コピーライターの技術で人を「ホメる」って、どういうこと?(ゲスト:コピーライター 澤田智洋)

【前回コラム】切ない日常も悪くない?「実家が全焼したサノ」が語る、広告の力に込めた思い

今週のゲストは、話題の新刊『わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式 ホメ出しの技術』の著者、澤田智洋さん。世にあふれる「ダメ出し」の対極にある「ホメ出し」とは?実際にパーソナリティの澤本さんを「ホメ出し」しながら教えていただきました!

今回の登場人物紹介

 

※本記事は2022年6月26日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。

人のつくった広告を褒めるのは難しい?

澤本:はい、みなさんこんばんは。 CMプランナーの澤本です。

中村:はい、こんばんは。ウェブ野郎こと中村洋基です。え~、今日は権八さんがいないですね。

澤本:今日はとても空間が広い…それは、権八がいないからなんだな。

中村:はは!澤本さん、最近のお仕事とか、気になる広告はあります?

澤本:お仕事ね。僕らが自分のしている仕事をここで言ってもしょうがないな、と思っていて。何か広告の話をした方がいいじゃない?

中村:はい。

澤本:でも、広告の話しようとするとさ、褒めないんだよね、今日のテーマじゃないんだけど。

中村:え、けなすってことですか?

澤本:けなすというか、何か広告の話をしようとした時に「これ、すごくイイじゃん!」って言うこともたまにあるけど、どっちかというと「これ、ちょっともったいないな」とか言いがちで。

中村:でも、その視点もいいんじゃないですか?

澤本:キンチョーのCMで、キャッチャーがいて、こっちにはバッターが立っていて、試合中に2人がその商品について会話するCMがあるんだけど、見た?それはね、会話は面白いし、シチュエーションも面白い。でも、最後に「デッドボール」を食らうんだよ。

中村:なるほど。

澤本:デッドボールを食らって、それについてひとこと言うんだけど、「いやいや。それ、キンチョーさんだったらデッドボールを食らわさずに、もっと面白くできるんじゃない?」って思ったわけ。

中村:ああ、「デッドボール的なオチ」をつけたかったんだけど…?

澤本:そう。ぼくらって、何かオチを付けたいじゃない?

中村:はい。

澤本:オチをつけてるんだけど、その「オチをつけてる感」に対して「いや、もうちょっと上があるんじゃないかな?」って思ったの。…って、褒めてるんだけど、最終的に「もうちょっと頑張れたんじゃないかな?」みたいな話をしちゃっているので(笑)。

中村:たぶん、それを作ったCMプランナーが今、ドキドキしながら聴いてる可能性があります(笑)。

澤本:でもさ。それこそTCCの審査をやっても、自分が投票した作品がなかなか通らないから。それも含めて「人とずいぶん評価が違っているんじゃないか説」があってさ。

中村:いやいや、いいんじゃないですか?わからないですけど(笑)。

澤本:それで言うと、(審査に)通らなかったのは褒めたよ、僕は。話を無理やりつなげた感じだけどね(笑)。

中村:そうなんです!今日は広告のお話で、なおかつ「ホメる」という話なんです。それでは、早速いきましょうか。今回も超素敵なゲストにお越しいただいております!世界ゆるスポーツ協会代表理事、かつ、コピーライターの澤田智洋さんです。こんばんは、よろしくお願いします。

澤田:よろしくお願いします。

「ホメ出しの技術」の著者、登場!

中村:ご無沙汰しています。澤田さんは2018年11月以来のご登場で、前回は「ゆるスポーツ」や「口説き文句」についてお伺いしました。えーと、この「口説き文句」って何でしたっけ!?

澤田:口説き文句は、今日の「ホメ」につながるような話で。今、僕はスポーツの仕事をしているんですけど、他方でコピーライターもしているので、日ごろ「言葉の研究」をしているんですね。言葉を生活にどう生かすのか、みたいな。それが、ある時には「口説き文句」となって生かされ、ある時には「ホメ」となって生かされる、と。まあ、オーバーラップしてますけどね。

中村:なるほど。その「ホメる」についての新しい書籍を出されたということなので、その話をグッとお聞きしたいんですけど。まずは、毎回ゲストの方にお願いしている「20秒自己紹介」をお願いできればと思います。この「すぐおわ」は一応、広告の番組ということでして。ご自身の自己紹介をラジオCMの秒数、20秒に合わせてやってください、というコーナーです。大丈夫ですか?

