イベントレポート:澤田智洋×澤円「人生を好転させる『ホメ出し』の力」

書籍『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』の発売を記念し、著者の澤田智洋氏と元マイクロソフト業務執行役員の澤円氏によるトークイベント「人生を好転させる『ホメ出し』とは?〜明日からできる実践のヒント」が開催された。

7月15日に宣伝会議 東京本社にて実施された。

ゲストで登壇した澤円(さわ・まどか)氏は、DXや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。そんな澤氏は、周りの人を日常的に「祝う」ことの重要性を自らのVoicyなどで発信している。「ホメ」も「祝い」も、自らの能動的な働きかけで、周りの人間関係や社会の空気を変えていくアクションだ。イベントではお2人にその実践のヒントを語ってもらった。

ダメ出しは誰にでもできる、権威ある人こそホメ出しを

澤田:まず僕がこの本を書いたきっかけとして、今が「大ダメ出し時代」だからというのがあります。そもそもダメ出しの大元にあるのは、ジャッジする感覚なんですよね。

著者の澤田智洋氏

:ジャッジという行為は自分のことを賢いと思いがちだし、立場が上に感じると思うんですけど、実は誰にでもできる簡単な作業ですよね。

ゲスト登壇した澤円氏

澤田:そうなんです。だからこそ、誰かを評価する立場にある人は「ホメ出し」をするべきだと思っています。以前ラジオで共演した女性のお話で、「私は自分のそばかすがコンプレックスだったけど、メイクさんに可愛いそばかすですねと言われたのをきっかけに気にならなくなった」という話があったんですね。つまり、メイクさんという美の権威の言葉が女性の自信につながったんです。

:何に対してもまずホメたり、ポジティブに受け取るのは大切ですよね。それを実践した話として、実業家の松下幸之助さんの逸話があります。松下さんはどんなとんちんかんなアイデアを出されたとしても「あんさんそれおもろいな」と最初に言っていたそうです。そうすることで、社員も「この人は受け入れてくれる」という認識になるので、みんなどんどんアイデアを出そうという気になっていたみたいです。

澤田コミュニケーションは世界観と世界観が合わさっていくことだから、その時に権威があるほうに弱い立場の世界観を吸収してしまうと、弱い立場の人のよさは発揮されない。先ほどの松下幸之助さんのお話は、言葉という道具を企業の中でうまく活用した例ですよね。私たちは持つ道具によって、世界の捉え方が変わるから。散歩している時にデジカメを持っているかどうかで、世界の捉え方、見方が変わったり。

:そうか。スマートフォンが世界を変えたなと思うのは、「切り取る」ことを皆ができるようになったからかもしれないですね。スマホによって写真でパッと風景を切り取ったり、SNSでその瞬間の考えを切り取ったり。スナップショットだから、どちらも評価しやすいですよね。プロセスのあるものは評価するのが大変だけど、切り取ったものはジャッジしやすい。さっきのダメ出し時代の話ともつながってくるかもしれない。

澤田:人間の行為でも、数値化しやすいものはジャッジの対象になりやすいです。でもホメる要素は意外と数値化しづらいんです。曖昧模糊とした魅力だったりするから。

:うん。

澤田:でも、いくつかのポイントを踏まえれば誰でもホメられるんです。それこそ本にも書いたのですが、僕は「ホメるの第一歩として惚れることが大事」、「惚れレンズをかけましょう」と言っています。恋愛初期段階を思い出してもらうと想像しやすいと思うのですが、相手の粗も含めて魅力的に見えることってないですか? つまり本人にとっては粗だと思っていることも、自分の中の絶対評価でそう感じているだけであって、好きという前提で見ると意外と魅力になったりする。だから恋愛初期段階をホメに応用するとうまくいくんです。

ホメることは「脳への反抗期」の始まりである

 
:ちなみに僕はホメの1つの方法として、「ポジティブ陰口」というのを実践しています。要するに、本人がいないところでめっちゃホメるんですよ。そうすると「自分いいヤツ感」が出て、自己肯定感も上がる。僕は元々自己肯定感がすごく低いので、そういうことで自分の自己肯定感が上がるなら安上がりだなと思って。

澤田:それが回り回って本人の耳に入ったら、うれしいですしね。

:それに、誰かに陰口を言うと、言われた側は「別のところで自分も言われているんだろうな」と思うでしょう。でも、陰で人のいいところばかり言っていたら「自分もほめられているのかもしれない」と思ってもらえるんじゃないか。それが目的じゃないけど、その方が世の中楽しくなるんじゃないかって。

