※本記事は広報会議2022年10月号「広報担当者のための企画書のつくり方入門」をダイジェストで掲載します。
行政広報と考え方が異なるシティプロモーション
様々な地方公共団体の職員の方たちとお会いする。最近よく話題になるのは、シティプロモーションを通じて様々な外部パートナーとコミュニケーションをしたり、PR活動のための企画書を自ら作成したりする機会が増えたということだ。
一方、これは自治体関係者に限らずだが、今まで自分たちが行ってきた地域のための広報活動(行政広報・政策広報)とシティプロモーションとではかなり考え方が異なる。自治体が単独で行うPR活動に加えて、共創事業パートナーとともに一体となって行うPR活動の企画力が最近は特に求められている。このため「企画書を書きにくい」という声もよく聞く。今回は地域振興・地域活動を担う企業・団体にとっても欠かせない、シティプロモーションのためのPR企画書の書き方について考えたい。
「3P+P」でPR戦略を整理
まず、自治体のPR戦略について全体像を整理したい。自治体のPR戦略全般を考える際に、私は「3P+P」のフレームで考えることを勧めている。「3P」とは「Public」「Partnership」「Promotion」の頭文字をそれぞれとったものだ。最後の「+P」は「People」を表している(図1)。
自治体のPR戦略において「Public」という概念が優先されることに異論はない。同時に「官民連携」「産学連携」のプロジェクトなど、行政と民間(地域の企業や住民)との間で「連携(Partnership)」することが増えてきた。一方で、地域の魅力を内外に発信する「Promotion」という概念もある。これには地域再生、観光振興、移住の促進など様々な目的があるが、地域住民の地域への愛着度の形成だけでなく、対外的なイメージアップを図ることなど、求められるPRの企画力は多方面に広がっている。
ここで注意したいのは、自治体が行うPR活動は「シティプロモーション」が全てではないことだ。自治体にとって必要なPR活動の中の「シティプロモーション」はあくまで一部に過ぎない(図1のAとBにあたる)。
シティプロモーションには、自治体PRとしてのPublicの側面がある。一方で、通常の政策・行政広報のように情報交換や問い合わせ対応だけに終止して「守り」(待ち)の姿勢でいると、ターゲットの設定は「鈍く」(弱く)なり、「広く・薄く」の広報活動になりがちだ。
一般的に、限られた予算や人材で行うシティプロモーションは、時に積極的にターゲットの絞り込みを行い、「話題づくり(パブネタ)」や「情報拡散」のための仕掛けを自ら戦略的に行うなど、マーケティング視点で費用対効果の高い活動が望まれる(図1のA)。
外部に情報提供を働きかけるPR活動においては、民間企業や住民を巻き込んで協力を得る必要もある。このため、自治体とそれを支援していく住民団体や民間企業、NPO等の交流の場が欠かせない(図1のB)。
また、企業や住民と連携したPR活動においては、通常の行政機関が行う自治体PRよりも「営業活動(Sales Promotion)」という要素も多く含まれてくる。この点については、自治体PRの担当者にとっては民間企業のPR活動から学ぶ要素も多い(Partnership)。「+P」に該当するPeopleは、このPartnershipとは必ずしも重ならない住民全般を示している。
シティプロモーションのPR活動がうまくいかない場合の多くは、あらゆる活動の意思決定がPublic(というの名の行政)とPartner(という名の一部の業界・市民団体及び民間企業など)によって行われ、Promotion(という名の広告出稿やイベント)にリソースが投入され終わってしまうことが多い。
すなわち、シティプロモーションのPR企画書を作成する上で必要なのは、まず❶シティプロモーションは自治体PRという大目標の一部であることを理解し、さらに❷行政(政策)広報に加えていかに「営業」(Sales Promotion)の要素を取り入れ、❸行政単独ではなく住民や民間企業をPartnerとして協力を仰ぎつつ、❹Partner以外のさらに広範囲の住民=Peopleを最終的に巻き込んでいくこととなる(図2)。
「差別化と差異化」との違い
マーケティングの視点を用いることは、シティプロモーションのPR戦略を立案する上で重要だ。特に行政(政策)広報においてはPublic要素が中心であるため、あまり意識されることのない「競合(競争)優位」の概念は企画立案の際に最重要となる。
「差別化」と「差異化」は言葉自体が似ているため混同されがちだが、実際は“似て非なる”ものなので注意をしたい。前者には「優劣の判断をする」という意味があり、後者には「異なるものとして区別する」というニュアンスが含まれている。
例えば、「観光したい街」などのランキングは、あくまで「観光したいかどうか」という特定の切り口(カテゴリー)でのランキング付けである。他の地域に比べて「観光したい」という意味で「優れている」ことのアピール(差別化)につながる。一方で、「美しい坂を歩く街」というような、他の地域にはない独自の切り口(新カテゴリー)を創造し打ち出すならば、これは他の地域とは関係なく地域の独自性のアピール(差異化)につながる(図3)。
なぜ差異化は必要か?
