セリフまで女優に託されていた――主演映画『やがて海へと届く』製作秘話(ゲスト:岸井ゆきの)【前編】

「城山羊の会」の舞台に立つ

澤本:山内さんの舞台に最初に出た時って、どんな気持ちだったんですか?あれはオーディションだよね?

岸井:そうです。オーディションに受かって。それまでも「城山羊の会」の舞台は観ていたんですけど……。それこそ、吹越満さんにおすすめされた劇団だったんですよね。それで……。どういう気持ち?!

権八:あはははは!

澤本:あの劇団て、ある種特別な劇団じゃないですか?

岸井:そうですね〜、どことも違う……。でも、その時はとにかく全力でしたね。「この子にしなきゃよかった」って思われないように。経験が豊富だったわけじゃなかったし、まだ舞台をいくつかやったぐらいだったから。「ちゃんとやろう」とは思っていたんですけどね。山内さんて、最初の方はそんなに稽古場に来ないんですよね。台本を書いているので。

権八:出来上がっていないからね(笑)

岸井:出来上がっていないから、途中までやって……。それを、山内さんが書いている間にみんなでつくって。それで、山内さんがまた来て。「ちょっとこういう風にしてみたんですけど」ってやってみせると「う〜ん、そ・こ・が、違いますねぇ〜!」って。

一同:あはははは!

権八:いま、モノマネが入りましたよ、ヤマケンの(笑)

岸井:「その位置、じゃあ〜、ありません」

澤本:あはははは!

権八:そうそう(笑)

岸井:って、言われて(笑)で、また帰っていって。「あの位置じゃないみたいっすねぇ〜!」って言いながらつくっていって(笑)それでまた、少しずつ台本が来て。みたいな感じでやっていたので、ほんとに「部活動」みたいな感じでつくっていましたね。

澤本:へえ〜。

権八:楽しそう!

岸井:楽しかったです。

澤本:僕は結果としてしか観ていないからさ。つくっている過程とか、途中っていうのは見たことがないんです、演劇は。

岸井:そうですよね。

澤本:喋り方は一緒だな、と思ったけど。

岸井:はははは!

権八:たしかにね〜。その山内監督の『友だちのパパが好き』(ギークピクチュアズ制作
2015年公開)っていうのが衝撃的に面白くって、最高でした。

岸井:ありがとうございます。

権八:でもね、いつも山内ケンジ監督のプロフィールには書かれていないんですよ、『友だちのパパが好き』がね。抹消したいのかな?と。

岸井:いやいやいや!(笑)抹消したくない!(笑)

権八:ね〜!素晴らしい映画でしたよね(笑)

岸井さんは「ムキムキになりたい」!?

中村:岸井ゆきのさんにも、毎回ゲストの方にお願いしている「20秒自己紹介」というコーナーをお願いできればと思います。この「すぐおわ」は、広告の番組ということで、ご自身の紹介をラジオCMの秒数、20秒に合わせてやっていただきたいという。

岸井:……。

中村:あはははは!

岸井:20秒は、難しい……。「用意、ドン!」て、言われるんですか?

中村:ゴングが「カーン♫」って、鳴りますんで。心の準備はよろしいですか?それでは、どうぞ〜!

カーン♫

岸井:岸井ゆきのです。30歳になりました。趣味は、映画鑑賞とジムに行くことです。あと、フィルムカメラをいつも撮ります。え?10秒……!?えっと〜、ヤバい、ヤバい……。フルーツが好きです!

SE:終了音(カンカンカーン!)

一同:爆笑

澤本:すごい……。自己紹介史上、まれに見る面白さだったね!(笑)

権八:いや〜、素晴らしかったですね〜!後半、「フルーツが好き」しか言っていない(笑)

中村:そうですね、後半10秒の情報量に問題がありますね(笑)

岸井:あはははは!

澤本:ラジオCMとしての情報量が少なかったから、確実に伝わったよ。「フルーツが好き」ということは、全員に伝わったと思う。

岸井:そうですよね!(笑)

中村:広告的にはもう、「ワンメッセージ」でね!