澤田:いやあ、いいなあ。こういう大人になりたい(笑)。僕は福祉の事業もしているのですが、福祉の世界に入ってより一層ホメ出しの技術が磨かれている気がします。障害のある方は「障害」という一面にスポットライトが当たりすぎていて、本人もそこを求められていることを理解しているから障害の部分を強調しがちなんです。でも、よく「多様性が大事」と言われるのと同じくらい「多面性も大事」だと思っていて。障がいのある人の、障がいのない一面をあえて見ていくと、実はめちゃくちゃひょうきん者とか、恋愛癖悪いみたいな豊かな側面がいっぱい出てくるんですよね。

:(笑)。

澤田:だから「障害者」という確証バイアス(第一印象)にとらわれないことって、すごく大事なんだと気づきました。

:フラットに見ていくのは、ある程度パワーがいりますからね。

澤田:めちゃくちゃいります。誰かをホメるって、脳への反抗の始まりなんですよ。というのも、情報をパターン化して、カテゴライズして…みたいに規則を作って考えないようにするのが脳のデフォルト状態だとすれば、ホメるという行為は楽をしたがっている脳に対して仕事をさせることになるから。でも脳への反抗は、自分を縛っているあれこれから自分を解き放つことになるので、自分や社会の限界を決めつけないことにもつながるんです。

小さな「ありがとう」をもらう体験がホメにつながる

澤田:ホメるのは基本的にいいことばかりなので、ぜひ皆さんにも実践してほしいのですが、中にはよくないホメ方もあると思っています。一見いいことを言っているように聞こえるけれど、自分の都合のいい存在であってほしいがためにかける自分本位な言葉とか。自分本位ではなく相手本位で、相手の人生に何がプラスになりえるかを考えて、丁寧に言葉を贈ることがホメだと思っているので。偽物のホメは本当に多く流通しているので、受け取る側も気をつけた方がいいとお伝えしたいです。

:それは、企業の中のマネジメントにも言えますね。日本は、本当の意味でのプロのマネジメントを知る機会がかなり少ないです。中堅以上の社員に対する教育費はG7の中でも最低ランクです。新入社員の研修に極端にコストをかけすぎて、中堅以上の社員に対してプロのマネジメントを体験する機会や、勉強する環境の整備が整っていない。

澤田:なるほど。「勉強やいろいろなことを考え続けること=新しいビジョンを獲得すること」だと思っています。勉強して世界を広い目で見られるようになると、「自分は〇〇である」とか「うちの会社は○○である」みたいな定義もあまり意味がなくなってくる。すると相手に対しても決めつけないようになるから、ホメるポイントもどんどん見つかると思うんです。

:決めつけたり、バイアスをかけることに慣れすぎている感じがありますね。

澤田:中堅以上の会社員がそういったバイアスを解いていくためには、どういう教育が必要なんでしょう?

 
:知識を得るだけではなくて、小さくてもいいので会社では得られない全く異質な成功体験を積むのが必須だと思います。例えば、「会社とまったく違うところで、普段どれぐらい『ありがとう』って言ってもらってますか?」と聞いた時に、すぐ答えられる人はなかなかいないと思うんですよ。なのでわかりやすい成功体験として、会社以外の場で「ありがとう」と言われるような機会を自ら作るとか。

澤田:「異質な成功体験」って面白いですね。非日常的な何かを日常に入れていくことで、常識がマッサージされる感じがしますし、そういった機会が増えていくとホメにもつながると思います。

:副業もそういった機会のひとつですよね。副業というのは、会社以外で「ありがとう」と言ってもらう、つまり社会貢献をする機会を得るということです。本の中でも「ホメるのは社会貢献である」と書かれていましたが、社会に貢献するために時間と体力を使うことは素晴らしいことなんですね。その機会をどんどん増やすと、結果的にポジティブなキーワードを出すということが染みついてくるのではないかなと。

澤田:そうですね。生きる究極的な喜びのひとつは「ありがとう」をもらうことですよね。日本理化学工業というチョークのメーカーがあります。社員の7割が知的障害者だけれども、チョークのシェアは日本一なんです。舐めても体に害のない素晴らしいチョークを作っている会社です。

:へえ!そんな会社があるんですね。

澤田:その会社が障害のある方を雇い始め頃、外部の人から「かわいそうじゃないか」「守ってあげなさいよ。働かせるんじゃないよ」と言われたそうです。だけど、当時者たちに聞くと「僕たちは働きたいんだ」と言っている。「僕たちの幸せは、必要とされること。ほめられること。役に立つこと。愛されること。この4つだ」と。それは障害があろうとなかろうと変わらない。だから「障害者に働かせるなんてかわいそうだ」と言っている人は、人間の喜びを理解していない。

:その人たちは完全なる外野ですしね。

澤田:そうなんです。外野席の後ろのほうから野次を飛ばしてくるんです。「役に立ちたい」「必要とされたい」「ありがとうと言われたい」「ほめられたい」って、すごく大切な欲求なんですよ。

:他者から必要とされる実感は、生きるもっとも大きな喜びのひとつですからね。

ホメるときに「NGワード」はあるのか?

