『流浪の月』が観る人の心に残り続ける理由(映画監督・李相日)【前編】

李監督のCM撮影手法に、感動

澤本:李さんがゲストに来てくれるとは思わなかったから、僕ら緊張していますよ、今日。

:いやいや、楽しい「枕」につい引き込まれてしまいました(笑)。

澤本:あははは!枕、長かったですよね(笑)。

:『コピー年鑑』読んでみたいなあ~って思いました。

中村:あははは!李監督といえば、まず初めに『フラガール』(2006年公開)、『悪人』(2010年公開)、『怒り』(2016年公開)などを手がけてきた、日本を代表する映画監督でいらっしゃいます。今回は澤本さんのリクエストということで。

澤本:リクエストというと、なんだかおこがましいですけど。

権八:ご紹介、と。

澤本:「ご紹介」と言うと、友だちヅラみたいでもっとおこがましいので(笑)。どう言えば良いんだろう?李さんにお願いして、一度テレビCMを撮ってもらったことがあって。

権八:そうなんですか?!

澤本:そうなんです。その時に、撮影の熱の入れ方にショックを受けて。自分たちが経験してきたCMの撮り方じゃないのよ。で、あまりに感動して。

権八:それはなんのCMだったんですか?

澤本:日本郵便のテレビCMで。すごく簡単に言うと、郵便配達の人ってどんなところにでも配ってくれるじゃない?こんなところにもちゃんと配って気持ちを届けてくれるんですよ、という様々な配達シーンを切り取るというものだったんだけれど。

権八:うん。

澤本:雪の中で配達されているシーンを監督にお願いしたんですよ。そしたら、プロデューサーはギークピクチュアズの早坂匡裕くんだったんだけど、彼に「監督はどうされてますか?」って聞いたら「今、監督はロケハンに行ってます」って。

中村:ええ!?

澤本:監督自らスノーモービルに乗って「ここがいい、あそこがいい」といろんな所をずっと回り続けていて、まだ場所が決まっていませんって。

権八:これね、ふつうロケハンというのは「ロケコーディネーター」という専門の方がいて、その人たちが「こことここは、どうですか?」という候補を挙げてくれて、ということが多いんですよね。だから、監督自らがスノーモービルを走らせてやるというのは、いかに異常なことかがわかるという……(笑)。

中村:そうですよね。監督、その話は本当ですか?スノーモービルの話は。

:スノーモービルに乗ってるカッコいい姿を思い浮かべると、たぶん違うと思う(笑)。

一同:(笑)。

:運転できませんし。ほとんどが歩きでしたよね。

一同:ええ~!?

澤本:歩いたんですか?!

権八:もっとすごいじゃないですか(笑)。

:「かんじき」みたいなのをはいて。

中村:コーディネーターの方には頼まずに「自分で探す」と言われたのは?

:なんていうんですかね。「配達が大変」というテーマだったので、体感しないとわからないと思って。景色だけというよりは、雪も時期があって限定されているので、実際にどれぐらい大変な場所なのかは行かないとわからない、というだけの理由です。そんなに複雑なことは何もなくて。

権八:いや、それがサラッと言えるのはステキなことで。本当に純粋にものづくりに真摯な方なんだな、というのがそのエピソードだけをとってもわかりますね。

澤本:で、さらにね。雪深い山奥での撮影に合流して「どこで撮っているのかな?」と思ったら、「あそこで雪かきをされています」って言われて……(笑)。現場で雪かきをしているのよ。カメラの位置決めをするために自分で雪をかいて。監督が雪をかくもんだから、周りの人もみんながバーッと雪をかいてくれる。

中村:李監督、今の話は本当ですか?率先して雪かきをされた、というのは。

:率先してというか、人を呼んでカメラポジションをどこにして、俳優さんがどこで動くかを決めなければいけないので。でも、雪だからみんなでワーッとは来れないんですよ。踏み荒らしちゃうと、もうダメだから。そうすると、カメラ周りで決めたことが周りの人に伝わるまでにちょっと時間差がある。だったらその場でやれば「あ、ここがカメラポジションだな」ってわかるし、そうすると周りも「急がなきゃ!」っていうプレッシャーにもなる、というのがありますよね(笑)。

6年ぶりの新作映画『流浪の月』が公開

権八:いや~。個人的には、李監督が澤本さんの話をニコニコしながら優しいお顔でずっと聞いていらっしゃる、というのがすごく印象的で。

中村:でも、映画に関してはめちゃくちゃ厳しいとうかがっていたので、めちゃくちゃ緊張して僕らスタジオに入ったんですけど。ホントにニコニコされているんですよね。
あ、自己紹介前にだいぶ話しちゃってすみません!新作映画『流浪の月』に関してたくさんうかがっていきたいのですが、毎回ゲストにお願いしている「20秒自己紹介」というコーナーがございまして。
この「すぐおわ」は、広告の番組ということで、ご自身の紹介をラジオCMの秒数20秒でやってください、という。監督、よろしいでしょうか?

:20秒……。余ってもいいですかね?

中村:もちろん、お好きなように。では、行きましょうか?それでは、どうぞ!

カーン♫

:前作『怒り』より6年ぶりに映画を撮りました。6年。忘れられてしまうギリギリで、今回『流浪の月』という広瀬すず、松坂桃李W主演の映画を皆さんにお届けしたいと思います。李相日です!

一同:ははははは!

澤本:ちゃんと20秒使い切りましたね(笑)。

:途中で何を喋っているかわからなくなって(笑)。結構プレッシャーかかりますね、このカウント。練習してくればよかった(笑)。

中村:改めまして、 5月13日に公開になった映画『流浪の月』。どんな内容なのか教えていただけますか?

:これは一昨年、本屋大賞を獲った凪良ゆうさん原作の小説をベースに映画化したもので。更紗(さらさ)という名前の10歳の少女が公園でひとりでいたところ、大学生の松坂桃李くん、文(ふみ)と出会いまして。2人はある事情があって一緒に彼の家に行くことになるんですけど、それが結局、誘拐事件ということになり、離れ離れになってしまう。
それから15年後に再会して、運命の歯車が動き出すんですね。SNSとかでいろんな誤解を浴びながらも、2人の絆、つながりを深めていくという、そういった物語ですね。

中村:ありがとうございます。これはお2人の感想としてはいかがでした?

澤本:僕は試写に呼んでいただいて観たんですけど、その直後から周りの人々に「観てください」って言いまくりましたね。観終わった後に、「なんでこんなに残るんだろう?」って思って。「もしかしたら、僕も松坂桃李くんの立場と同じなのではないか?」とか、一瞬そんな風に思ったりして……。ごめんなさい、うまく説明できないんですけど。

中村:いや、そうですよね。あの「残り方」はすごいですよね。

澤本:もう、皆さん観てください。別に李さんの回し者でもなんでもなく、本当に観ていただかないと、なかなかこの気持ちは説明できないという感じで。

権八:そうですね。僕はスケジュールの都合でオンライン試写で観たんですけど。夜中に観たら眠れなくなっちゃって(笑)。なんていうのかな、「打ちのめされる」というと簡単な言い方になっちゃうんだけど……。すぐに思ったのは、この映画を李さんが撮る「理由」ですね。なぜ今、これを6年ぶりに撮られたんだろう?と。その思いはどこから来ているんだろうと、観終わった直後に気になりましたね。

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