澤本:そうそうそう。

権八:そっか。「10秒です」って言われて、テンパっちゃったんだ?

岸井:そう、テンパりました。意外と長いですね!

澤本:長いですよ、意外と。

権八:いやー、でも、ちょっとコレはどうなんだろう?30歳……。

中村:全く見えないですね!

権八:ウソでしょ?!(笑)

岸井:そうなんですよ、だから「言っていこう」と思って。

権八:え〜、言わなくていいんじゃない?

岸井:言わないほうがいいんですか?

権八:分からないけど(笑)

中村:17歳ぐらいですけどね、なんかね。

岸井:はははは!

権八:いやいや、だって大学の新入生の役とか、全然いけてたじゃない?

岸井:そうなんですよぉ〜!

権八:え、イヤなの!?(笑)

岸井:いや、いいんですかねぇ〜?

中村:もっと「重鎮感」を出したいんですか?

岸井:いや、「意外と30なんだ?」みたいな反応が、ちょっとショックでした。全然隠していないのに、「あ、意外といってるんだ?」って。その「意外と」は、どこから来たんだ?!って(笑)

権八:いやいや、単純に「そうは見えない」っていうね。

岸井:見えないんですよね〜!(笑)

中村:あと、「ジム行ってるよ」も、全く見えない。

岸井:あははは!本当ですか?

権八:映画鑑賞はしてそうだけど。

中村:うん、あと読書はしてそうだけど。

岸井:映画鑑賞も読書もするし、ジムにも行きます。

権八:ジムは、何をしに行くんですか?(笑)

岸井:ボクシングを。

権八:ええ?

岸井:ずっと続けていて。今度公開する映画でボクシングをやっているんですけど。あまりにも面白くて、今も続けていてもう一年半ぐらいになりますね。

澤本:じゃあ、一年半ずっとボクシングジムに行ってるってことですか?

岸井:行ってます。

権八:ええ〜??

澤本:じゃあ、縄跳びから始めてるの?

岸井:はい、縄跳びから。

澤本:すごいね〜。疲れないですか?

中村:澤本さん、ボクシング知ってるんですか?

澤本:ボクシングジムはね、僕は昔、一日体験をしたことがあって。

中村:「一日体験」って、一日でやめちゃったんですか?

澤本:結局、2、3回は行ったけど、結構大変。

中村:いや、それは大変でしょう。

澤本: なんかさー、こうやって前に進むじゃない?

岸井:あ、「シュッ、シュッ!」って(笑)

中村:スパーリング的な。

澤本:あれ、上手い人がやるといいんだけどさ、おれ下手だから、恥ずかしくてさ(笑)鏡に映るんだよ、あれ。

岸井:私も最初は、シャドーボクシングできなかったです。恥ずかしくて。

権八:何が楽しいんですか?ストレス解消?

岸井:最初は、「コンビネーションミット」を習って。最初は映画のためだったので「殺陣」なんですよね。

澤本:はいはい。

岸井:だから、ダンスみたいに決められた振り付けを覚えて、その通りにやっていくのが楽しかったんですけど。映画の撮影が終わって、型どおりにやる必要がなくなった時に、コンビネーションミットができるようになった喜びよりも、実際に手合わせした時に「どこが空いているから、どこにパンチを打ち込む」みたいなことが面白くなってきて。

権八:ほぉ〜、ガチだね!

岸井:そう。「この後に、ここを打てるな」とか。「これを避けたら、ここが空くよな」とか。そういうところを考え始めると、本当に奥が深くて辞められなくなる、という。

権八:はっはっはっは!嬉しそうな顔をしていますよ、今。

岸井:すごく面白いですね。

中村:でも、岸井ゆきのさんは、人生で殴り合ったことはないんじゃないですか?

岸井:ないです。ケンカとかも全然しないんですけど。

中村:なさそうですよね。

岸井:でも、「そういうことじゃない」って気づいたんですよ。ボクシングっていうのは。

一同:へえ〜!

岸井:もう、「心理戦」というか。何ていうんですかね、すごい “清い” ものなんですよ。

一同:ははははは!