澤田:何も準備していないですけど、大丈夫ですよね?(笑)

中村:大丈夫です。

澤本:テキトーで。

澤田:(笑)

中村:たぶん、沈黙で放送事故になっても大丈夫だと思いまず。それではいきます、どうぞ!

カ〜ン♫

澤田:ご無沙汰しています。澤田智洋といいます。「世界ゆるスポーツ協会」という団体を立ち上げて新しいスポーツを作る活動をしながら、コピーライターの仕事もしています。基本的に帰国子女なので、日本語にすごい興味がある関係でコピーライターをやってます。今日はそんな話ができればと思っています。

カンカンカン♫

澤田:あ、でも全然ダメでしたね(笑)。

中村:大丈夫、本当に準備していないことはわかったので。

一同:(笑)

中村:まず書籍の話が1ミリもなかった(笑)。

澤田:あ、それ、忘れちゃいました!

一同:(笑)

中村:澤田さんが今回出版されたのが『私の言葉から世界はよくなる コピーライター式 ホメ出しの技術』(宣伝会議)ですね。これ、何ですか?「ホメ出し」って。

澤田:はい。先ほど自己紹介でバッチリ説明した本なんですけど(笑)、僕はコピーライターを20年ぐらいやっているんですけれども、コピーライターって商品や企業の「いいところ探しゲーム」を、すごく高度なレベルでやっているわけじゃないですか?

中村澤本:はいはい。

澤田:そこにはものすごい工夫があるし、言葉のせめぎ合いがあるし、熱量のぶつかり合いがある。ものすごく前向きに言葉を探り当てて、選んで、発信していくというコピーライターのプロセスとか思考法がめちゃくちゃいいな、と思っていて。実際にコピーライターの皆さんと会議をしていると、結構ホメ上手な人も多いんですよね。「それ、いいね!」みたいな。それって、「コピーライター思考」からもたらされる、前向きなコミュニケーション方法だと思っていて。

中村:うんうん。

澤田:それって最高だな、と。だから、それをもっと一般化できないかと思ったんです。コピーライターが前向きに事象を捉えて、前向きの言葉で定着させることを「ホメる」という文脈に乗せて発信したら、日頃の皆さんのコミュニケーションが「ダメ出し」や「叩く」じゃなく、「ホメる」や「抱きしめる」方向に変わらないかな、という思いで書かせていただきました。

中村:はあ~、なるほど。

「コピーライターの思考法」に衝撃を受ける

澤田:考え始めたきっかけは、新入社員でコピーライターの見習いだった時に、僕の周りの同期たちが宣伝会議さんの「コピーライター養成講座」に通っていて。ある時に「山手線のコピーを考えよう」みたいなお題が出たみたいで。僕の同期が「東京観覧車」っていうコピーを書いていたんですよ。山手線って丸いじゃないですか。

澤本:はい。

澤田:上から見ると観覧車みたいですよね?つまり、山手線に乗るってことは、東京をぐるっと一周する「水平の観覧車」に乗ってるようなもんだ、と。僕、それに結構衝撃を受けまして。めちゃくちゃいいコピーだな、と。山手線という魅力が自明なもの−−便利で、本数がいっぱいあって、大体時間通りに来て、60分で一周できる−−−の別の魅力を「発見」しているわけじゃないですか。「コピーライターって、やっぱりすごいな」と思いました。「この思考法を人生に応用したいな」というのは、その時からずっと思っていたんですね。

中村:ウェブ野郎中村も、本を拝見させていただきました。実は、この中で私だけがコピーライターとしての特訓を受けていないから、この本はまさにコピーライターの特訓になっているな、と思いながら読みました。

澤本:確かに。コピーライターを始めてすぐの人は、これを読んだ方がコピーが書けるよね。

中村:ああ~、確かに。

澤本:「どうやってこのクライアントさんや商品を褒めていこう?」という考え方がロジック化されていて、「こうしたらいいですよ」とやり方が書いてあるから、一番わかりやすいかもしれない。