観光先ひとつとっても、生活者は他の地域とあらゆるカテゴリーにおいて「比較・検討」を行ってから、行き先などの意思決定を行う。同じカテゴリー内にある競合地域と比べて、明らかな優位点を提案できるかどうかは、シティプロモーションにおけるPR活動のスタート地点になる。
新型コロナウイルス問題の長期化から、外国人観光客ばかりでなく日本人観光客の動きも未だに鈍い。そのこともあって、自治体による観光振興ひとつをとっても、限られた“パイ”を奪い合うかのように地域間競争が激しくなってきている。だからこそ、単なる競合優位性を強化(差別化)するだけではなく、「差異化戦略=別の価値」という切り口を持つことによって、他地域との違いを明確に言語化して同質化を避けることができ、その結果さらに地域同士の不毛な競争を避け疲弊を防ぐこともできるのだ。
例えば「ふるさと納税」の返礼品を例に考える。どの地域も美味しそうな肉・魚・果物などの地域特産品が返礼の品として提供されている。一方、すでに全国ブランドとして確立している「和牛」というカテゴリーでも、ブランド間での競争は激しい(例:松阪牛、米沢牛、近江牛、但馬牛など)。
このため、どうしても価格競争(コスパ)へとつながりやすい傾向になる。シティプロモーションと連動したブランド戦略、PR活動を行って、同じ切り口(カテゴリー)で差別化を図ってカテゴリー内で仮に優位に立ったとしても、その優位性は直ちに他地域にも共有され模倣されてしまいやすい。
すでに確立された地域ブランドであっても厳しい競争下にあるので、まだ認知度の低いこれからのブランドによる新規参入はますます難しい状況になる。だからこそ、シティプロモーションにより、地域間競争から脱出するために「差別化」だけでなく「差異化」によって、他の地域に模倣されない(真似できない)「排他性」の高いPR戦略を確立する必要がある。
どのように差異化すればいいのか
ここまで見てきたように、シティプロモーションにおける「差異化」は、比較された上で優劣をつけられることのない、既存の軸とは異なる「別軸」での「強み」を創出しPRしていくことだ。つまり「異なる土俵で勝負する」のだ(図4)。
差異化(カテゴリー創出)により競合地域との比較を回避することで、これまで生活者が考えていた比較対象とは別のものとして意識してもらうことが可能となる。例えば、他の地域が「自然の豊かさ」「物価の安さ」「交通の便」など、幅広い層に好まれる項目で競い合っていたとするならば、こうした他の地域にはない新たなターゲットを想定したPR戦略で差異化することも考えられる(例:スポーツ好きが集まる街、ペットに優しい街など)。
続きは…広報会議2022年10月号へ。 地域の差異化を生み出すステップ、PRコンセプトを構築する流れ、シティプロモーションの企画書作成の工程などを解説しています。
広報会議2022年10月号
広報会議2022年10月号は「地域・自治体広報」特集!
CASE1
官民連携でWin-Winのニュース発信
バットマンの「ゴッサム・シティ」と友好都市に
広島県福山市
CASE2
「サウナ×ツーリズム」認知拡大の起点に
国立公園のフィンランドサウナや熱波師の移住
鳥取県
CASE3
「スーパービレッジ構想」実現のキーは村民の理解
広報誌や防災無線ほか地道な周知が重要に
北海道河西郡更別村
CASE4
電子地域通貨の普及率ほぼ100%
機能の簡便性と還元施策をいかに住民へ伝えたか
静岡県賀茂郡西伊豆町
REPORT クラファンでの支援が転機に
里山に起業家を育てる高専設立へ
認可前から支援者を集める広報
神山まるごと高専
座談会
新幹線開業に向け広域で魅力を再発掘
「3市町連携」職員交流での手応え、課題は?
佐賀県武雄市・嬉野市・有田町
REPORT
「こども・若者ケアラー」問題に立ち向かう
「待ちの姿勢」から「攻めの姿勢」へ
兵庫県神戸市