く、市場にとって重要な取り組みであることを示しています。

以上のように「サーキュラーエコノミー」関しても様々なトレンドが登場してきています。みなさんの興味をひく話題はありましたでしょうか?
さらなる詳細や事例は、「The Future 100 2022」に掲載されていますので、そちらをご覧いただけますと幸いです。

「The Future 100 2022」でサーキュラーエコノミーについてさらに読む:

・カーボンテックの未来
・セーリングの復活
・フォリッジド・カクテル
・細胞培養されたコーヒー
・ネット・ゼロ・アルコール
・オフィスの再野生化
 などのトピックがご覧いただけます。

3回にわたって、「The Future 100」の中から、関心の高そうなトピックを選んで紹介させていただきました。みなさまのお仕事に参考になりそうなトピックがありましたら幸いです。ありがとうございました。

執筆者プロフィール:

Senior Strategic Planning Director
細見裕之

2005年、外資系代理店から、Wunderman Thompson Tokyoへ入社。入社以降多岐にわたるブランドを担当し、日本市場でのブランドの構築およびビジネスの成功に貢献してきた。また、WT Intelligence チームが発行するFuture 100をはじめとしたグローバル・トレンド・レポートを日本に紹介するサポートを担っている。


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