中村:そうですね。

澤田:「コピーライター養成本」って、そういう雰囲気をタイトルからも表紙からも醸し出しているから、コピーに興味がないと読まないわけじゃないですか?この本の“裏テーマ”としては、まさに「コピーライターなんて全く眼中にない」みたいな人が、「ホメ」っていうキーワードで誘われて読んだ時に、「コピーって面白いな」とか「私も書けるかも」みたいに興味を持ってもらいたい、コピーライターをもう一回盛り上げたい、ということもあります。

「ホメ出し」は人生を変えることがある

澤本:この「ホメ出しの技術」を出したきっかけは、何かあったんですか?

澤田:まず僕の人生を振り返ると、数多くの言葉を受け取ってきたんですね。やっぱり、僕の人生を変えた「ホメ出し」がいくつかあるんです。僕はそれをいまだに全部覚えていて、シンドい時に思い出したりするんですね。

澤本:はいはい。

澤田:かつ、僭越ながら僕が贈った「ホメ出し」の言葉によって、「人生が変わった」みたいな方が何人かいらして。別に「その人の人生を変えよう!」と思っているわけじゃなくて「いい言葉を贈りたい」と思っているだけなんですけど。そういう自分の「ちっちゃい成功体験」みたいなものも含めてオープンにしたらいいんじゃないかと。それに、やっぱりツイッターでは「ダメ出しの嵐」なわけじゃないですか。

中村:そうですよね。誹謗中傷に、罵詈雑言。

澤田:はい。僕はツイッターのコミュニケーションの問題はふたつあると思っていて。ひとつはやっぱり「1: n 」だから、どうしても雑になりがちみたいなことと、結構リアルタイム性も大事だから、あまり言葉を寝かせないで、すぐに言葉を開いていくわけじゃないですか。

澤本中村:うんうん。

澤田:でも、「ホメ出し」って、そこが逆なんですね。「その場ですぐホメなくていい」ということも書いていて。

中村:なるほど!

澤田:一回寝かせて、閉じる、といいますか。ちょっと考える。「あれって本当に“良さ”なのかな?もし良さだとしたら、どういう表現法をすればいいのかな」って。一旦寝かせて、「熟したな」と思ったら、LINEとかでピッ!と送る。

中村:ふ〜ん、面白い!

澤田:だから、ツイッター上のコミュニケーションとは全然違うんですよね。言葉をあえて「閉じていく」「寝かしていく」といったことも、大事な観点として入れています。

相手の「資産」になる言葉を贈る

中村:この「ホメ出し」というのは、相手の「資産」になる言葉というふうに書いてありましたけど。これは、どういうことなんですか?

 

澤田:ホメる時って、つい自分本位でホメちゃう、といいますか。どういうことかと言うと、「自分がよく見られたい」とか、気に入られて「次は仕事に誘ってもらいたい」みたいな思いでホメることってあると思うんです。それはそれでもちろんいいんですが、僕はそっちではなくて「相手本位」でホメたいと思っていて。それを、相手の資産になりうる言葉を贈る、と表現しています。

中村:うんうん。

澤田:言葉の「バランスシート」みたいなものがあると思っていて。生きるというのは言葉を受け取り続けることだと思うんですね。その中に「いい言葉」と「悪い言葉」があるという。
いい言葉は言葉の「資産」ですよね。悪い言葉は「負債」みたいな感覚です。資産にも固定資産と流動資産みたいのがあって、という感じで僕は言葉をまとめていて。
なので、相手の人生の、あるいは相手の言葉のバランスシートにとってプラスになるような言葉の資産を贈ることが、「ホメ出し」である、といったことをこの本では書いています。

中村:なるほどね。ついつい人をホメたくても、冒頭の澤本さんみたいに、「ここをもっとこうしたらいいんじゃないか?」とか言っちゃったりするから、そのバランスを正の方向に持っていく、みたいなことなんですかね?

澤田:そうです。ただ、先ほどの澤本さんのご発言は「ホメ出し」なんですよ、実は。

中村:なるほど!

澤田:あれは「ダメ出し」じゃないんですよね。

澤本:そうなんだ!?

