欧米は既に「ポストコロナ」の段階へ
佐々木:僕の1 つ目のキーワードは「FUN& POSITIVE」です。新型コロナ禍で我慢の期間が続いている中で「そろそろ楽しく前向きにいこう」というポジティブな広告や、ユーザー側も楽しめるような体験が多数出てきたと思います。たとえば僕が審査委員長を務めたカンヌライオンズのBrandExperience & Activation 部門でゴールドをとったGirls Who Code による「DojaCode」。女性のプログラマーを増やすために、Doja Cat の楽曲をプログラミングで好きに変えられる体験を提供しています。これはエンターテインメントの形をした教育コンテンツで、まさに楽しい&前向きのアイデアだったと思います。
木村:アジアの国はまだコロナが続いている感じですが、欧米は完全にポストコロナに頭が切り替わっていますよね。僕の1 つ目のキーワードは「CREATIVITY FOR SUSTAINABILITY」と、ど真ん中で置いてみます。僕はやはり、地球や人類が未曽有の出来事に瀕している中で、今年の結果からは温暖化や海洋汚染、食糧危機や自然災害、銃犯罪や戦争といったさまざまなピンチに対してクリエイティビティの力を発揮するという決意を感じられました。その中で象徴的だったのはカンヌライオンズのイノベーション部門でグランプリを獲った「OneHouse to Save Many」。クライアントである保険会社 Suncorp は異常気象による被害を減らすために、大学や研究機関、政府も巻き込んで自然災害に強い住宅をつくり、そのドキュメンタリー映像やCM を制作しました。要は災害の被害を補償するのではなく、被害自体を減らすというポストコロナ的な新しいパーパスを打ち出しているわけです。
兼崎:たしかに、私も審査していて欧米は既にポストコロナの段階に入っている印象を受けましたね。
木村:そうですよね。その時代にどのようなソーシャルパーパスをもってサステナブルな社会づくりに貢献していくかということを、日本よりも半年くらい前に考え実行しているんだなと思いました。過去を振り返っても、2001 年の9.11、2009 年のリーマン・ショックの後もそうだったように、今回もソーシャルパーパスや広告業界の存在意義を証明するためのディスカッションが頻繁にあったと感じています。
購買行動は企業への「投票」
兼崎:今年の審査を振り返ると、私はエクスペリエンスにつながるものが多く印象に残っています。それに伴い、1 つ目のキーワードは「CASTING A VOTE(購買は「投票」)」、つまり消費行動がプロダクトに対する賛成票になると感じることがありました。たとえば、カーボンフットプリントによって値段が決まるFelix の「The ClimateStore」。ここでは購買行動が投票行動のように見えるというか、そのブランドのあり方に対して購買することで参加できるようになっていて。
消費者が購買行動を変えていくという点でいうと、Adidas の「Liquid Billboard」もありました。イスラム教徒の女性用の水着「ブルキニ」のコレクションのプロモーションとして、海辺に女性が自由に飛び込めるプール型の屋外広告を設置。飛び込む様子は街中のサイネージでもライブで放映し、全ての女性が自由に泳げる世の中を実現したいという企業姿勢を示しました。こういった企画によって、コレクションを購買することが企業姿勢への賛同になっていきますよね。こういうアイデアは日本でも出るんですけど、なかなか実現されないので、形にするのが凄いなと。
佐々木:日本の場合、社会課題を解こうとすると急にいい子になってしまって、誰にも嫌われないやり方をしますよね。結果、うまく解けずに身動きができなくなっている感じがあって。カンヌを見ていると、その企業らしさをキープしつつも、できることから大胆にきちんと実現させていっていますよね。
兼崎:それで言うと、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の認知拡大に取り組んでいるMotorNeurone Disease New Zealand の「David’ s Unusables」が印象に残っています。ALS になり身体の機能がだんだんと低下していくデイビッドさんが、「歩けなくなったら靴を」「食べられなくなったらフォークを」と、次々とオークションサイトで売り、売上を団体に寄付するとともにALS の認知向上を狙う取り組みです。日本では「そんな残酷なことをするのか」という声があがりそうなことを明るいトーンで行い、みんながそこに参画していく。見えないものとしないところがカラッとしていて、実質的かつ本質的なソリューションだと思いました。
佐々木:本当にそうですよね。僕の2 つ目のキーワードは先ほどの兼崎さんの「CASTINGA VOTE」とリンクする部分があって、「TOGETHERNESS(デジタルで力を得たユーザーと共に)」です。
(……この続きは月刊『ブレーン』2022年9月号に掲載しています)。
本記事のこの後のTOPIC
・エージェンシーに求められるのは「オーケストレーション」
・アクションよりもリアルソリューションを
・クリオでも最高賞「The Lost Class」審査の場では何が語られた?
月刊『ブレーン』2022年9月号
特集「海外アワードに見る 社会課題と向き合うクリエイターの発想」
・海外アワード2022上位受賞作6選
・日本のクリエイターは社会課題にどう向き合う?
海外アワード2022の論点とキーワード
兼崎知子(電通)×木村健太郎(博報堂/博報堂ケトル)×佐々木康晴(電通)
・写真で見るカンヌ現地レポ
電通 嶋野裕介さん × 同 尾上永晃さん
・日本の受賞作品
・日本の上位受賞作の裏側 応募レポート
「大好物醤油」、「THE LEATHER SCRAP KIMONO」、牛乳石鹼共進社「穴があったら」篇、東鉄工業「東鉄総合研修センター」
・「ヤングカンヌ」レビュー
世界の同世代の着眼点は?