中村:清い、清らか?

岸井:はい。

権八:じゃあ、試合とかもするんですか?

岸井:はい。タッチですけど。アザとかつくると、絶対会社に怒られちゃうんで。

権八:そりゃそうだよね(笑)

岸井:タッチボクシングみたいな感じでやるんですけど。自分がずっとやってきたコンビネーションをどんどん応用して、どう打てるか?みたいなことをやるんです。強くなりたいですし……。

権八:強くなりたい?

岸井:そう。強くなりたいんですよ、ずっと。

権八:ええ〜?(笑)そうなんだ?

中村:そんな、ルフィや孫悟空みたいなセリフが岸井さんから出てくるとは、思わなかったですけど。

岸井:ずっと「強くなりたい」って思ってきて。ムキムキになりたいんです、心が。

澤本:あ、心がムキムキにね?

権八:面白い人ですね〜(笑)

“喪失”に向き合う――主演映画『やがて海へと届く』

中村:岸井ゆきのさん主演の映画、『やがて海へと届く』(中川龍太郎監督)。これ、素晴らしいですね。作品では、大切な人との喪失に向き合う主人公、「真奈」の役を演じられておりますけれども。こちらの作品について、根掘り葉掘り聞きたいと思ってます。

権八:そうだよね、どんな話なのか。

澤本:岸井さんの口から、どうぞ。

岸井:はい。『やがて海へと届く』の主人公、真奈には、大学生の時に出会った「憧れの存在」みたいな友人がいるんですね。その子が数年後に「海を見に行く」と言ったまま、どこかへ消えてしまうんです。その子の名は「すみれ」というんですけど……。

権八:浜辺美波ちゃんが演じていますね。

岸井:そうです。「すみれ」の残骸だけが残された、という感じが私にはするんですけど。その残りのかけらを探しに、真奈自身も旅に出るんですね。そこでいろんな人に出会って、喪失と向き合った先に、一歩だけ前に踏み出せる、という映画です。

一同:う〜ん。

中村:初めにこの脚本を読まれた時の感想は、どんなものでしたか?

岸井:そうですね。一番最初に読んだ時と今とでは、全然印象が違っていますね。このお話が来たのは、3年前でした。それが、新型コロナの関係でいろいろと時期が遅くなり、昨年の撮影になってしまって。そういう状態になってから、監督が何度も脚本を書き直して、撮影の直前まで脚本が変わったんですね。真奈の「喪失」については最初から描かれていたんですが、その後、撮影の延期で脚本が書き換わっていくのを、リアルタイムで経験していたので。

一同:はいはい。

岸井:そのことが真奈の喪失と、より重なっていきましたね。最初に読んだ時とは世界の状況が変わってきていて、脚本も変わっている。たぶん、監督が描きたいことも日々変わってきていたはずで。自分自身で経験したことが、真奈という存在と重なってやりやすかった、という感覚がありますね。私自身がより真奈でいられる時間になったな、と思います。

権八:監督もお若い方ですよね。中川龍太郎さん。

岸井:そうなんです、年が近いんですよね。

権八:とはいえ、重厚な作品に仕上がっていましたね〜。

中村:聞くところによると、監督はなかなか言葉での表現が難しい方というか?

岸井:中川監督は、詩人なので。演出も少し独特というか、ちょっとポエム……。なんて言うんですかね?(笑)

権八:「ポエジー」というか?

岸井:そうですね、抽象的な部分もあったりして。でも、この作品のコピーにもなっているんですけど「私たちは、世界の片面しか見えていないのかもしれない」と。現場では、「中川さんの言葉って、私の言葉で言うとこういうことですか?」という確認をよくしていましたね。

澤本:あ~、なるほどね。

岸井:それがこの作品には結構合っていたんじゃないかな、と。ひとつの言葉を両サイドから見て、演出する側とされる側で確認し合う。結果的には、それがこの作品にすごく合っていたのかも、と思いました。

権八:なるほど。

次ページ 「中川監督の「独特な映画づくり」とは」へ続く

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