澤田:はい。キンチョーさんなら、わかりやすい起承転結やオチをつけなくてもいい、あるいは、もっとセオリーに当てはまらないオチを入れては?という話でしたよね。
それは「キンチョーさん、あなた、もっとできるよ!」という方向性の言葉がけなので、その言葉を聞いたCMプランナーの方はきっと奮起すると思うんですよね。それはまさに、「ホメ出し」だと思いました。

澤本:奮起してくれるかなぁ…

一同:(笑)

実践!澤本さんを「ホメ出し」してみよう

中村:例えば、澤本さんを褒めるとしたら「すごく面白いCMですね!」みたいなことを言っても失礼じゃないですか、もはや(笑)。あとは、「東大出てますよね」とか。そういう表層的なホメしかできないんですよね、ウェブ野郎中村には。

澤田:僕の中では、人をホメるのにいくつかの軸があるんですね。そういう実績をホメるというのももちろんあるんですけど、その他にも「行動をホメる」「意思をホメる」「未来軸をホメる」などいろいろあって。
例えば、澤本さんで言うと、以前、誰かのツイッターで見たんですが、広告か何かに関するセミナーがあったと。そしたら、澤本さんが最前列で聞いていたというんですね。その方がつぶやいていたのは「そりゃ、若手は澤本さんに追いつけないよな」。だって、こんなに澤本さんは勉強してるんだもん、と。それって「行動軸」での澤本さんの魅力ですよね。

中村:澤本さん、今、ちょっと嬉しいでしょ(笑)?

澤本:澤田は声がいいからさ。同じこと言っても、声がいいとうっとりするね(笑)。

澤田:いやいやいや(笑)

中村:でも、「そういうことか!」って思っちゃった。

澤本:いま聞いて「なるほどな」と思ったのは、僕が最前列にいるのって勉強熱心だからではなくて、基本的に焦燥感からなのよ。つまり、自分が他の人たちに抜かれるのは、ある程度年齢がいっちゃうとある種の「努力」でしかカバーできないから。とりあえず前に行って聴く、ということをしているだけなので、さほど褒められることではないと思っているんだけど。むしろ、焦っているというのかな?

澤田:「いい焦燥感」と「悪い焦燥感」ってあると思うんですけど、悪い焦燥感を抱いている場合は、ライバルを蹴落とそうとか、仕事を抱え込もうとか、パワハラをして鬱憤を晴らす、みたいな方向に行くけど、今の話ってすごくいい方向の焦燥感ですよね?
それって、みんなが持つべきだなと思います。焦燥感って、歪んでいっちゃうので、ものすごくまっすぐな焦燥感だな、と思いながら聞いていました。

中村:今も、ちょっと嬉しかったりしますか?

澤本:今のは、口元が緩んだな。

中村:あはは!

澤本:さっきよりも声のトーンが上がってる、僕。

中村:なるほど~!わかってきたぞ、奥が深いな、これ。

コピーライターは「言葉のデザイン」をしている

澤田:この本にも書いているんですが、ホメるときに嘘は絶対についちゃいけないんですよ。だから今も嘘は一切ついてないんです。本当にいいなと思ったことを、なるべく最適な言葉で言っているだけなんですよね。

中村:そうですよね。本にも「まずは本当に惚れろ」と書いてある。「惚れレンズ」っていうレンズを目につけろ、と。

澤田:そうです。「愛情バイアス」みたいなのを自分にかけて、「本人すら気づいてない魅力であふれてるに違いない」っていう目で見ると、そういうバイアスがかかって、人はそっちにフォーカスするんですね。

中村:なるほどな~。なんだか、幸せな気持ちになりますね。まさにそういう空間を作り出せることが実はコピーライターの技術に含まれている、というのがまずは発見ですよね。

澤田:ホメるって「言葉のデザイン」だと思っていて。自分がどういう言葉をデザインして相手に贈るのか、ですよね。デザインには感染力があると思うんですよ。例えば、建築家のル・コルビュジェが発想した現代建築のデザインが感染していったのと同じように、思想のデザインにも感染力がある。だから、「言葉をどうデザインするか」ということも、コピーライターのすごく重要な責務じゃないかと勝手に思っているんですね。
僕が「ホメ出し」をすると、ホメ出された人が同じ会議でまた別の人に無意識でしているんですよ。たぶん無意識なんですけど、ものすごい伝染・感染してるじゃないか!みたいな。だから、そういう「前向きな言葉のデザイン」の伝染みたいなものを、草の根レベルで浸透させたいという思いもあってこの本を書いたんですよね。

中村:なるほど!

