前回はコピーライターとして独立したときの話を書きました。
光栄にも「一(ぼう)」という変わった屋号をおもしろがってくれた人たちから「ひゃくいちさん、なにか一緒にやりましょう」と声をかけてもらえたわけです。
そのときに驚いたのが「ぜひ一緒にやりましょう」とお答えすると「ちなみにコピーライターさんにはどんなことをお願いできるんですか」と聞かれたことでした。
コピーライターというよりもわたしとなにか一緒にやりたい。まずはそう思ってもらえたことがとても嬉しかったのと同時に「これは困ったぞ」と頭を抱えました。
というのも「言葉まわりに問題がありそうなのはなんとなくわかっているけれど、なにからどのようにコピーライターさんへ案件として依頼すればいいのかよくわからない」とのご相談が立てつづけに届きはじめたからです。
ああ、コピーライターって自分が思っているよりもぜんぜん知られていないんだな。これまで自分がいかに狭い世界で仕事をしていたのか。そんな当然の事実を痛感させられました。
ただ、そこで「待てよ」と疑問に思ったのが「そもそも、どうして、コピーライターは『案件』として依頼されるのを待っているのだろう」ということです。
むしろ、案件化するまえの段階からお客さんと日常的にディスカッションしつつ、本当に解決すべき言語課題がなんなのかをともに見極めていくほうがいいのではないか。そして、その課題を単発的なプロジェクトベースではなく中長期的な関係性のなかで改善していければ、より理想的なパートナーシップを築くことができるのではないか。
そんなことを考えているうちにふと頭に浮かんだのが『言葉顧問』というサービス名です。いわゆる「法律顧問」があるならば『言葉顧問』があってもいいんじゃないかと思いました。
とはいえ「顧問」だなんて言っておきながら、たしかまだ独立して半年ばかり過ぎたころの話で。今振りかえればよくわからないことだらけだったのですが、いくつかの企業がこれまたおもしろがって手を挙げてくれました。こうして『言葉顧問』としての活動が2018年からスタートしたわけです。
基本的な流れとしては、まずお客さんへヒアリングしながら「言葉まわりで解決したい課題感」をおたがいに共有します。そこから『言葉顧問』のスパンを定め、各月の検討すべきテーマへと落としこみ、月額の言葉顧問料をご提案。あとはオンラインベースで定期的にディスカッションしながら一つひとつの議題を一緒に掘りさげて考えていきます。いまのところ以下の3つがメインの役割です。
- 1. 言葉まわりの課題解決
企業・ブランド・サービスなどにおける全般的な言語課題を解決する。 - 2. ライターならぬライパー(ライティングパートナー)
日常的に発生するライティングについて継続的かつ包括的に提携する。 - 3. 社内プロジェクトの監修・研修
社内における言語化プロジェクトの監修や研修プログラムを実施する。
といっても、あまり肩苦しく考えすぎず、雑談するような感じで進めていく経営者さんなんかもいたりして。その点、コピーライターって話し相手には向いているんじゃないかなと僭越ながら感じています。話すのって言葉と言葉のやりとりなので。
結果として、この『言葉顧問』というアイデアは、まわりのコピーライターさんたちからも好意的な反応をいただけたのですが、正直なところ思ったよりも単純な話ではなく。むしろ試行錯誤の連続でした。当初は悩ましいことのほうが多かったかもしれません。まあ、だからこそやってみてよかったなと今は思います。お手伝いさせていただいたお客さんたちからのありがたい声なんかを聞くとなおさら。これからもプロジェクトベースでの仕事はもちろんですが『言葉顧問』としての役割も増やしていけたらなと思っています。
などとちゃっかりアピールしつつ今回はこのへんで。
田辺ひゃくいち
ただの『一(ぼう)』代表。『よくわからない店』店主。コピーライター。コンセプター。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、オトナの会社や中国法人の支社長など10年で10職以上を流転したのち、第52回宣伝会議賞グランプリを受賞。もうすこし生きてみることに。東京や大阪の制作会社を経て独立。現在はコンセプトづくりを中心に企業の『言葉顧問』なども務め、2021年には家族と暮らす東京・小平市に『よくわからない店』をオープンした。足立区生まれ足立区育ち。偽名。
Twitter:https://twitter.com/tanabe101