グローバルの広告の祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」(以下 カンヌライオンズ)が2022年6月、3年ぶりに現地フランス・カンヌの会場で開催されました。
カンヌライオンズは、世界3大広告賞といわれるOne Show、クリオ賞の一つで、その規模はアワードの中で最大級。各国から厳選された審査員によって、全29部門で審査が行われ、ショートリストを選出。その中から、グランプリ・金賞・銀賞・銅賞が選ばれます。
カンヌライオンズ会長のフィリップ・トーマス氏は、日経新聞の取材に対し、「”企業のパーパス(存在意義)”や”持続可能性(サステナビリティ)”が今大会の大きなテーマとなる」とし、「ブランドは自らのパーパスを伝えるためのコミュニケーションを行うこと、またビジネスをサステナブルにしていくことが重要になる」と答えました。
出品作のラインナップにおいてもパーパスは大きなキーワードどなり、結果的に受賞した作品の3分の2以上が、アクセシビリティ・ジェンダー平等・公衆衛生・気候変動などの社会問題に対する取り組みを訴える”パーパス主導型”広告であったと言われます。
それでは、2022年カンヌライオンズ受賞作品のうち、実際に自社のパーパス(もしくはブランド理念)を正しく理解し、その真実性(オーセンティシティ)を作品の中心に据えて発信したキャンペーンとはどのようなものだったのでしょうか。その企業のパーパスとともに、ご紹介します。
VICE World News 「The Unfiltered History Tour」
この、博物館提供”ではない”、「The Unfiltered History Tour(フィルター無しの歴史ツアー)」は、大英博物館の収蔵品を見て回る独自のAR(拡張現実)ツアーです。こちらはアメリカのニュースメディアVICE World Newsによる制作で、大英博物館の広告ではありません。このツアーでは、収蔵されている芸術品の一部は戦乱や植民地化などによって略奪されたものであり、その展示物が元々あった国の人々の生の声を伝えます。さらに、博物館側の目線で勝手に設定してしまっているフィルターを批判さえしています。そうしたフィルターを外して歴史を眺めることで、今まで見えてこなかった事実を自ら体験しようと訴えているのです。
これは、VICEのタグラインである「Original reporting on everything that matters(重要なことはすべてオリジナルで報道する)」に基づいて作られたもので、多くの人々に、とらわれた視点からではなく、別の視点から事実を把握することの重要さを再認識させました。本作は、Radio&Audio部門、The Brand Experience&Activation部門、Social&Influencer部門でグランプリを受賞。Spikes AsiaやOne Showといった他のアワードでも賞を総なめしており、本年度の注目作品です。
Suncorp「One House to Save Many」
Suncorp Groupはオーストラリアとニュージーランド地域で最大の損害保険グループの一つで、「Building futures and protecting what matters(大切なものを守り、未来を築いていく)」をパーパスとしています。異常気象の被害を受けた人々の惨状を実際に見てきた損害保険会社である同社は、大学機関や専門機関と協力して、地域に根ざした具体的かつ革新的対応策となる「災害に耐えうる、人々を守る強靭な家」の提供を行っているストーリーをCMにしています。この広告は Innovation部門のグランプリを受賞しました。
WE Capital「Data Tienda」
Creative Data部門とGlass部門のグランプリを受賞したこのキャンペーンを企画したのは、メキシコのWE Capitalという金融サービスの会社。メキシコの女性たちが社会的信用を得られておらずローンが組めない問題を解決するべく、実際に体験した女性の声を用いて伝えています。このキャンペーンでは、地元の小売店などから女性たちのアナログ取引データを集めて審査をする「データ・ティエンダ」という新システムを開発。女性活躍支援の促進をしていることを伝えています。
これは、WE Capitalのミッション「To advocate and invest in female leadership with the dual aim of promoting social impact and generating financial returns.(女性のリーダーシップを擁護し、投資することを、社会的インパクトの促進と財務的リターンの創出の双軸から行う)」に基づいた戦略によるものです。
Decathlon「THE BREAKAWAY: THE FIRST ECYCLING TEAM FOR PRISONERS」
デカトロンは、「TO BE USEFUL TO PEOPLE AND TO THEIR PLANET !(人々と、地球の役に立つ)」をパーパスとして世界に展開する、フランスのアウトドア&スポーツ用品メーカー。公式ページには、そのパーパスの補足情報として「経験豊富なアスリートであるデカトロンは、スポーツを愛する情熱をできる限りたくさんの人と共有することを目指しています」と掲げています。
今年のカンヌライオンズCreative Strategy部門でグランプリを受賞した本作は、デカトロンがベルギー最大の刑務所の囚人のために立ち上げたeサイクリングチーム「THE BREAKAWAY」キャンペーン。「スポーツを愛するできる限り多くの人へ」というパーパスに沿って、囚人たちが仮想プラットフォームでeサイクリングの練習およびレースに参加できるように作られたものです。自転車、スマートトレーナーを含むすべての機器が刑務所内に提供され、外部の一般の選手とレースを競うことを可能にしています。
P&G Whisper「The Missing Chapter」
こちらは、インドのP&G社による女性用生理用品「Whisper」のインド国内向けのキャンペーン。インドでは月経への偏見とタブー認識が今日でも続いており、女子に対しての教育不足のために、思春期の少女の71%は始まるまで月経が起こることを知らず、月経開始をきっかけに学校を中退してしまうケースも。そこでWhisperは、「#KeepGirlsInSchool(女子を学校にとどめよう)」をキーワードにこちらの動画「The Missing Chapter」を制作。生理教育の欠如がインド社会にもたらしている影響を伝えました。
こちらは、全世界共通でのP&Gのパーパス「現在、そして次世代の世界の消費者の生活を向上させる」、そしてインドにおけるWhisperのミッション「to help girls & women reach for the stars and unleash their true potential(女子・女性が目標に向けてリーチし、真の可能性を発揮できるよう支援すること)」という二階層の理念にしっかりと基づいたものになっています。このキャンペーンは、SDGs部門でのグランプリに輝きました。
Google 「Real Tone」
AIによる画像認識は、いまや多くのアプリやサービスで広く活用されていますが、実は肌の色が濃いほどうまく機能しないことが多く、肌の色が黒い人々にとっては使いづらい一面もありました。そこでGoogleは、彼らの理念である「to organize the world’s information and make it universally accessible and useful. 」つまり「誰でもユニバーサルにそして便利に使えるよう、世界中の情報を整理する」を体現すべく、この問題を解決する「モンク・スキン・トーン(MST)スケール」をハーバード大学と共同で開発。肌の色調を10段階で認識して顔認識機能の改善に取り組みました。
GoogleによるスマートフォンGooglePixelには、これを活用した「リアルトーン」と呼ばれるフィルター機能が追加され、さまざまな肌の色を的確に認識・表現することを可能にしています。こちらのキャンペーンは、カンヌライオンズMobile部門のグランプリを受賞しました。
いかがでしたか。このように、商品の広告ひとつをとっても、核となるパーパスを軸に発信していくことがいかにブランドを確固たるものにしていくか、そして世間の共感を得ることができるか、これらの受賞作品が良い参考になることでしょう。
あなたのブランドは、パーパスを真に理解して、メッセージを発信できていますか?