世界がむつかしくなればなるほど、creativityが決定的な能力になる。~2022年カンヌライオンズを振り返って

文・古川裕也

いまクリエイティブがほんとうに生み出せるものとは何か?

3年ぶりにリアル開催だったCannes Lions International Festival of Creativity(以下 カンヌ)。

オンライン開催でわかったのは、
ライブでなければ誰もセミナーを見ない。
アワードもオンラインで発表されるだけだと、それほどうれしくない。
他のアワード・フェスティバルと違って、よくも悪くもカンヌとは、リアルな「場」であり、「人の集まり」だということ。そこから生まれる祝祭力のようなものこそ、カンヌ独自の魅力だということ。繰り返しますが、よくも悪くも。

今年は6月20日月曜から24日金曜までの5日間開催。火曜日2日目の夜、久しぶりに授賞式に参加した。
2時間で7カテゴリーを消化するタイトな時間割なので、何がシルバーかブロンズかちゃんと把握するのがむつかしい。てきぱきゴールドが流れ、受賞者表彰・撮影。グランプリが流れ、受賞者表彰・撮影。それを繰り返す。みなさん参加された3年前のあの機械的な進行がさらに30%くらい速度が上がっている感じ。
要は、グランプリとゴールド40本くらい立て続けに見るだけの2時間。それも会場であるパレの一番大きいリュミエール・シアターで。満席の1階席でみんないっしょに大スクリーン大音量で。

アワードセレモニーの会場の様子。

これが素晴らしい時間だった。
『アメリカン・ユートピア』や『トップガン・マーベリック』とはまた別の特別な2時間。忘れていた感覚で、体内に潜んでいた何かが呼び起こされる感じ。アタマではなくカラダで見ている感じ。完全に持っていかれました。1分か2分の映像を見て、いったん途切れて、また1分か2分見るという体験なのだけれど、結果、2時間の間に何十回も息をのんでそれを鎮めて、また息をのむという、ずいぶん振幅の大きい呼吸を繰り返した。
映画でも音楽でも舞台でも小説でも、ほんとにすごいものを浴びた時の、あのふだんと呼吸が違う感じ、細胞の組成要素が入れ替わる感じ。あれをほんと久しぶりに、同業の人たちの仕事によってたっぷり体感しました。

よかった。
しあわせ。

フィルム、デザイン、インダストリアル。
クラフト3部門が集中した日だったのでとくに。
Burberry2作目もSuper. Human.3作目もすごいんだけれど、他と比べて圧倒的なわけでもない、というレベル。
僕たちの仕事はやっぱり素晴らしいのではないかということを身体深く受容しました。久しぶりの体験だった。

おかげさまで、クリエイティブが生み出すべきものは、「快感」であることに改めて思い至った。まず快感がある。瞬間持っていかれて、事後的に意味が立ち現れ、説得される。
新しい意味を伝える行為が圧倒的な快感をもたらす。それは、もちろんフィルムに限らない。
知らなかったことを知る快感。説得される快感。新しい体験をする快感。明らかに世界が少しよくなっていることを共有する快感。鮮やかな手口に遭遇する快感などなど。
確かなのは、快感をもたらさないコミュニケーションでは、誰の何も動かないとうことだ。
「感心」でとどまらず「正しさ」でとどまらず「成果」でとどまらず、新しい快感と新しい意味との結合を発明すること。それをカタチにして見せること。それが僕たちの仕事だ。

次ページ 「アイデアとアクションの間に存在するキモチを動かすという機能」へ続く

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