澤田:ダメ出しへの抗い、といいますか。悪口って、気持ちがいいから言っちゃいますけど、そういう大脳新皮質の欲求への抗いでもあるというか。

「いいね!」の中身をもっと言語化していこう

澤本:でも、ホメる時ってさ、権八もそうだし、僕らもそうだけど、すぐに「いいね!」って言うじゃない?でも、「何がいいのか?」っていうのは言語化されていないから、言語化されて、具体化された方が嬉しいよね。

中村:確かに。SNSでとりあえず「いいね!」ボタンを押しておけばいいでしょ、みたいなことで省略されちゃっているけど。中身をホメろ、と。

澤本:「ホメ出し」という技術を使えばそこを言語化できるから。具体的なことを聞くと、相手は嬉しいよね。

澤田:権八さんが「いいね!」って言えているのは、相手の魅力を発見できているんですよね。この本でも「発見がすごく大事」と書いているんですけど、やっぱりその先の「表現」もすごく大事で。中村さんがまさにおっしゃったように、今の時代ってホメることが「いいね!」で記号化されすぎてしまっている。だから、もう一回「ホメる」を言語化すべきだと思っていて。「いいね!」だけじゃなくてそこに具体性も伴うと、さらに相手の資産になりうるし、未来に生きてくる言葉になると思いますね。

中村:これはまさに、子育てとかにもよさそうですよね。最近、よく聞く話ですけど、自分の子どもに「頭がいいね!」と言っちゃうとダメらしいですね。そうじゃなくて、プロセスとか頑張りをホメろ、と。

澤田:実は、そういう心理的な実験もこの本には載っているんです。結果をホメちゃうと、次にチャレンジをするときに失敗を恐れるという傾向があって。でも、プロセスをホメるともっと頑張れるんですよね。「100点取ったの、すごいじゃん!」とだけ言っちゃうと、失敗(100点を取れないこと)を恐れるようになる、という。

中村:言っちゃいますよね〜。

澤田:言っちゃうんですよね。でも、それって親としてすごく大事な振る舞いなのに、そういうことを教えてくれる教科書ってそう多くないですよね。

澤本:僕もまさにそう思っていて。今、ここに来る途中も子どもにLINEでダメ出しをしていたんですよ。

澤田中村:(爆笑)

澤本:「そんなことで、大丈夫か?」みたいなことをやっていたので。そういえば、今からホメ出しについてやるのになぁ〜って(笑)。

澤田:でも、澤本さんのダメ出しは、ホメ出しの可能性もあると思いますので。

澤本:今ね、とにかく既読になる前に消そうと思ったら、既読になってた。

中村:(再び爆笑)

逆転の発想法を「福祉」にも応用

中村:そんな澤田さんは「ゆるスポーツ」や福祉関係のいろんな活動をされているとこの前もお話しされていましたが。今後さらにチャレンジしてみたい分野はありますか?

澤田:基本的に僕の活動は全部「社会モデル」と言われているものを踏襲しているんですね。どういうことかと言うと、福祉には「医療モデル」と「社会モデル」という考えがあって、「医療モデル」は、障害のある人がいた時に「責任はあなたにあるから、努力して健常者化を目指してください」という考え方です。「社会モデル」というのは、「責任は社会の側にあるから、社会の方が変わりますよ。」みたいなことです。そういう社会モデルの考え方って、めちゃくちゃ優しいじゃないですか?ひとりの人間の成長には限界があるけど、社会には変わる“伸びしろ”がもっとあるから、そっちを生かした方がいい。「ゆるスポーツ」をやっているのも「スポーツの側を変えればいいじゃん」ということなんですよ。

中村:ああ~!