澤田:最後に皆さんからも質問をお受けしたいと思います。

——「ホメ」のベースにはポジティブがあると思うのですが、逆にネガティブはあるべきなのでしょうか?

澤田:…いい質問ですねえ!

:いいですね。僕から先に答えますね。僕は使わない言葉を2つ決めていて、それは「べき」と「難しい」なんですよ。その理由は、この2つは他の選択肢を考えないようにさせてしまう言葉だから。この2つを使わないだけで、実はすべてが選択肢になるんですよ。

ネガティブであってもいいんです。ただネガティブであっても大事なのは、「未来をよくするきっかけになってよかったね」というような言い方です。どうせ過去は変わらないのだから、未来に目を向けようと。そネガティブな特性を見つけても、その反動によってよいことが起きるかもしれないという可能性や、未来に起きるかもしれない素敵なことをポイントにするといいのかなと思います。「べき」という言葉を使って可能性を狭めてしまうのはもったいないと思う。すべてが選択肢だという前提で声かけしています。

澤田:びっくりしました…!僕も「難しい」を使わないようにしているんです。

:えっ、本当!?

澤田:はい。先ほどの質問に答えると、僕は「ホメ出し」を考える過程で、相手のネガティブな部分も発見するんですよ。というのも、すごく観察するから。ただ大事なのは、それがその人の全てではないということ。人間は誰しも多面性を持っているのに、ついつい僕たちは芸能人とか会ったことない人を評価する時、一つの側面だけ取り出してその人とニアリーイコールであるという風に一面を拡張しすぎちゃう癖があります。だからネガティブな面を見つけても、相手のごく一部であるという認識を持つことが大事だと思います。

:ちなみに、なぜ「難しい」という言葉を使わないんですか? 

澤田:僕はクリエイティブ職なので、いろいろな場所でクリエイティブの会議をします。その中にはクリエイティブ職じゃない人たちとのブレストやワークショップもいっぱいあって。そのとき冒頭で「今日は禁句が1つだけあります。『難しい』と言わないでください」と言うんです。

:おお。ルールを明確にするんですね。

澤田:「『難しい』って言うと、アイデア血管が詰まりますから」と。「難しいな」とバイアスをかけると、絶対にブレイクスルーできないんですよね。なぜかというと「難しい」と言った自分を正当化するために、アイデアを出さないほうが正義になっちゃう。

:そうそう。難易度が高いものは世の中にたくさんあるけど、僕は「難しい」の代わりに「これどうやったらできるかな?」と言うことにしてます。そういう言い方をすると、「こうやってみたらどう?」と、アイデアを出してもらいやすくなるんですよね。「難しい」という言葉を使わないと決めるだけで、おっしゃるとおり、クリエイティブなアイデアが出やすくなる。そういう論者なんですよ。

澤田:すごい、まったく同じだ。僕が「ホメ本出しました」と話すと、「ホメるのって難しいですよね」とよく言われるんですよ。そういうときは「『ホメるっておもしろいよね』と言い換えてください」とお願いしているんです。

:ああ、なるほど。「使う言葉」「使わない言葉」のルールを自分なりに決めて、使わない言葉を言い換える、変換していく。それでずいぶん変わってきますよね。

澤田:そうですよね。この本は、「一生使う『言葉』をもっと研究して、自分や自分の大切な人のために役立てましょう」というものでもあるんです。うまく言葉の研究に役立ててもらえたらと思います。

澤田智洋著『わたしの言葉から世界はよくなる
コピーライター式ホメ出しの技術』
本体1800円+税

 

執筆:藤井美帆(Qurumu)、構成:田代くるみ(Qurumu)

プロフィール:

(左)澤田智洋(さわだ・ともひろ)

コピーライター。1981年生まれ。言葉とスポーツと福祉が専門。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告会社入社。アミューズメントメディア総合学院、映画『ダークナイト・ライジング』、高知県などのコピーを手掛ける。2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。また、一般社団法人障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスを推進。著書に 『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房) 、『マイノリティデザイン』(ライツ社)、『コピーライター式ホメ出しの技術』(宣伝会議)がある。

 

(右)澤 円(さわ・まどか)

株式会社圓窓 代表取締役。元日本マイクロソフト業務執行役員。マイクロソフトテクノロジーセンターのセンター長を2020年8月まで務めた。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。複数の会社の顧問や大学教員の肩書を持ち、「複業」のロールモデルとしても情報発信している。

 

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