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今回は「TikTok売れ」がテーマです
嶋野:ようやく来ましたね。第10回目が。
尾上:2年以上やってますよね。
嶋野:さて、今回はファッションの事例です。しかも「TikTok売れ」と呼ばれる、動画をつかったストーリーテリング型のプロモーションで話題になった10domさんの取材をしてきました。
尾上:面白かったですね。22歳とめちゃくちゃお若いけどしっかり考えていて。オーバーサイズブランドという自分が好きなところに絞って商品開発してるのがよいですね。自分自身もファンであり、デザイナーでいられるところが。
嶋野:大体100着限定の販売らしいのですが、1分で売り切れることもあるとか。すごいなぁと。
尾上:嶋野さんは22歳のとき、何してたんですか?
嶋野:料理学校いってましたね。やることなくて。ところで尾上くんはファッション好きじゃないですか。結構TikTokとかも見るの?
尾上:料理学校!?僕はそんなおしゃれってわけでもないので、気になった服をたまに買うって感じです。
嶋野:毎回独自のファッションだよね。なんかいわゆるクリエイターっぽいの。
尾上:なんですかクリエイターっぽいってw
嶋野:汐留のファッションモンスター?(半笑)
尾上:年齢を感じるコメントありがとうございます。それでは本文をご覧ください。
オーバーサイズ専用ブランドにした理由
嶋野:さっそくですが、タクマさんはなぜ自分でファッションブランドを立ち上げようと思ったのですか?
タクマ:自分はいま大学4年生なんですが、1年生のときにビジネスをしようと決めたんです。最初はフットサル大会の運営とか、スニーカーの転売をして。それで大学生にしては多少お金があったんです。
でも途中で、自分の好きなことでお金を稼がないと意味がないな、続かないなと気づいて。その時、好きなものがファッションでした。洋服が好きな男なら一度は自分のブランド持ちたい。そんなロマンを叶える感じで、ファッションブランドをはじめました。
嶋野:自分の「好き」がストレートにビジネスにつながったんですね。オーバーサイズ専門店にしたのはなぜですか?
タクマ:当初はそういうコンセプトはなかったんです。最初の服(Tシャツ)は売れたけど、そのあと在庫を抱えてしまって、ブランドとして何か変化を加えなくてはと。インスタでお店の運用をしている知り合いに意見を聞いたり、調べたりしていく中で「COHINA」というブランドを知ったんです。インスタに「150cm前後の小柄女性向けブランド」と書いてあって、その時にコンセプトって面白いなと思ったんです。
「COHINA」にはその時点で10万人以上フォロワーがいて、ニッチな分野でもコンセプトがはっきりしていれば、ある程度数が取れるとわかりました。それで自分も何かコンセプトをつけようと決めたんですね。
でも、なかなかインパクトのあるコンセプトは思いつかなくて。それで自分の部屋にある洋服や作ってきた服を全部振り返ったら、言葉にはしていなかったけれど、オーバーサイズのものを作っていたし、好きだなということを再確認したんです。
ある程度勘ですけど、「オーバーサイズ専門ブランド」って聞いたことないし、売っているところもない、でも需要はあるよなって。そこでコンセプトにして出していくことにしたんです。
嶋野:ご自身がよく着ているのがオーバーサイズだったという、発見と気づきがあったということですね。
ほとんど24時間 TikTokのことを考えている
尾上:オーバーサイズ専門店って打ち出してから、反応は変わりました?
タクマ:自分と同じような好みの人がフォローしやすくなったと思います。インスタにコンセプトが明記してあるブランドって意外とあまりいないですし。
尾上:TikTokの動画も全部見たんですけど、一体どうなっちゃうんだろう?ってずっと見ちゃいますね。 デニムのサンプルがダサすぎて、やばい!とか。
@10dom_takuma 【5日目/リーバイス越えのデニム作り】#メンズファッション #ストリート #デニムパンツ ♬ オリジナル楽曲 – 10dom【タクマ】
タクマ:発売まですぐなのに、売り物にできないようなサンプルが届いてめちゃくちゃ焦りました。でも、洋服としてはヤバいけど、動画は伸びるな、って。アンチはコイツ完成できないじゃん!って思うだろうし、ファンの方は大丈夫かな?って思うだろうから。
尾上:客観視がすごいですね。TikTokの動画のことは、普段からずっと考えているんですか?
タクマ:TikTokのことは、たぶん24時間と言っても大げさじゃないくらい考えています。
嶋野: TikTok上で競合の動きやトレンドってどうチェックしています?
タクマ:うーん…自分の競合がそもそもあんまりいなくて。TikTokって、かわいい子やカッコいい人が踊っているイメージがあると思うんですけど、そこにビジネスやマーケティングを持ち込んでちゃんと分析している人が、自分がはじめたときはあまりいなくて。
自分は商品ができあがるまでの物語を売る「ストーリーテリング」の考えでやっていますが、そういう人もTikTokにはいなかったので、うまく刺さったのだと思います。
嶋野:タクマさんはむしろ真似される側にいるということですね。
タクマ:よくどうやってるの?と質問されますし、自分の真似をして始めたと言われることもあります。
でも、ストーリーテリングは続けるのが圧倒的に大変なんですよ。だからライバルも増えない。ブランドを立ち上げたころ「100日後に死ぬワニ」が流行っていて、それで「200日後に洋服を販売する素人大学生」という投稿をまずはじめたんです。
@10dom_takuma 10domが正式なブランドになりました #おすすめ #10dom #ジューダム #200日後 ♬ Be You (feat. RAU DEF) – Novel Core
最初の100日は毎日投稿しても、「いいね!」なんて10いったらいい状況で、しかも10のうち7くらいは知り合いみたいな。100日間人に見られないモノを投稿し続けるなんて、いま思えばよく続けたなと思います。
がけっぷちに追い詰められて動画分析をはじめた
嶋野:いま振り返ると、その頃の投稿は何が足りなかったと思います?