澤田:昨年、パラリンピックの閉会式のコンセプトと企画をやらせてもらったんですけど、それも社会モデルの考え方を取り入れていて。例えば、ダンスが踊れないダウン症の方に、「あなたは何が好き?」と聞いたんですね。すると「僕はクロールが好き」と言うので、「わかった、それじゃあ、ここでクロールをして。そしたら、それに合わせてバックダンサー200人が踊るから」と。閉会式は、そういう社会モデルの積み上げでつくっていきました。
社会モデルの観点から言うと、仕事をつくることにも興味がありまして。今は「働けていない障害者」がいっぱいいるんですよ。なので、彼らに合わせて新しい仕事をつくる活動をしています。
特色が色濃く表れる仕事を、ということで「特業」という概念をつくったんですよ。例えば、「ジャッジマン」という「特業」がありまして。このジャッジマンは車椅子の少年で、喋るのも苦手なんだけど、野球の審判が大好きなんですね。だから、野球中継を見ている時に審判の真似をするんです。「アウト!」みたいに。その瞬間だけはハキハキと発言できる。じゃあ、あなたはジャッジマンをやって、と彼に言いました。
それは何かというと、みんなが悩みを打ち明けると、独断と偏見でセーフかアウトかを決める仕事なんですね。「僕はこのまんまのキャリアでいいですか?」って聞くと、「セーフ!」とか叫んでくれるんですよ。

一同:ははは!

澤田:「うお~、ありがとうございます!迷わず行きます。」みたいな(笑)。今はコロナ禍もあって、ますます先行き不透明な時代で、僕らは潜在的に「白黒はっきりつけてくれる人」を求めていると思います。
ジャッジマンはそんな時代と符合しているせいか、今大人気になっていて。そんな感じで、ひとりに合わせて仕事をつくっていく「特業」に、実はすごく力を入れてやっています。

中村:「特業」って面白いですね。なんか、今日のお話は全体的に優しい気持ちになりますね。

澤本:聞いているとやっぱり「広告的な視点だな」って思いますね。さっきの「社会モデルにする」という話も、広告だと「視点を逆にしろ」ってよく言うじゃないですか?
僕らみたいな仕事をしていると、違った業種に転職するとすごいアイデアマンだと誤解されることが多いみたいですけど。それっておそらく「こういう考え方をしちゃいけない」という部分が、僕らの業界には少なくて、むしろ逆の発想をすると褒められるからなんだろうね。コピーや言葉、思考法も含めて、今まで学んで来たものが澤田くんの中で開花してるな、という感じがしますよね。

澤田:いま「ホメ出し」していただきましたね。

中村:完全なる「ホメ出し」でしたね、今。

澤田:ものすごいいい気分になっちゃいました(笑)。でも、まさにおっしゃった通りです。僕の中では、やっていることが広告をつくる時と変わっていなくて。それはホメるのとイコールなのかもしれませんね。「ジャッジマン」という仕事をつくることも、僕の中では「ホメ出し」なんです。“何が魅力なんだろう?”というのを徹底的に観察して、「ジャッジだ!」って判断するわけですから。

「言葉」を自分の手に取り戻そう

中村:いや〜、素晴らしい。優しい気持ちになりましたね。気づけば、あっという間に終わりの時間が近づいてきましたが。最後に澤田さんから、改めてこの新書籍『わたしの言葉から世界がよくなる コピーライター式 ホメ出しの技術』について、リスナーさんにひとこといただけますでしょうか?

澤田:言葉は毎日使うものなのに、僕らは意外と使い方がわからなかったり、言葉に”使われている”ような感覚に陥ることもたまにありますよね。特に流行り言葉を使う時に、主体が”自分”じゃなくて“言葉”なんじゃないかな……。みたいに思うのは、まさに言葉をコントロールできていない状態だと思っています。だから、いろんな意味でふだん何気なく使っている言葉をもっとうまく自分のものにする、もっと自分の手に取り戻す。そして、相手に何かいい言葉を贈るための本になっていると思います。おそらく、読んで損はないと思いますので、よければぜひ、お手に取ってみてください。

中村:ありがとうございます。この番組はTOKYO FMのデジタルコンテンツが集約されているスマホアプリ「Audee(オーディー)」でも聴けますので、もう一度聞きたい方は「オーディー」で検索してみてください。というわけで、今夜のゲストは「世界ゆるスポーツ協会代表理事」&コピーライターの澤田智洋さんでした。ありがとうございました~!

澤田:ありがとうございました!

〈END〉


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