ステマ規制も視野に 消費者庁、第1回ステマ検討会

消費者庁は9月16日、広告であることを明示しない、いわゆるステルスマーケティング(ステマ)に関する検討会の第1回会合を開いた。河野太郎・消費者相は、ステマに対する規制の導入についても示唆した。検討会は全7回実施し、2022年内に報告書を取りまとめる。

冒頭で河野消費者担当大臣は、「広告であることを明示しない、俗にステルスマーケティングと呼ばれる広告手法によって、消費者の合理的な消費行動や商品選択が困難になっている。必要とあらば、何らかの規制をしていくことも考えなくてはならない。検討会を通じて、年内に一定の結論を得たい」とした。

写真=gajus/123RF:

現行の景品表示法では、広告であることを明示しない行為自体は、優良誤認や有利誤認に該当せず、規制できない。2021年11月に消費者庁が出した措置命令では、ソーシャルメディアで高い波及力を持つ、いわゆるインフルエンサーのステマ投稿も広告として認定したが、表示内容に優良誤認があったという背景がある。

OECD加盟国で名目GDP上位9カ国のうち、ステマ規制のない国は日本のみで、米・英・独・仏・伊・加・韓・豪には規制がある。消費者庁によると、日本では規制がないために、グローバル企業が日本でのみステマを実施していると思しきケースがあるという。

国内ではインターネット広告や、ソーシャルメディアの投稿、eコマースサイトのレビュー(商品評価)などで、ステマが行われている実態がある。消費者庁が8月17〜19日、インフルエンサー300人に実施した調査では、ステマを依頼された人は41.0%(123人)で、そのうち依頼を受けた人は44.7%(55人)だった。

消費者庁の資料を基にAdverTimes.編集部作成

消費者庁が実施した広告主や広告会社、PR会社へのヒアリングでも、「ステマをしたがる広告主はいる」(広告会社)、「(ステマの)依頼を断ると『別の会社は受けた』と納得してもらえないことがある。ネット広告業界ではステマが横行している」(広告会社)、「広告主には『世の中の案件はすべて広告案件なのに、なぜ広告と書く必要があるのか』という意識の者もいる」(広告会社、PR会社)といった声が挙がった。

ステマには実態として売上を伸ばす効果が認められ、実行に移す動機となっている。広告であることを開示した投稿は、そうでないものと比べて商品に対する好意度が低くなったり、ECサイトでも、ステマに相当する報酬と引き替えに投稿された不当なレビュー(フェイクレビュー)によって、その商品の需要が増えるという。

「広告であると明示したものと、ステマとを比べて、純粋な感想や口コミと思わせるステマのほうが、消費者を誘引し、売上につながることは多い」(広告会社)

「ステルスマーケティングの売上に対する効果は高く、広告である旨を明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は増加するという体感を持っている。これは広告主にとって非常に魅力的な数字になっているはず」(広告会社)

ステマは、その特性上、消費者から直接的な被害を訴えることが難しい。そもそもステマを受けたかを把握しづらいためで、「消費生活相談の現場でステマに関する相談は聞いたことがない」(消費者団体)。

一方、ステマによる消費者被害を含意する実験結果もある[1]。イギリスで「Amazon」を模した架空のECサイトで、実在する高品質な商品1品、中程度の商品3品、低品質1品を購入してもらう、というもの。1万人の被験者を用意し、対照群として非介入のグループと、星の評価やステマレビュー(フェイクレビュー)を見せたりする5つのグループに分けて、商品の購入割合などを検証した。高〜中〜低の品質評価は、イギリスの消費者団体Which? の分類によるもの。

結果、低品質の商品でも不正に星の数を増やしたグループは、そうでないグループに比べて購入する割合が5.8ポイント高くなった。さらに、星の数の操作とステマレビュー(フェイクレビュー)を実施したグループは、星の操作のみに対して、購入確率が約6ポイント高くなった。

サイト上ではすべて同じ価格に設定していたことから、低品質の商品でも星評価やステマレビューによって実際より優れた商品と誤認し、購入に至ったことが伺える。本来の価格より高くても購入したため、論文では「1ドルあたり0.12ドルの損を消費者にさせていることになる」とした。

実験を紹介した検討会委員の渡辺安虎・東大公共政策大学院教授は、「本来であれば、高品質な商品に向けられたはずの需要が、不正な星評価やレビューによって歪められ、低品質商品に誘導されたことになる。ステマは消費者だけでなく、競争企業も被害を受けていると考えられる」と解説した。

ステマをしないようにする手立てについて、インフルエンサーなど実際に宣伝する人(宣伝者)にも一定の規制を導入し、引き受けないようにする、報酬付きの口コミと、そうでない口コミを見分けられる仕組みを検討する、といった意見が出た。

「実態として日本はステマヘイブン(規制回避地)となっており、グローバル企業にとって、ステマの刈り取り場になっている。些細な例外を弄し、定義を考えていたら2年も3年もかかる。実効性のある規定を早急に設けるとともに、制度のらん用を防ぐ仕組みを考えたい」(委員の壇俊光弁護士/北尻総合法律事務所)

[1] Akesson, J., Hahn,R. W., Metcalfe, R. D., & Monti-Nussbaum, M.(2022) The Impact of Fake Reviews on Demand and Welfare‏ / 編注:イギリスの消費者団体Which? の支援を受けたワーキングペーパー


 

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