タクマ:まず圧倒的に動画のクオリティがよくない。よくこの画質でバズってたな、と。いま当たり前にやれていること…画質やテロップの位置も、BGMのクオリティもすべてが圧倒的に低いです。
嶋野:クオリティなんですね。てっきりストーリーテリングの違いかと思っていたので、意外な答えでした。その状況から、見られるようにするために何を変えたんですか?
タクマ:実は一番大きく違うのは、気持ちの面です。自分が最初にちょっとバズって、ある程度ブランドとして成立した大学3年の冬あたりで、インスタが伸びはじめて「こっからは何を作っても売れる!」と天狗になって…。
「俺はこれから大金持ちや!」と実家を出て。受注販売をやめて在庫を持つことにして、100着限定だったのを2色展開にして、一気に200着生産することにしたんです。
ところが、その直後に発売したアイテムが100着のうち30着しか売れない、その次も200着作って40着しか売れない。引っ越した瞬間に在庫を抱えて、来月、家賃払えるのか!?って状況になって。お母さんに保証人のサインをもらった手前、実家に帰るとも言えないし。
そこから、TikTokの動画の分析をはじめました。数字が出ている動画と出ていない動画をノートに書き出して、エンゲージメントが何%だからダメで…とかすべて計算して、こういう動画をだせばバズるんじゃないかと理論的に考えはじめて。そこから変わってきたと思います。
嶋野:それって具体的にはどういうことですか?
タクマ:データを分析して、視聴維持率がだいたい50~60%を超えるといいなっていうイメージがつかめました。30秒の動画を出して15秒見てくれたら50%という簡単なデータなんですけど、たぶんそれがTikTokで一番大事なんですよ。
「リンクコピー3回してね」と書かれた動画がめちゃくちゃコピーされてバズる、みたいなことがたまにあるけど、バズっている要因はコピーされた数じゃなくて、3回押している間に経っている“時間”なんですよ。
それがわかって以降は、視聴維持率を伸ばすつくりを意識するようになりました。例えば「年商1億」ってタイトルに出したら、なるべくその言葉を最後まで出さない。そうすると比較的バズりやすい。みんなが気になるワードを最後に持ってくるって、単純で当たり前と思うんですけど、データ的にも正しいやり方なんです。
嶋野:ちゃんとアルゴリズムの計算をされているってことですね。
尾上:すごい。僕だったらとっくに実家に帰ってると思う(笑)。
自分が好きと思うことが大事
嶋野:データ分析の結果、商品は変わらないけれど、見せ方を変えたってことですね。
タクマ:それまで有名人モデルを使っていたのもやめました。有名人を起用するとその人のファンが買ってくれるけど、自分は洋服を好きな人、服が魅力的だと思った人に買ってほしいから。改めていろいろなブランドのインスタを見て、理想のブランドをピックアップして共通点を考えて、自分はこんなブランドのつくりがカッコいいと思うんだなと再認識して。
それから、自分のインスタの投稿を全部消して、外国人モデルにして、白背景で撮影するいまの形になって、洋服のクオリティ自体も上がったと思います。
尾上:さっき、自分と同じ好みの人がブランドを見つけやすくなったと話していましたが、自分が買う側だったらどう思うか?という感覚は大事にしてますか?
タクマ:1作目の1万円のTシャツが100枚売れたとき「俺はもう天才だから何をつくっても売れる、ある程度ファンもついた」と思って、その後は自分もあまりカッコいいと思ってない服をインフルエンサーに着せて売ろうとしたんですよ。それが、全然売れなかったんですよ。
そのときに「俺はなんてものをつくってしまったんだ、自分も納得していないし売れてもいない。せめてカッコよくないと思っても売れてればいい、もしくは、売れてなくても自分がカッコいいと満足しているならいい」と感じて。それ以降は「なんでみんなこれ買わないの?」と自分が言えるくらいの服を作れれば、売れなくてもいいという考えになりました。自分がその服を好きであることを大事にしてます。
尾上:それが発言やスタンスに全部現れているんですね。さっきのデニムの失敗の動画でも、「これはダメだ、履けない」「(発売日が遅れるけど)すごいのつくるから勘弁!」って言われると、頑張ってくれ!という気持ちになる。タクマさんは結構いろいろ語るし、ガンガン押し出しているけれど、嫌味な感じがしないです。
タクマ:ありがとうございます。
尾上:ちょっとでも嘘が入ると、そういうのって伝わっちゃいますか?
タクマ:たぶん、自分がそういう嘘に感づいちゃう方の視聴者なので。動画をつくっているとき、とあるロールモデルの方が頭のなかにいて。その人がこの動画を上げたら自分はどう見るか?というのを気にしながらいつもつくってます。
嶋野:そのロールモデルは実在する人ですか?
タクマ:そうです。「Younger Song」というブランドディレクターの齋藤天晴さんという方で。例えば打ち合わせの動画を編集するときも「天晴さんがこう言っていたら俺はかっこいいと思うだろうな。じゃあ、俺もこの発言を使おう」って考えてカットを選ぶとか。
嶋野:なるほど!いや、面白い。
尾上:いやー、すごいですね。嶋野さんは22歳のとき料理学校でデータ分析してましたか?
嶋野:22歳のときはやってなかったけど、その後分子調理法にハマって少し調べてみたりはしました。肉の最適な温度と時間とか。尾上は?
尾上:僕はずっと模型作ってたので、データも何もなかったですね…。
嶋野:では、前篇はこんな感じで。後編もお楽しみに!
尾上:さよなら〜
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